第24話 ここまでくると不正??


 待っていたと言ったくせに、ジェッツはライズさんがいる事に気づくと、何も言わず私達を座席まで案内してくれた。


「あと10分で開始だからうろちょろと動くなよ」



 そう言うジェッツは他の受験者の案内に戻るタイミングで、すれ違いざま私だけに聞こえるように耳打ちしたのだ。


「後で話しがある」


 言うなりすぐに去っていく姿に首を傾げる。

 その様子を不審に思ったのか、ライズさんに心配されてしまった。


「少し顔色が悪いけど大丈夫ですか?」

「あ、いえ……大丈夫です!それより筆記試験頑張りましょうね」

「そう、ですね……」


 そのまま黙ってしまったライズさんを見て、この人も緊張する事があるのかと、つられて私も緊張に口を閉じる。

 そうすると、何故か今日出会った人達の顔を思い出してしまい、私は嫌な予感に頭をかかえていた。



 いやまさか、でも……今日の試験。


 最初の試験から変だった。

 私に有利な魔力測定の第一試験があり、その後もハロルド殿下に関わっている人が、連続で待ち構えていたのだ。

 こんな偶然が重なる事なんてあるのだろうか?


 一度考えてしまうと嫌な方へと思考が行くもので、私は脳内にチラリと親バカである父親の顔を思い出していた。


 確かあれは、家を出る前のことだった。





「クレア、私は可愛い娘の希望通りに騎士団の試験を受けられるように手配はした。だから安心して試験を受けてきて欲しい」


 私の父こと、グレイ・スカーレットは私と同じ蜂蜜色の髪の毛を撫でながら、深緑色の瞳で優しく微笑みかけてくれた。


「ありがとうございます。お父様のおかげで、私は騎士になる夢を叶えられるかもしれないのです!だからこそ精一杯頑張ってきます」

「ああ、私や妻も君の味方だからね。伸び伸びと試験をしてきなさい」


 はい。と元気よく答えて、私はもう一度お父様に頭を下げる。

 そして馬車に乗り込もうと後ろを向いたところで、お父様に声をかけらた。


「あと、もう一つ。今日の試験はきっと驚く事があると思うけど、冷静に対処すればクレアなら大丈夫だと思うよ」



 その言葉に首を傾げつつも家を出てきたのだった。





 そんなやり取りを思い返してみると、お父様が言っていた驚く事と言うのは絶対にあの3人に会った事に違いない。

 と言うことは、きっと私が受かりやすくなる為にお父様は不正をしたのでは!?


 その考えに至った私の顔はきっと真っ青になっていただろう。そして頭を抱えたくなる。



 いやまだ不正ときまった訳ではないし、とりあえず今はやれる事をやって全て終わってから、お父様にお話を聞きにいきましょう。それで本当に不正を行っていたのなら、騎士になれたとしても自分が許せない。

 その場合は、潔く不合格にしてもらいましょう……。


 そんな事を考えている間に、筆記試験の開始が差し迫っていた。




「はじめ!」


 合図とともに私は試験内容をざっと確認する。

 特に変わった内容はない。主に一般常識の確認と、騎士団の心得などごくごく普通の内容だった。

 これなら解けると、安堵してテストにとりかかる。


 試験自体は60分と短いものだったけど、貴族として生きてきた中で培った一般常識と、ずっと昔に憧れのあまり何度も読み直した、騎士団に関わる書籍の内容を思い浮かべていく。


 そして問題を解きながら、とある事を思い出していた。



 今までずっとハロルド殿下の事で忘れていたけど、小さい頃はお母様のように騎士になりたかったのよね。 

 殿下の婚約者になってその夢は諦めなくてはならなかったけど……。


 まさかこんな形で実現するかもしれないなんて!


 そう思えばハロルド殿下への恋心も無かったわけだし、婚約破棄された事は私にとって良い事しか無かったのかもしれない……。

 

 少し胸が痛くなるのを無視して、そう前向きに考える。

 そのせいなのか、先程出会ったハロルド殿下の事を思い出していた。



 どうしてハロルド殿下は私の前に姿を現して下さったのかしら?

 この前王宮に侵入したときの事は、殿下が私に全く気づいていなかったから、今回の件とは全く関係ないはずよね。

 それに婚約破棄した私になんて、殿下からはきっと会いたくないはずなのに……。


 なぜ、私にこの御守りを……?


 先程貰った御守りは、首につけていた私の御守り袋の中に一緒に仕舞い込んである。

 そっと手を当てて理由を考えてみても、思い当たる事が全くなくて私は頭をかかえていた。


 その後試験問題を解き終わっていた私は、時間いっぱいまでその事について頭を悩ませたが、全く解決する事はなかった。


 御守りについてはわからなかったけど、ハロルド殿下は私が騎士になる事を嫌々許可したわけじゃないし、どちらかと言えば応援してくれていたわ。

 その事を知れただけでも充分よね。


 そう言い聞かせて、私は試験官に用紙を渡してため息をつく。

 私の後に用紙を渡していたライズさんが、心配そうにこちらを見た。



「クレアさん、試験中凄く頭を抱えていましたけど……問題そんなに難しかったですか?」


 確かにあんなに頭を抱えていたら、問題が解けなくて悩んでいるように見えていたに違いない。

 私は微妙な顔でライズさんに返答した。


「いや、問題は大丈夫でした……それ以上の難問が私の前に立ち塞がったものですから」

「そうですか……」

「あ!結果が出るまで少し時間がありますよね、私外の空気吸ってきますね!!」


 首を傾げるライズさんをチラリと見てから、私は気分を入れ替える為にバルコ二ーに出る事にした。



 ここに来るまでの間にバルコニーがある事は確認していたので、そこにたどり着くと大きく溜息をはいた。


「大きい溜息だな」

「ヒッ!!」


 その声に私は驚いて後ろを振り向いた。

 そこには私の幼馴染みであるジェッツが、少し長い翠色の髪をなびかせ、栗色の瞳でこちらを怪訝そうに見つめていた。

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