第27話 受かって見せます!
迎えに来てくれたライズさんの笑顔にすこしビクビクしながら、私は慌てて言い訳をしていた。
「えーとジェッツと手を繋いでいた言い訳をさせて下さい!!」
ジェッツと会話してる間何かがおかしいと思っていたのだが、どうやらジェッツに手を引かれてからずっと私達は手を握っていたようなのだ。それなのにお互いに全く気がついていなかった。
さすが幼馴染みと言うべきか、確かに子供の頃よく手を繋いでいたけど、癖というのは簡単に治らないらしい。
それよりも何が凄いって、私が抱きついたときも手を離さなかったジェッツが凄いよ……。
そして当の本人は指摘された途端、私の手をぶん投げる勢いで離したと思ったら、顔を真っ赤にして雪を降らしながら「用事はすんだから、覚えておくんだぞ!!」と走り去ってしまった。
だからこそ、私がジェッツの分まで言い訳をしなくては行けなくなってしまったのだ。
もう、これも全部ジェッツのせいだわ!
「いや、別にそんな言い訳とか大丈夫ですよ。クレアさんと彼がどんな関係だろうと俺には関係ないですし……」
「いや、関係あります!!私にはとても関係があるので聞いて下さい!あれはジェッツが落ち込んでた私の事を慰めようと、そう!親鳥が雛鳥を連れそうような、そんなものに近いあれですよ!!だから私とジェッツはそんな関係じゃないので勘違いしないでください!」
言い切った私を見て首を傾げながら、何かを納得したのか、エメラルドの瞳がニコリとこちらを向いた。
「よくわかりませんが、お二人は仲が良いけど、ただれた関係では無いと言う事は理解しました」
「ただれた……?」
「ははは、まあ誤解は解けたって事です。さあもう結果が出ているので見に行きましょう」
とりあえず誤解が解けたことに違いはないと頷いて、ライズさんと結果を見に行く。
私の結果はもうわかっているが、念の為にこの目で合格を見たいのだ。
「えぇーっと258、258……あ、あった!」
この目で見ると本当に合格したのだと、実感できて嬉しくなってしまう。
そういえばと隣にいるライズさんにも声をかける。
「ライズさんはどうでしたか?」
「どうだと思います?」
こちらを向いたライズさんはニコリと笑うと嬉しそうに教えてくれた。
「クレアさんと同じです」
「同じだなんて、そんな風に言われると私も嬉しくなっちゃいますね」
本当に嬉しくてそう答えると、ライズさんは更に笑みを深くする。
「あと最後は面接でしたっけ?気を抜かないように頑張りましょうね」
そうだ、あと最後に残すのは面接だけ。
だけどこれは大丈夫だとジェッツからお墨付きを貰ったのだ。
私は気楽に面接場所まで意気揚々と向かった。
そして会場の扉を開け、試験官に混じっているお父様をみて今度こそ心臓が飛び出るかと思ったのだった。
その後、私は動揺を隠してなんとか面接を乗り切っていた。
確かに私の父親は宰相補佐官で国でもかなりお偉い人だと言える。だからといって娘の面接をするのはどう考えてもダメでしょう……。
まあ面接官で話をしてきたのは主に他の人で、お父様は一切私に話しかけては来なかった。そこだけか救いとも言える。
私は盛大にため息をつくと、気持ちを切り替えるために手元にある入団試験合格通知をみてニヤニヤしていた。
面接ではすぐに合否が出る為その場で入団合格通知を貰えるのだ。
あれだけ緊張し続けていたのに最後は呆気なく終わってしまった。
そのせいで実感がわかないが、これで本当に騎士になると言う夢が叶ったのだと、何度もその用紙を見ては嬉しい気持ちを抑えられないでいた。
─── 念願の騎士になれた……!!
実際はまだ騎士見習いになっただけなのだけど……それでも嬉しいのだからしかたない。
そういえばこの後合格した者たちを集めて、なんかするとかなんとか……ジェッツが言っていたような?
確かジェッツが合格者達は練習試合があると言っていたはずだ。
そしてその後大事な事を言っていた気がするのに、ジェッツが何と言っていたかもう思い出せない私がいた。
ビックリする事があり過ぎて、どうやら私の頭からは抜け落ちてしまったようだった。
きっと大事な事ならそのときに思い出すだろうと、私はこちらに歩いてくるライズさんに意識を向けた。
「クレアさん、その顔は合格だったみたいですね!俺も合格でしたよ。この後合格者は第一訓練場に集合だそうです」
「ライズさん、おめでとうございます!折角なので最後まで一緒に行きましょう」
「そうですね。でもこれが終わったら一緒に食事に行きましょうね」
「是非!!」
訓練場に向かうために、私達は階段を降りる。
そこに着くまでの間、今日は一緒に何を食べに行こうかという話題で、ライズさんととても盛り上がっていた。
こんなふうに誰かと気軽に歩くなんて初めての事で、私は少し浮かれてしまったのだ。
そして訓練場に着く頃には、夕飯はライズさんお勧めのパスタが美味しいお店に決まったのだった。
「整列!!」
中年のスキンヘッドな騎士の掛け声とともに私達は何となく並ぶ。
まだ騎士として訓練もしていないので綺麗に並ぶ事は出来ないが、皆緊張に胸を高鳴らせているのは一緒だろう。
「私は騎士団第三部隊隊長をしている、イルダー・ヘリンツだ。今後何かしら会う機会があるだろう、よろしく頼む。おっほん……諸君!ここにいるという事は君達は本日より騎士となった事に他ならない。その事をこれからの行動とともに考えて欲しい」
出だしからこれは長くなりそうだと判断して、私は話を聞くのを諦めて周りを見渡していた。
今年は多いと事前に分かってはいたが、一体何人ぐらい合格したのだろうか?
そんな私の疑問に答えるように、騎士は丁度その話を始めるところだった。
「今年は152人もの騎士を外部から新しく迎え入れた事を誇らしく思うとともに、その中に君達一人一人がいる事をとても嬉しく思っている」
成る程。今年は152人も合格したのね……。いつもの1.5倍ぐらいになるし、ジェッツの言っていた事は本当の事みたいね。
「最後になるが、今年この入団試験の指揮を取ってくださったお方が、君達に向けてお話をしたいと仰った。君達が普段は会える人物ではない事を頭に入れた上で、粗相のないように静かに聞いてもらいたい」
そう言い残しスキンヘッドの騎士様は去っていく。そして一瞬空気が変わったのが私にもわかった。
ピンと張りつめた空気なのに、とても爽やかな風がふわっと流れる。
私だけではなく、皆が頭を下げるのがわかった。
何故かわからないけどそうしなければいけない気がするのだ。
「皆、どうか頭を上げて欲しい」
そう涼しげな声をだしたのは、美しい黄金の髪を靡かせて力強い紫玉の瞳で微笑む男性。
─── 第一王子、ジラルド・グランシール殿下。
ハロルド殿下の兄であるその人がそこにはいた。
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