第12話 殿下の元へは行かせません!
私の強気の発言に、男はニヤリと笑った。
「へー、じゃあ丸腰のメイドさんが一体何が出来るのか、見せてもらおうか!!」
「もう、メイドじゃないって言ってんのに。それに、私を舐めてかかると痛い目見るわよ」
私は指をパチンとならす。
それ自体は特に意味がないただの指パッチンだ。だけどそれで少しでも男の気をそらす事ができれば、私の勝ちは決まったようなものだった。
「っち!かっこよく決めたくせに、何も起きないじゃねぇかよっ!!!」
フェイクにかかった男はその一瞬、指に警戒をしてくれたようだ。
そしてナイフを私に向けて襲いかかる男を見て、私は笑みを浮かべてしまう。
「何がおかしい!!あの世が近くなっておかしくなっちまったのか?」
「いえ、あなたの間抜け加減に笑ってしまったのよ!!」
「ごちゃごちゃいってねぇで死ねぇえぇえ!!?」
そのナイフが私に突き刺さるかと思ったその瞬間、男は突然空へと舞い上がった。
「な、なんぐぁぁああああぁあぁぁ!!!!」
叫び声とともに、最初に倒した男と同じ方向へと飛んでいく。
これは私が先程指パッチンした瞬間に、地面から突風を巻き上げる魔法を仕掛けておいたためだ。
トラップをバレないようにすることが大変だったけど、敵が間抜けでよかった。
そして一息つく暇もなく、私は最後の一人の元へと向かっていた。
そいつはもう既に、城内へと侵入している。
向かうのは一つしかないだろう。
ハロルド殿下の寝室だ。
あそこは、王宮内でも夜間は人の気配がとても少ないため、護衛を他に割かれてしまえば殿下の元へは一直線なのだ。
そして王宮内はいまだ賊の討伐が終わっていない。
もしかするとハロルド殿下の寝室にいるべき兵も、そちらに行ってしまっている可能性はあるはずだ……。
私は焦る気持ちを抑えて、殿下の寝室に行くための近道を思い出していた。
あれは昔殿下に内緒で、ハロルド近衛隊の人と訓練していたときに教えてもらった抜け道……。
私は屋根に向けて飛び上がると、一見何もないつるっとしているその場所を踏み抜いた。
するとそこは回転扉のようになっており、私は体を滑り込ませて王宮へと侵入する。
この侵入経路である天井裏は、近衛隊の待機場に繋がっている。流石にそこに行けば誰かにバレてしまう。
でもその手前には、わかりにくいように塗装された扉がある。
それを知らない賊は抜け道だと思い一直線に近衛隊の前に出てしまうが、その途中いくつかある秘密の扉を知る者であれば、緊急時に何処からでも奇襲を仕掛けることができる。
その扉はもちろんハロルド殿下の寝室にもある。
しかし私が向かうのはその少し手前だった。
通路を進んでいると、何箇所か近衛騎士らしき気配を感じてそれを回避する。
そしてようやく、私はある通路上まで来たのだった。
ここは、殿下の寝室一歩前であり。
賊は隠れることのできないこの通路を通り抜けなくては、絶対に寝室へと向かう事はできない。
普段ならここに近衛が待機しているはずなのに、今は騒ぎのせいでやはり人員をとられてしまっているようだった。
本当なら殿下の側を離れる事は絶対に許されないわ……でも今は調査に出てる隊員がいるから、やっぱりろくな人しか残されていないのね。
これは絶対わざとに決まってる……。
少しの苛立ちを覚えて、私はその通路をジッと見つめていた。賊は慎重にこちらに向かっているのか、いまだ姿を見せない。
そして寝室の方からは、殿下がすでに起きている気配がした。
それなのに近衛を呼ばないなんて……殿下は死ぬつもりなの?
たぶんそんな訳ないとは思うけど、とにかく今は絶対に私が殿下の暗殺を阻止してみせるわ!
通路の先に敵の気配を察知した私は、根気よくじっと相手が来るのを待つ。
そしてこの直線距離を一気に通過しようとした刺客の頭に向けて、勢いよく飛び降りる。
「っ!?」
驚くその声は高い。
そのことから布で顔を隠していても、相手が女性であることに気がつく。
だとしても、今の私には容赦はできそうにない。
だって殿下を討ち取ろうとしている人達に、手を抜くことは絶対に出来ないのだから。
飛びかかる私の手には、先程の男が所持していた銀のナイフが握られていた。
女は咄嗟に手を突きつけた。
─── ガッキン!!
手とは思えないその音に目を見張ると、手の前には薄っすらと氷の膜が張られていた。
どうやらこの女は氷り使いだったようだ。
でも残念である。私は氷使いで最上の存在である母親を身近に見て生きてきたのだ。
「あなたの氷はその程度?残念だわ!!」
私は風の力を得て、その氷を打ち砕く。
「っな!!!」
「この至近距離ではもう何もやらせはしないわよ!」
私は女の足を引っ掛け床に転がし、来ていたエプロンで素早く縛り上げていた。
「賊はこっちだ!!!」
縛り終わった頃、通路の端から声がしたことに私は慌ててその場を後にしようとした。
それなのに突然誰かに手を引かれてしまう。
そして気がつくと、私はハロルド殿下の寝室に連れ込まれていたのだった。
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