132.世界を渡り

 私は、元の世界に戻って来ていた。

 本当に、あちらの世界に行く前と同じ場所に同じ時刻に帰ってきたので、無事に家にも帰ることができ、姉に心配されることもなかった。

 それから、私は普通の日々を送っている。こちらの世界には、魔法なんてものはない。そんなただ当たり前の生活が、なんだか懐かしく思えた。


「……あれ? どこに行ったんだろう?」


 元の世界に戻って来てから少しして、私はあるものを探していた。

 それは『Magical stories』である。あのゲームを久し振りにやってみようと思ったのだ。

 だが、いくら探してもあのゲームは出てこない。置いていたはずの場所に、ゲームがないのである。


「お姉ちゃんも、私の部屋のものは動かしていないと言っているし……」


 お姉ちゃんが、私の部屋を掃除した際に物を動かしたという可能性も考えたが、それもないようだ。

 つまり、『Magical stories』は忽然と姿を消したということになる。それは、とても奇妙なことだ。


「……調べてみようかな?」


 私は、ふと思い立ってパソコンを立ち上げた。

 そして、検索してみる。『Magical stories』のことを。


「……出てこない」


 しかし、私が検索しても『Magical stories』というゲームのことは出てこなかった。

 私の家からだけではなく、この世界からあのゲームの記録はなくなっているようである。


「そんなゲームはなかった……そういうことなの?」


 この世界に、『Magical stories』はそもそも存在していなかった。状況だけ考えると、そんな気がしてしまう。

 だが、私はあのゲームを確かにプレイした。その記憶は、鮮明に残っている。それが夢だったとは、もう思わない。

 私は、既に色々な不可思議な体験をしている。今更、この程度のことで大きく動揺したりはしない。


「何かしらの不可思議なことが起こったんだろうけど……どういうことなんだろう?」


 私は、少し考えてみる。だが、数秒思考した後に、それが意味がないことだとわかった。

 私は、魔法に関してそこまで深い知識がある訳ではない。魔法以外の不可思議なことは、さらにわからない。そんな私がいくら考えても、答えが出る訳はないのだ。


「まあ、これも皆への土産話ということにしようかな……」


 私は、パソコンを落としてからゆっくりと立ち上がった。

 二つの世界は繋がっている。私は、また皆と会うことができるのだ。


「さて、そろそろ行かないとね……」


 『Magical stories』の世界に転生して、私は様々な経験をした。

 そのおかげで、掛け替えのない人達とも出会えた。大変なことも多かったが、それを得られたことは、何よりも幸いなことだといえるだろう。

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派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。 木山楽斗 @N420

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