33.意識なき者

「なっ……!」

「え……?」


 私とメルティナは、角を曲がって見えてきた光景に驚いていた。

 そこには、レフェイラがいた。しかし、彼女の様子はどう考えてもおかしい。


「……」


 レフェイラは、虚ろな目をして廊下の壁を背にして座っていた。その生気がない表情に、私は嫌な想像をしてしまう。


「レフェイラ……」


 とりあえず、私は彼女に近づいてみた。それにより、彼女が息をしていることがわかる。

 脈も計ってみたが、正常そうだ。どうやら、息はあるらしい。最悪の結果ではなかったことに、私は安堵する。


「ここにいたか……」

「あ、ディゾール様……」

「む……」


 そこで、私を追いかけてきたディゾール様がやって来た。彼は、レフェイラの様子を見て、少し驚いたような表情をする。

 だが、すぐにその表情は切り替わり、私の横まで来た。彼は、レフェイラを見つめている。私達が異空間に囚われていたことをすぐに理解した彼なら、彼女がどういう状態なのか、わかるのかもしれない。


「ディゾール様、彼女がどうなっているのかわかりますか?」

「……これは、魂奪取魔法を受けた状態と酷似している」

「魂奪取魔法?」

「暗黒の魔女シャザームが開発した相手の魂を奪い取る魔法だ。その魔法を受けた者は、意思を失うらしい。身体的には問題はないが、魂が抜けるため、会話等はできなくなる。そういう魔法だ」

「それが、彼女に……」

「状態が似通っているというだけだ。詳しく分析しなければ、断言はできない」


 どうやら、レフェイラは魂奪取魔法を受けたような状態であるようだ。

 もしそうでなかったとしても、彼女が何者かに魔法をかけられたことは、まず間違いないだろう。そうでなければ、先程まで走っていた彼女がこんなおかしな状態になる訳がない。


「さて、それでお前はこいつを追っていたという訳か?」

「え? あ、はい。そうです。彼女が私達を異空間に捕えていた犯人だと思ったので……」

「逃げたことは、感心できん……だが、まあいいだろう。当事者であるお前達にしかわからないこともある。お前達にも事情があったというなら、俺が何かを言う必要もない」

「は、はい……えっと、ありがとうございます」

「礼を言う必要などない」

「あ、はい……」


 ディゾール様は、ゆっくりと立ち上がった。そのまま、彼は来た廊下を引き返していく。恐らく、人を呼びに行ったのだろう。

 その場には、私とメルティナ、そして意識がないレフェイラが残った。

 そこで、私は思い出す。そういえば、メルティナは何故レフェイラを探していたのだろうか。

 そもそも、私が異空間に囚われている間、何があったのか。そこも含めて、色々と聞いた方がいいだろう。


「メルティナ、あなたの身に何があったかを聞かせてくれる?」

「ええ、それはもちろん、構いません。ただ、あなたの身に何があったのかも、聞かせてもらえますか?」

「ええ、それももちろん話すわ」


 メルティナの言葉に、私はゆっくりと頷いた。当然のことながら、彼女もこちらの状況はまったく知らないようだ。

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