第57話 話し合いしましょうか!


「おいクレア!お前家から勘当されたって本当か?」


 もうすぐ演習試合で気が抜けないというのに、ヨシュアときたら私と組み手の練習中にも関わらず、呑気に話しかけてきたのだ。


 きっとあれだ。話しかける事で私の集中を削ぐ事が狙いに違いない。

 そんな策には騙されません!


「おい、クレア!話を聞けったら!」

「そんな手にはのりません!」

「なにいって……て、うわっ!」


 どうやら私の一本が綺麗に決まったようだ。

 ふふん、ヨシュアの作戦に引っかかる私ではないわ!



 前回の決闘からと言うものすっかり仲良くなってしまったヨシュアと、気がつけば毎回こうして練習をする仲になってしまった。

 まあ他に相手してくれる人が居ないのだから、ヨシュアで我慢してあげている。


「ヨシュア、私に話しかける作戦が上手くいかなくて残念だったわね!」

「なにいってるんだ。僕はお前を心配してだな……あのだな、その……」


 何が言いたいのかハッキリしないヨシュアは、もじもじと俯いてしまった。

 そのまま待っていると動くこともやめてしまったヨシュアに、とりあえず先程の答えは返しておこうと今更答えを返す。


「さっきの、勘当の事なら事実よ」

「え!?」


 勢いよく顔を上げたヨシュアは私を見ると、すっごく可哀想な人を見る目をしていた。


「なにその顔?」

「だってお前家を追い出されたんじゃ……」

「自分から家を出たのよ……迷惑をかけたくない人が沢山いたから。あんたには関係ない話よ!」


 その返しに納得いかなかったのか、相変わらず可哀想な人を見る目でこちらを見ないで欲しい。


「前話したと思うけどさ、僕は騎士にならなかったら家を追い出されるかもしれないって言ってただろ?そんな僕より先にクレアが家を出るなんて思ってなかったから……」

「だからってヨシュアまでそんな悲しそうな顔しなくても」

「僕はそんな顔してない!」


 そんな同情されるような事でもないのに……と、私はため息をつく。

 顔を上げるとじっとこちらを見つめるヨシュアと目があう。やはり何か言いたいのかじっとこちらを見つめている。


 そして何か意を決したように口を開いた。


「もし、もしお前がこのまま行き倒れるような事があったらなんだが……こ、この僕が貰ってやってもいいんだぞ!」

「は?いやよ」

「そんなキッパリ断らなくても!!本来は僕の方がお断りなんだぞ!」


 ならなんで言ってきたのか全くわからない所がヨシュアらしい。

 きっとヨシュアなりに心配して言ってくれているのだろうけど、何故かそう聞こえないのがヨシュアなのよね……。


「ヨシュアならもっといい貰い手があるでしょう」

「僕は次男だから、結婚する予定はない」

「だからって愛のない告白するのは良くないわよ」

「うるさい!僕だっていつか理想の女性が現れるのを待ってるんだ」


 ヨシュアの事だから理想が高過ぎるのだろう。

 なんだか馬鹿らしくなってきて私は話を切り替える。



「それで?理想のお嫁さんを探しているヨシュアの演習相手は誰なんだっけ?」

「なんだその言い方は……まあ、僕は寛大だから許してやる。僕の相手はルーサーだ」

「誰だったかしらそれ?」


 名前は聞いた事あるような気がするのだけど、正直最近皆同じ顔に見えてきて、違いがよく分からなくなっていている。


「お前は同じ班なのに、全く名前を覚える気がないのだな」

「あんたは顔を覚えてないじゃない!」

「うるさい!どうせお前は次の演習相手のカールの事も覚えて無いんだろう?」


 カール?全く覚えていない、と首を捻る。

 その様子にヨシュアが呆れてため息をついた。


「流石にカールの名前は覚えておけ、あれは騎士団第三部隊隊長イルダー・ヘリンツ伯爵様の息子だ」

「イルダー・ヘリンツ様?何処かで名前を聞いたような?」

「お前なぁ……。騎士団の入団式でスピーチしてた人だよ」

「ああ!あのスキンヘッドの!?」


 スキンヘッド?その言葉に何故か既視感を覚えて私はまた首を傾げる。

 その様子に気づいていないヨシュアは一応は覚えていたかと、ホッとしていた。


「まあ、覚えてたようでよかったよ」


 安心しているヨシュアを無視して、わたしはどうにか思い出そうと考えていた。


 すっごく何かひっかかっているのよね。最近何処かでスキンヘッドの男を見たようなきがするのだけど?

