第28話 絶対気がついてましたね!
第一王子ジラルド殿下の圧倒的なカリスマ性に私達は言葉もなく見つめていた。
「私からは一言だけ。皆、おめでとう!」
その一言一言に皆が息を飲む。
本当は私も盛り上がりたい所だけど、ジラルド殿下とハロルド殿下は異母兄弟ではあるが顔つきが似ている為、何となく気まずい気分になっていた。
そしてこれは私が個人的に思っている事だけど、ジラルド殿下も弟であるハロルド殿下に、刺客を送っている人物かもしれないのだ。
だからこそ注意深く観察してしまう。
「これから君達は騎士として苦しい事や、辛い事もあるだろう。それでもどうかその身を私達、いや国民に預けて欲しい。私も君達の為に上に立つ者として精一杯返していくつもりだ」
流石ジラルド殿下はこう言う場所に慣れていらっしゃるわね。こういった人を惹きつける力はハロルド殿下には無いところだわ。
「まだ私は王子の身で未熟な事も沢山あるし、剣の腕だって君達程優秀ではない。でもいつか君達の前に、立派に立つ存在になりたいと思っている。だからどうか私について来てくれないだろうか」
一瞬の沈黙の後、熱狂の渦に巻き込まれた周りの男達は、突然雄叫びを上げはじめたのだった。
──── うおおおおおおお!!!!
その叫び声に私もうんうんと、他人事のように頷いてしまう。
雲の上のような存在の人が、態々こうして来てくれる。それだけでも発狂ものだから仕方ない。
私だってハロルド殿下が来たら発狂する。
変に納得していると、嬉しそうに周りを見回していたジラルド殿下と目があった気がした。
─── いや、絶対に目があった。
ジラルド殿下は私を確認した瞬間、その瞳が大きく見開き固まったのだ。動揺を隠すようにすぐに戻ってしまったけれど、間違いなく私の存在に気がついたに違いない。
もちろんジラルド殿下は、私がハロルド殿下の元婚約者である事を知っている。
もしジラルド殿下が私の事を調べたら?
きっとハロルド殿下に復讐をしに来たのでは?と思うかもしれない……。
そしてもし刺客を送っていたのがジラルド殿下なら、私と志が同じだと思って直接交渉しにくるに違いない!
一応このパターンもあり得る。念のため対策を考えておく必要があるわ。
私は心の中でそう思いながら、ジラルド殿下がさがっていくのを見ていた。
それと入れ替わるように、またスキンヘッドの騎士が他の騎士と大きなボードを引き連れて声を張り上げた。
「ではこれより、君達が騎士見習いとして相応しい教育場所に斡旋する為、一対一の演習訓練を行う。人数が多い為、同時に行う事になるが訓練の一貫である為、相手に致命傷を与えるなどの行為は一切禁止とさせて頂く。もし守れぬ者は騎士になる資格無しとみなし、二度と騎士の門を潜れないと思ってくれて構わない」
知っていたとは言えこの人数だとどれぐらい時間がかかるのだろうかと思い、楽しみにしていた夕飯が遠のいていくのに少しガッカリしていた。
「試合表はこのボードに書いてある通りだ。誰がどの場所で何番目にやるのかがわかるようになっているので、間違えないようにするんだぞ!」
最初に試合がある人達は番号を直接呼ばれ、急いで走っていくのが見えた。それ以外の者達は皆ボードを食い入るように見ている。
私も見ようとしたが人が多くて中々近寄れないし、背が高い男性ばかりで全く見えない。
こう見えても女性の中では背が大きい筈なのに、こんなときに限って何故か背が高くガタイのいい男性が前を占拠していた。
仕方ない、つま先立ちでもいいからなんとかボードを見よう!
そう思ってかかとを上げようとしたら、流石に変だったのか声をかけられた。
「大丈夫ですか?クレアさんの番号、俺がかわりに見てあげますよ」
ライズさんがさりげなく私の持っている用紙を後ろから取り、番号をみてくれる。
「えーっと、クレアさんは258番だから……Jグループの4番みたいですよ……ってクレアさん?俺の顔をじーっと見て、何かついてます?」
「いや、あの今の今まで気がつきませんでしたけど、ライズさんって背が高いのですね」
「あ、ああ。俺、背が高い事しか褒められた事が無いですから」
そう言いながら笑うライズさんに、何故か心臓がドキリと跳ねる。
結構身長が高い私は、自分よりも身長がかなり高いというだけでライズさんを、男性として少し意識してしまったのである。
その為、ライズさんの笑顔に顔が赤くなっていくのがわかった。
いやいやこれは恋心なんてものじゃない。
さりげない親切心に、今私ってば女性みたいな扱いを受けてる!?と少しだけ乙女心がほんの一瞬出て来てしまっただけよ。
つまりこれは、傷ついている自分の心の弱さが出てきてしまったのだ。そうに違いない。
なによりも今の私に優しさは毒なのだ。
心がぐらついているから人につけ込まれやすくなる。
これ以上誰かに裏切られるなんてごめんよ……。
私は気持ちを切り替えるために首を振ると、ライズさんは何処なのかと尋ねてみた。
「俺はCグループの5番だから、別々ですね」
「そうですか。……折角今まで一緒に行動していたのに少し残念です」
「そうですね。でもこれが終わったらご飯が待ってますから、急いで終わらせましょう!」
腕を伸ばしたライズさんは、握り拳を私に突き出した。それを見た私もとっさに腕を伸ばし、拳を軽くぶつける。
なんだかこれって友情っぽい!!
その事に感動していると、ライズさんも満足したのか手を振りながら、自分のグループの方へと走っていった。
全グループは20通りあって私のグループはほぼ真ん中なので、あまり動く必要は無いようだ。
ゆっくりと歩きながらJグループの方へ行くと、もう既に始まっているのか模擬剣がぶつかり合う音が聴こえてきていた。
そして周りのヤジも一緒に聞こえてくる。
「こいつは雑魚だなぁー。全くつまらねぇ……」
そう呟く隣の男はつまらないと言いつつもニヤニヤしながら演習を見ていた。
私は引き気味にその男から離れた。
「おい、あいつ例の……」
そしてまた同じような声が聞こえてきていた。
先程まではライズさんが近くに居てくれたから全く気にならなかったのに……。
端の方に行こうにもJグループは訓練場のほぼ真ん中だ。移動しようにも、動く事が出来ない。
無意識に私は御守り袋に手を当てていた。
何故かそれに触れていると、不思議と心が落ち着くのだ。
なんでかしら、袋の中が暖かい……。
それに御守りに触れているだけで一人じゃ無い気がしてくるし、不思議と力が湧いてくる!
そうよ、周りの目なんて気にならないわ。
だって私はもう騎士なれたのだから!
私は顔を真っ直ぐに上げた。
それだけなのにチラチラとこちらを見てコソコソ話していた人達は皆押し黙ってしまった。
その事にホッと息をつくと同時に番号が呼ばれた。
「258番!301番!前へ」
その番号は私の番号だ。私は誰からの目線も気にせずに一歩前に踏み出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます