53.魔女との決着

「う、動けない……ど、どうして?」

「魂に関する魔法は、あなたが開発したものかもしれません。だけど、あなただけのものではないでしょう?」

「こ、こんな魔法は、私も知らない……」

「ええ、あなたの作った魔法を基にして、私とキャロムさんで新しい魔法を開発しました。そうですね……魂捕獲魔法、ソウルキャッチャーとでも名付けましょうか。私は今、あなたの魂を掴んでいるんです」

「なっ……」


 メルティナとキャロムは、魂奪取魔法の使い手に対抗するために、新たな魔法を開発した。

 魔法の知識が豊富で、実際に開発したキャロムとそんな彼を凌ぐ程の魔力を持つメルティナ。そんな二人が協力したこと、そして基準となる魔法があったことによって、短い時間でも新たな魔法が開発できたのである。


「レフェイラさんの体の方は、僕が魂を掴んでいる。そちらからも、抜け出すことはできないはずだ」

「うくっ……」

「原理としては単純さ。魂奪取魔法と拘束魔法と探知魔法を組み合わせた。魂を探し出し、魂奪取魔法と同じようにその魂に触れて、それを拘束する。非常に単純な魔法だろう?」

「そ、そんな馬鹿な……」

「キャロムさん」

「……おっと、僕の悪い癖だね」


 魂を引き抜くこともできるため、実質的に魂奪取魔法の上位互換ともいえるだろう。ただ、実の所、その用途に関して、この魔法はとても明確な欠点を抱えている。

 実は、この魂捕獲魔法は、魂奪取魔法に対抗するための魔法だ。自分の魂を掴み、取られないようにする。そういう用途を想定して作られたのだ。

 その性質上、魂を引き抜こうとする相手に対しては、同じ魔法で無効化することができてしまう。つまり、この魔法の用途は結構限られているのだ。


「さて、それではあなたの魂を引き抜かせてもらいます」

「くっ……」


 だが、からくりを知らないシャザームにとって、この魔法はとても明確な弱点となる。

 メルティナは、ファルーシャの体からゆっくりと魂を引き抜いていく。私達の目に入ってきたのは、ファルーシャとはまったく異なる姿の女性だ。


「……なるほど、それがあなたの本当の姿という訳ですか」

「わ、私をどうするつもりなの?」

「申し訳ありませんが、あなたには滅びてもらいます。これ以上、あなたの好きにされては困りますから」

「くっ……!」


 メルティナの言葉に、シャザームは表情を歪めた。それは、恐怖というよりも相手を憎むような表情である。


「キャロムさん、レフェイラ様の方も私に任せてください」

「……大丈夫なのかい?」

「問題ありません」


 メルティナは、レフェイラの体の方にもその手を向けた。そのまま、彼女はもう一つの魂を引き抜く。

 こちらの体から出て来た魂も、ファルーシャの体から出て来た魂と同じ姿をしている。本当に、あの姿こそが、シャザームの真の姿ということなのだろう。


「さて……」


 メルティナの目の前に、二人のシャザームが集まった。その体は彼女の魔法で固く拘束されているようで、まったく動かない。


「この偉大なる私を……消し去ろうというの? この私の魂が消え去ることが、この世界にとって、どれだけの損失になるのか、あなたは理解しているというの?」

「あなたは散々、私を排除しようとしてきました。それは、どうしてですか?」

「それは……あなたが、私の脅威になるからで……」

「自分より優れた魔力を持つ者を排除しようという考えを持つあなたの存在が、この世界にとって有益になるとは到底思えません。やはり、あなたはここで滅びるべき存在……」


 メルティナは、片手でシャザームの魂を拘束しながら、もう片方の手に魔力を集中させていた。

 それは、私でもわかる程に強大な魔力だ。あの魔力で、彼女は暗黒の魔女の魂を消し去ろうというのだろう。

 彼女のその目には、決意が見える。一つの魂を葬り去る覚悟を、彼女は決めているのだ。


「メルティナ……」

「……アルフィア様」


 私は、メルティナの肩にそっと手を置いた。そのまま、私の魔力を彼女の体に流していく。

 この戦いは、私達の戦いだ。彼女一人に、その咎を背負わせたりはしない。


「……ありがとうございます」


 私とメルティアの魔力が混ざり合った剣が、彼女の手には握られていた。それは、私達の覚悟の剣だ。


「暗黒の魔女シャザーム! 滅びなさい! この世界の未来のために!」

「この忌々しい小娘どもがああああああああああ!」

「はああああああああああああ!」

「ぐああああああああああああああああああああああああああ!」


 メルティナの剣が、二人のシャザームに振るわれた。その魂が引き裂かれて、消滅していく。

 暗黒の魔女が、この学園に巣くう悪夢が、今消滅したのである。

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