 うーん、確かあれは……城下街に遊びに行ったときに道に迷ってしまって、それから樽を倒したときの…………一瞬見えたスキンヘッド!!


「ああ!!!」


 驚いた私を見てヨシュアが顔を顔を上げた。


「ど、どうした!?」

「えっと……」


 言い淀んだ私は、その事をヨシュアに言うべきか悩んでいた。あのとき一瞬見えただけで、本人と考えるのはまだ早いと思ったからだ。

 それでもスキンヘッドという情報は間違いない。

 だから、私は一応気づいたことをそのままヨシュアに話す事にした。


「ヨシュア、今からする話は内緒にしてほいのだけど……」


 そう言って私はこの間城下街で起きたことを、ヨシュアにかいつまんで話していた。




「お前、命狙われてるの知ってたのか!?」

「ええ。……ってヨシュアは何で知ってるの?」

「い、いや僕は偶然聞いただけだ!」


 一番に気にするところそこなんだ。と、意外に思ってヨシュアを見ると、腕を組みながら何かを考えているようだった。


「ヨシュアはその人が犯人だと思う?」

「僕は実際あって話した訳じゃないから確信できないが、あの日僕に魔力増強剤を渡したのがカールの可能性は充分あると思う。それに次のお前の演習相手はカールだ。それだけでも充分怪しいからな、気をつけた方がいいだろう」

「確かにそうよね」

「それから、お前と決闘でかけたリーダーの件だけど……」

「リーダー?」


 決闘で何かかけたような気がするけど、結構前の事なのですでに忘れていた。


「いや、覚えていないならそのまま忘れてくれ。僕は僕で忙しいからな!」

「ふーん。そうなんだー」

「もう少し気になるとかないのかよ!」


 ない!ときっぱりヨシュアに伝えると、ヨシュアは盛大にため息をついた。



「私はこれ以上、首を突っ込まない事にしたのよ」

「まあ、その方がいいと僕は思うぞ!」


 うんうんと頷くヨシュアを見ながら自分でもそうだと思う。だってこれについては全部お父様に任せたつもりなのだ。

 だから私はあまり関わらない方が良いに違いない。



 それならばこれから起こり得るカールとの戦いに備える方が大事だ。と、私はヨシュアに気になっている事を聞いてみた。


「ところでカールは何使いなの?」

「あいつは土属性が得意と聞いているが、実際戦闘で使ったところは見た事がない。魔法に頼らずとも剣の腕は確かだ。だからこそ奥の手で、魔法を使ってくる可能性がある」

「土属性は少し苦手だわ……ずっと飛べるほどの魔力を維持できれば話は別なんだけどなぁ」

「少しの魔力で飛ぶ練習でもしたらどうだ?」


 少しの魔力で飛ぶ?


 確かに今の魔力の放出の仕方では無駄が余りにも多い。それに、ずっと飛んでいる必要はないのかも知れない。

 そう考えるとやって見る価値はありそうだ。


「ヨシュア、凄いじゃない!その案いいわよ!じゃあ、早速練習してくるわね」


 ヨシュアを勢いよく褒めて、すぐに空いてる訓練場を聞きに行く事にした。

 訓練時間も終わってるはずだし、手が空いてる人がいるかもしれない。



 私はウキウキしながら、ヨシュアの前から立ち去る。

 そのときヨシュアがどんな顔をしているかなんて、私は全く気がつかなったのだ。

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