11.ゲームの主人公

「……あっ」


 席に向かって歩いていると、窓際に一人の女性が映った。美しい女性だ。その女性を、私はよく知っている。

 彼女が、メルティナだ。『Magical stories』の主人公、特別な魔力を持った女性は、ぼんやりと窓の外を見つめている。

 あまり見つめるのも変なので、私は彼女から目をそらしながら自分の席に座った。すると、彼女の視線がこちらに向く。

 それは恐らく、横で物音が響いたからという単純な理由からだろう。だが、そう思っていても、その視線はそれなりに緊張するものだった。


「……えっと」

「え?」


 私が緊張していると、横から声が聞こえてきた。それは、明らかにメルティナの声だ。

 これは、私に話しかけてきているのだろうか。しかし、どうして彼女が私に話しかけるのか。それが、まったくわからない。


「アルフィア・セントルグ様……ですよね?」

「え? ええ、そう……だけど、どうして私の名前を?」

「座席表に書いてありましたから……」

「ああ……確かに、書いてあったわね」


 隣の席の人間に話しかける。それは、別におかしいことではない。そういうことをする人は、少なくはないだろう。

 しかし、私が知っているメルティナは、そんなことをする性格ではなかった。元人見知りをするような大人しい性格だったはずだ。

 いや、そもそも、平民から貴族に話しかけるということは、とても珍しい。自分より地位が高い人間に、このように話しかけるなんて中々ないことだろう。


「そういうあなたは、メルティナ・ソンブレイでいいのかしら?」

「ええ、そうです」


 私の質問に、メルティナは堂々と答えてきた。その態度も、少し妙だ。大人しい彼女にしては、堂々とし過ぎている気がする。

 ただ、私は彼女らしくないとは思わなかった。むしろ、この堂々とした態度が、彼女らしいとさえ思えたのだ。

 それは、彼女のその堂々さに見覚えがあったからである。ゲームの終盤、成長した彼女が見せる態度に、今の彼女の態度は似ているのだ。


「あの……私は、平民です。だから、こんなことを言うのは、あなたに対して失礼なのかもしれません。ですが、隣の席になった方に何も言わないというのも変な話だと思うので、言わせてもらいます。これから、どうかよろしくお願いします」

「……ええ、こちらこそ、よろしくお願いさせてもらうわ」


 メルティナは、私に挨拶をしたかったようである。隣の席になるのだから、これから色々と接する機会もあるはずだ。そう思って挨拶をするのは、何もおかしいことではない。

 妙だと思うのは、私がゲームの彼女を想像しているからなのだろう。だが、育った環境、歩んできた人生、それによって人間は変わる。もしかしたら、このメルティナは、ゲームとは違う人生を歩んでいたのかもしれない。それで、ゲーム終盤のような性格になったという可能性は充分あるだろう。


「……」

「……」


 今までは、こんなことはなかった。そのため、少しだけ引っかかる部分はある。

 だが、同時に思っていた。私だって、ゲームのアルフィアとは大きく性格が違う。それを考えると、メルティナの違いなど些細なことであると。

 だから、そこまで気にすることではないだろう。いや、それどころか、彼女の性格が違うということは、私の破滅が遠ざかるとすら考えることができるはずだ。むしろ、喜ぶくらいでいいのかもしれない。


「皆さん、席に着いてください。これから、ホームルームを開始します」


 色々と考えている内に、担任の先生が来た。やっとホームルームが始まるようだ。

 こうして、私は色々と考えながら、先生の話に耳を傾けるのだった。

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