第53話 詮索はやめて!


 馬車が動き出し姿が見えなくなるまで、二人は私に頭を下げていた。

 それからというもの暫く馬車に乗っていたのに、先程のその様子が嬉しくて私はずっと頬が緩んでしまっていた。


「嬉しそうなところ悪いけど、色々どういう事?」


 そういえば、ライズに全く説明してなかったことを思い出す。

 でも、あの話を言うわけにはいかないし……どうにかライズにバレないように話を回避する方法を考えてみるも、全く思い浮かばない。


「えっとこの間の休みに色々あってね」

「色々ね……クレアは俺に教えてくれるつもりはないと?」


 全てバレバレなことに冷や汗を流しつつ、私は思い出したことがあった。

 そういえば私も、ライズには聞きたい事があるのだ。


「それで、私その日にライズが変な商人と歩いていたのを見たのだけど……?」


 話の逸らしかたに無理があるけど、ここは押し通すしかない。

 それにライズを疑っているわけではいが、疑惑は晴らしておきたかったのだ。

 目の前に座るライズはため息をつくと、仕方がないと少し微笑んだ。


「答えになってないし、質問を質問で返さないでよね。あの商人は俺がお世話になってる伯爵様の商売相手で、あの日はただお見送りをしていただけなんだ」

「ふーん、そうなんだー」


 商人が貴族相手に商売を行うのは当然の事だ。

 ならば偶然送り届けた先で、あの貴族と会う約束をしていただけなのかもしれない。


「あの商人と何かあったの?それに話を戻すけど、さっきの二人組はクレアに何かをしたって言ってなかった?」


 話を戻されてしまったうえに、ずずっと迫ってくるライズの笑顔が怖い。

 私は目線をライズから外し、どうにかもう一度話を逸らせないかと考えようとした。


「ライズ、その……」


 その瞬間、目的地の騎士団宿舎前に着いたのか馬車が、ガタンと止まった。

 私はチャンスとばかりにすぐに立ち上がる。


「ど、どうやら着いたみたいね!さあ、早くおりましょう」

「待ってクレア!」


 即座に降りようとした私の手を掴み、グイッと引き寄せられた。

 その力強さに抗えず、気がついたら私はライズの膝の上に座らされていた。もちろん腰はライズの腕にガッチリホールドされている。



「ひぇっ……?」

「クレア、こんな体勢でごめん。でも今離すと逃げて行っちゃいそうだから……」

「に、逃げない、逃げないから下ろして!」


 この恥ずかしい体勢に比べたらましだから、下ろして欲しいと足をジタバタさせるも、ライズの力には全く勝てない。


「だめだ、クレアは絶対に逃げるから」

「ライズは私をなんだと思ってるの……」



 最近ますますライズの保護者っぷりが悪化している気がしてならない。

 とりあえず諦めた私はライズの話を膝の上で聞く事にした。


 でも恥ずかしいから早く話し終えて!



「クレア、もしかしてまた一人で抱え込もうとしてない?」

「いや、そんな事はないわよ!今回はロイさんが……」


 と、言いかけて気がつく。「一人で抱えては居ないけど、ロイさんには話しているわ」なんて言ったらライズはきっと「へー、ロイさんはよくて俺は駄目なのかぁ。クレアの友達であり戦友な俺には何もいってくれないのになぁー」とか、嫌味ったらしく言われる気がする。



「ふーん、ロイさんね……?」


 しまった!ロイさんの名前までだしてたら意味がないじゃない。何か言い訳を考えないと……。


「このこと、ロイさんは知ってるんだ」


 ほら、きた!きっとこの後……。

 なんで俺には教えてくれなかったの?とかくるはず!


「そっか……。まあ一人で抱えてないなら、今回は許してあげる」

「へ?」

「でも俺がその相手じゃなかったのは少し寂しいけどね」


 そういうと、ライズは私をゆっくり下ろしてくれた。開放された私はあっさり引いたライズに首を傾げながら、いまだに赤くなっている顔を抑えて馬車から降りようとした。

 しかし突然、私の名を呼ぶ声に私は足を止めて顔を上げる。



「クレア!大変だ!お前に大変な人が、いやお方が!!」


 その先にいたのは余りにも慌てた様子のヨシュアで、その勢いにライズとともに首をかしげる。

 そんな私を見ると、ヨシュアはさらに周りを確認して、コソッと私の耳に小声で教えてくれたのだった。


「お前に、第一王子のジラルド殿下が会いにきてるぞ……!」


「は?」


 一瞬理解出来ずに、間抜けな返事をしてしまう。



「だから、ジラルド殿下が!」

「はぁーーーーーーーーーーーーー!!?」



 その叫び声は騎士団宿舎全体に響き渡ったに違いない。

 それぐらい衝撃的な内容だったのだ。

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