第52話 これぞ休日の使い方!


 あの日、私の願いを聞き入れてくれたお父様のおかげで、今私はこうしてここにいる。

 そしてここは真っ青な晴天と、木々が生茂る森林の中だった。


「あの、これは一体どこから突っ込めばいいんでしょーか?」


 そんな私をよそに、目の前の伐採された木々をみて困惑しながら、キールとソーイは互いに顔を見合わせていた。


「こないだ言っただろ?僕が君達の事をどうにかするって」


 今日は前に言った通り二人のお手伝いをしにここまで足を運んでいた。そして先程まで魔法を使って木の伐採を手伝っていたのだ。

 もちろん、今の私の格好は前回と同様で男装しており、二人には多分男性だと認識されている。

 それに一人称も僕と名乗っているし、勘違いされたままの方がなにかと都合がいいのだ。


 そして今日もロイさんを誘おうと思ったのだけど、どうやら忙しくて来れないらしい。

 ロイさんは第一部隊副隊長なのだから、前回二人で町に行けた事自体がもの凄くレアだったのかもしれない。

 だから来れないことは仕方がない。


 でも一人では私が困りそうだと思って、今日は急遽ライズを誘ってみたところ、とても快く手伝いに来てくれたのだ。

 ただライズはこの衣装と格好を見るとため息をついたのだけど、どう言う事なのだろうか……。

 そんな事を思っていると、向こうで準備をしていたライズがこちらに戻ってきた。


「クー様。木を運ぶ準備が整いました」


 そしてライズには私の事をクーと呼ぶように伝えた。

 そしたら貴族の従者っぽい感じでいくね。と、ニコリと言われてしまって、そのままクー様とか呼ばれてしまっている。


「ああ、ありがとう。では僕はこの木々を移動させるから二人は少し待っていてくれ!」


 少し恥ずかしいのを我慢しつつ、私は風魔法で木々を荷馬車に移していく。

 そしてそれが終わると馬車に乗り込み、私達は新しく出来た木材加工場に向かう事にした。




「とはいえ、これはびっくりするよねー」


 ライズの間抜けな声を聞きながら、新しく出来たばかりの木材加工場を二人で見上げていた。

 この短期間で新しい加工場が出来てしまうとは……流石魔法建設でピカイチの所に頼んだだけある。


「本当に、あっしらの新しい作業場はここで?」

「本当に間違いないので?」


 そう言いながら二人とも唖然と立ち尽くしていた。

 しかし、今はぼーっと立ち続けている時間はない。まだ二人は借金を完済出来てないため、早く仕事を始めたいと言っていたのだ。

 だからとにかく木を搬入しない事には、すぐに仕事も始められないだろう。

 そう思い私は搬入を素早く手伝うことにしたのだ。



 そしてそれが終わった頃、私は二人に向けて爽やかに言った。


「僕がやれるのはここまでです。すみませんがあとはあなた達でどうにか頑張って欲しい」


 申し訳なさそうに頭を下げると、キールとソーイは、私の目線の更に下でまた土下座をしていた。


「へ、へい!!」

「こ、この御恩は一生わすれやせん!」

「それに、もう二度とあんな事はしません!」

「「申し訳ありませんでした!!!」」


 地面に擦り付ける程深く頭を下げる二人に、そんな事もあったなぁと、あの事がもう随分前のような気分になっていた。

 後ろでライズがボソリと「あんな事……?」と呟いたのを聞こえないふりをして二人の顔を上げさせる。


「大丈夫ですよ。僕は民を守る事はあれど、民に傷つけられるほど柔じゃありません」

「なんとお優しい……噂ではここら一体の被害者に補助までされているとか?」

「なんと素晴らしいお方でしょう!!あの、出来ればお名前をお聞きしても……?」


 名前?そう言えば名前を考えるのを忘れていた。

 クー様と呼ばせているはいるが、下の名前も適当に名乗って良いものなのだろうか?

 この際いっそ名乗らずに、去っていくと言うのはどうだろう。

 人助けをすると言う名もなき貴族の噂が広まれば、きっと民からの貴族に対する恐怖が少しは無くなるかもしれない。


「いえ、名を名乗る程の者ではありませんので……」

「もしや……凄く高位の貴族様で!!」

「でしたらあっしら達は深く聞きやせん。それに絶対誰にも言いやせんので、安心して下せい!」


 なんだか勘違いされた気がするし、口外してくれた方がいいのだけどそこは黙っておこう。

 それに噂に蓋は出来ないものだからいつか溢れる事だろう。そうであって欲しい。


「そういうわけだから、我々は今日は引き上げさせて貰うよ。いずれまた見に行く、頑張ってくれたまえ!ははははは!!」


 馬鹿らしいが、何故かこの男装キャラには高笑いが良く似合う気がする。

 ライズから感じる横からの視線が痛いけど、気にせずに二人で馬車に乗って帰る事にしたのだ。

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