第26話 呼び出した理由は?
ジェッツは眉間を揉むと溜息をついて説明を始めた。
「クレア、どうやら僕の言い方が悪かったようだ。だからお前でもわかるように、ちゃんと説明をしてやる。先程の試験中、お前が頭をかかえている間に答案用紙を見させてもらったんだ。それで僕が目視で採点をおこなった結果、合格点を余裕で超えていた。それが先程、合格といった経緯だ」
「本当に……?」
「ああ、嘘じゃない。クレアは僕の頭脳を疑うのか?」
ジェッツが子供の頃から神童だと言われていたのは知っているし、それは事実だ。
だから私は勢いよく首を振る。
「ならいい。これでとりあえずお前が合格なのはわかっただろう」
ジェッツの言葉をもう一度頭の中で思い出す。
合格している……ジェッツが確認したと言う事は、ちゃんと私の実力で合格したのだ。
そう思うと、私は嬉しくて勢いのままジェッツに抱きついた。
「合格してる!!ジェッツありがとうー!!!」
「うわぁああっ!!お、おま、お前はまた!毎回毎回なんて破廉恥な!!!離れろ!」
いきなり抱きつかれて驚いたジェッツは、動揺のあまりまた雪を降らしていた。
その様子がなんだかおかしくて、私は笑いながらジェッツから身体を離す。
「あははは。ごめんなさい」
「嬉しいのはわかるが、淑女としてあるまじき行為だな」
「いやいや、私は騎士を目指しているのだから、淑女とはかけ離れた存在になるんじゃない?」
そんな私の態度に、そう言う問題じゃないと文句を言いながら、ジェッツは私が抱きついたときに乱れてしまった服装をなおしていた。
相変わらず布面積の多い服を着ているなと思いつつ、話の続きを促す。
「それで合格したら何かあるの?」
「合格したものはそのあと面接を受けて終了なんだが、面接でお前が落ちる事はない。あれは態度を見る為の面接だからな……お前は少し変だが、態度がおかしい訳ではないからな」
「少し変って、ジェッツは本当に一言余計なのよ。それにしても、今年の試験は真面目な試験ばかりなのね」
「ああ。今年の試験には、第一王子であるジラルド殿下が関わっているからな。あの方は手を抜く事はしない」
「へ?」
まさかの人物に私は変な返答をしてしまう。
ジラルド殿下といえばハロルド殿下の兄にあたる人物だ。つまりこの国の第一王子である。
こんな入団試験に関わるような人物だっただろうか?
「お前が覚えているかわからないが、ジラルド殿下は来年に婚姻の儀を行う事が決まっている。その為にこれから色々な式典が増えるのは知っているな」
「ええ、覚えていたけど式典が増えると言う事は、騎士が多数配置される事になるのね……まさか騎士の人数が足りないの?」
ジェッツは眉間にシワを寄せつつ溜息をつく。
「そうだ。人数が全然足りないうえに、特に魔法騎士の割合が年々少なくなっている事がわかった。それなのに魔法騎士の有用さに最近気づいた上層部が、焦って今年の入団枠を増そうとしたわけだ。そうなると変な輩が騎士に入団する可能性が増えるかもしれない。そこでジラルド殿下自ら指揮を取ることにしたらしい」
「成る程……」
流石行動力の塊であるジラルド殿下だ。次期王に相応しいと言われているだけの事はある。
「で、脱線してしまったが本題はここからだ」
相変わらず前置きが長い男だと思いながら、私はその続きを聞く。
「合格発表後、合格者達を集めて騎士見習いとしての所属場所を決める練習試合がある」
「配属先は試験結果だけでは決めないのね」
「僕は騎士団の人間じゃないから、そこまではわからない。でも、いいか……もしそこで、あり得ない紫の髪に紫の瞳をもつ漢が居たら全力で逃げろ。絶対に試合なんて持っての他だからな!!絶対だぞ!」
必死に念を押された私は、その必死すぎるジェッツの姿に、とりあえず頷いてしまう。
紫色の髪、紫色の瞳。よし、覚えた!
そう思った瞬間、私たちに声がかかった。
「クレアさん、もうすぐ面接の……あ、すみませんお取り込み中でしたか?」
その声に振り向くと、そこには驚いた顔をしたライズさんがいた。
どうやらバルコニーに出て行った私が、時間になっても全然帰ってこないので探しに来てくれたようだ。
「いや、丁度話は終わったところだ」
「そうでしたかところで……何故お二人は手を繋いでいるのですか?」
「「え!?」」
その手を同時に見た私達は、いまだに手を繋いでいたことに驚愕して椅子から立ち上がってしまった。
「へー。お二人は、仲がいいのですね?」
そう微笑ましそうに言うライズさんは、笑顔なのに何故かその目が笑ってないように見えたのだった。
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