第54話 第一王子ジラルド殿下襲来!


 何度瞬きをしても、目の前にいる人物は消える事はなかった。


 美しい黄金の髪に宝石のような紫玉の瞳を持ち、きっと神に愛される為に生まれたような男。


 第一王子のジラルド殿下がそこにはいた。



 じーっと見つめる私の視線なんて気にせず、優雅に紅茶を飲んでいる。

 見れば見るほどハロルド殿下に似ているところが多くて、凄く褒め称えそうになってしまう。


 私にはハロルド殿下を見ると褒めたくなる病がある。その為髪や目の色は違えど、見た目だけは似ているジラルド殿下も、つい褒めてしまいそうになっているのだ。



 落ち着くのよクレア。相手はハロルド殿下に刺客を送っているかもしれない人物、つまりは敵かもしれないのよ!


 一度深呼吸をして、私は心を落ち着かせる。



「ジラルド殿下、騎士見習いのクレアです。私に用事とは何なのでしょう」


 もし本当にハロルド殿下の暗殺に手伝って欲しいとかだったら、すぐにでも部屋をお追い出してやる。


 飲んでいる紅茶を優雅に机に戻すと、ジラルド殿下は私を改めてみると上から下まで確認した。

 そしてボソリと呟いた。



「え?本当にクレア嬢だったのか……」



 え?って言いたいのはこちらです!

 なにその微妙な反応……もしかして私が名乗るまで、私の事をクレアではない誰かだと思ってたの?


 何か納得したのか、ジラルド殿下は改めて私を見つめ直した。


「久しぶりだな。最後に会ったのは、ハロルドの誕生日……いや、これはやめておこう」


 その日は、私がハロルド殿下に婚約破棄をされた日である。ジラルド殿下には一言だけお話をさせて貰った気がするが、色々あって何を話したかなんて覚えていない。



「つい最近だったな、騎士団の入団式にクレア嬢に似た人物を確認したのは……。それがどうも気になっていてな、確認しようと思ったて来てみたんだが、本当にクレア嬢だったんだな」

「私が騎士団に入った事、意外でしたか?」

「いや、貴女はとても活力のある女性だからな……ただ行動力には毎回驚かされてばかりだ」


 そいうい殿下の瞳はとても優しい。

 このお方が本当にハロルド殿下を暗殺なんてしようとしているのかと、疑いたくなる程に……。


「それで、あの……話というのは?」

「そうだった。クレア嬢にどうしても言っておきたい事があったのだった。」


 どんな話が出てくるのかと、私は息を飲んでいた。

 そんな私の考えに反してジラルド殿下は頭を下げ、机に手をついた。



「……クレア嬢すまなかった!!」



 突然の謝罪に私は凍りついた。

 頭にハロルド殿下の顔が浮かぶも、今の状況に直ぐに意識を戻す。


「ハロルドについては申し訳なかった。あいつも色々考えての結果だったのだ……許してやって欲しい」


 許すも何も、今は頭を下げたままの殿下をどうにかしなくては!


 そう思いつつも焦る気持ちを抑え、とりあえず自分の今の状況について説明をする事にした。


「あ、あの頭を上げてください…!許すも何も、私は本当に大丈夫ですから。寧ろ自分の感情が恋では無いと気がついたので……これはこれで良かったと思っています」


 誰が何度なんと言おうとこれだけは揺るがない。

 私は殿下の事を始めて守った時から恋愛対象ではなく、守護対象として認識していたようなのだから。


 まあ気がついたのは婚約破棄されてからだけど……。



「それでもあいつの兄である私から謝らせて欲しい。すまなかった……!」


 ジラルド殿下がまた深く頭を下げる。その所作に私は内心ヒヤリと汗を流し続けていた。

 王子に何度も頭を下げさせるなんて、こんなところ他の人に見られたらたまったものではない。


 私の気など全然知らないジラルド殿下は頭を上げ、そのまま話し続けた。


「クレア嬢が婚約破棄されたと聞いたとき、私がどれ程焦った事か……。クレア嬢に何かしてやれないかと思ったのだが、知っての通り私はもうすぐ婚姻の儀があって忙しく、君がその後どうなったのか全く知らなかったんだ」


 その声は少し震えていた。その様子に私の方が申し訳なくなってしまう。

 今だってジラルド殿下は来年に控えている婚姻の儀で忙しい筈なのだ。それなのに、私なんかの為に時間を割いて頂いて大丈夫なのかと、なんだか心配になって来る。


「そしてもう一つ。聞いてほしい事がある……」


 真面目な顔をしてこちらを真っ直ぐに見つめ直す。


 流石はハロルド殿下のお兄様である。

 顔が整っていてとてもハロルド殿下のように美しい。


 無意識にハロルド殿下を褒めるのが癖になりつつあるな、とジラルド殿下の顔を見ながらなんだか申し訳なく思っていたところだった。



「クレア嬢さえ良ければ、私の第2王子妃にならないかい?」



私の頭の中は、ハテナでいっぱいになった。

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