第25話 不正じゃない!


 私の後ろにいたジェッツに驚きつつも、そう言えば後で話しがあると言っていたわね。と呑気に相手を見る。


 風が強い為ジェッツは翠の髪を鬱陶しそうに耳へかけていた。



「……驚かせてすまない」

「べ、べつに驚いてないわよ!……それよりも、ここにいるのがよくわかったわね?」

「お前が試験終わりと同時に会場を出たのを見たから、急いで追いかけてきたんだが……なんで……」


 その声色は語尾にかけて暗くなっていく。その嫌な予感に顔を上げると、ジェッツはプルプルと身体を震わせ始めた。

 それを見て、また何か怒らせてしまったと私はすぐに身構える。


「なんでお前は!後で話しがあると言った僕の事をもう忘れているんだ!!これじゃあ、お前のことを心配している僕が馬鹿みたいじゃないか!それに今日はあの方からのお願いじゃなかったら、絶対に話しかけたりしなかったのに……どうしていつもいつもすぐに忘れるんだ!この脳筋ゴリラ!!!」


 勢いよく喋り切ったジェッツの周りには、相変わらず雪が舞っている。これはいつも通り、ジェッツの魔力暴走によるものだ。

 そして未だにぜーはーと息を切らせるジェッツにを見て、とりあえず感想を述べてみた。


「本当、綺麗な雪よね~。積らせたりできないの?」

「突っ込みづらい感想をこぼすな!!」

「ただの好奇心じゃない」

「だったら尚更悪い!」


 このままではいつもと同じように喧嘩になりかねない。今は試験中だから喧嘩をしている時間はないのだ。

 そう思った私はとりあえず話しを戻すために、先程の事を謝る事にした。


「そうね、ふざけ過ぎていた私が悪かったわ。それとジェッツの事を忘れてたことも謝るわ……ごめんなさい」

「あ、ああ。わかればいいんだ、わかれば……それに僕だってクレアを怒るために、ここまで来たわけじゃないからな」


 納得してなさそうな顔をしながらも、ジェッツはなんとか怒りを収めてくれた。

 その様子にホッとした私は、改めて呼ばれた理由を確認しようとした。



「それで、何の話?もしかして、試験にトリドルさんがいた理由を教えてくれるの?」

「いや、何のことかわからないが、それはたまたまだろ」


 たまたま?


「そんな訳ないでしょ!私が受ける試験にハロルド近衛隊の隊員がいる確率は、どう考えても低いはずなのよ!?」

「いや僕はそんな事は知らないぞ!それに僕は第三試験とその後の話しか聞いていないからな」


 ジェッツの瞳をじっと見ても、全く嘘を言っているようには見えない。だからジェッツは本当に知らないのだろう。

 だから不正の事は後回しにして、今はジェッツが呼び出した理由を今度こそちゃんと聞く事にした。


「わかった。じゃあ、なんの用なのよ?」

「いいか、クレア。一度しか言わないから、今回こそは絶対にお前の小さな脳みそに入れて、覚えておくんだぞ!」

「ええ、わかったわ……」


 軽く馬鹿にされたけれど、そこは聞かなかった事にして私は頭を抑えた。一応忘れないようにする為に頭を支えているのだ。


「なんだそのマヌケなポーズ……いや今はいい。とにかく今回の試験だが、お前は合格だった」

「へ?」


 突然の合格発表に、私は何を言われたか理解できずに固まってしまった。


 いやその前にジェッツがここに来たのは試験のすぐ後で、まだ採点もされていないのだ。それなのに合格とはいったいどういう事だろうか……まさか!


「それは、やはり不正!!?」

「ふ、不正!!?やはりってなんだ。お前なんか不正したのか!」

「いや、私は不正なんてしてないわ!だってまだ採点は終わってないのに、合格なんておかしいじゃない!まさかやはりお父様が……」


 わたしはショックのあまり、頭を抑えたままジェッツを見た。

 ジェッツの顔は明らかに困惑しており、その様子から私の話を肯定しているようにも見えてしまう。

 さらに血の気が引いた私は何も考える事ができず、土下座をしようと膝を床につけた。



「いやいや!ちょっとまて、何故床に座ろうとしているんだ!!僕が悪かった、僕の言葉が足りなかった。脳の容量が足りないおまえには僕の言葉だけで理解しろと言う方が間違ってた。だから、悪いが立ち上がってくれないか……」


 突然焦り出したジェッツの言葉に私の頭はついていけず、床にペタンと完全に座ってしまう。


「ああ、完全に座ってしまって。とりあえずあっちに椅子があるから、ほら手を掴んで」


 よくわからないまま、ジェッツに手を引かれて椅子に座る。

 なんだかんだいって昔から面倒見が良いところあるよね。まるで私の保護者みたいと、現実逃避をしながら私はジェッツを見つめていた。

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