第15話 叱られてもめげませんから!


 1日メイドをしてから、もう数日が経った。


 私は騎士になるために、ひたすら訓練を続けていだ。

 なによりこの間の実践でかなり腕を上げたことを実感出来たのだ。



 昔は魔法に頼りっきりだったけれど、今は剣の腕も磨いているからね。

 前よりも格段に強くなっているんだわ!


 そのことがとても嬉しくて、私は剣の素振りを繰り返す。

 でも不意に、本当に私が入団試験を受ける事ができるのか不安になってしまう。


 いまだ承認が降りてない以上、私は試験を受けられないかもしれないのだ。

 それに、ジェッツを手伝った結果があれだ。

 あんなに派手にやらかしてるし、トリドルさんにも見つかっている。だから絶対にジェッツの耳に入っているだろう。


 それで約束違反だとか言われたら、その通りとしか言えない自分がいた。


「これで、ジェッツとの縁も切れたかもしれないわね……」


 そうため息をついて、私は集中集中と前を向いた。

 それなのに目線の先にいた人物を見て、剣を振る手を止めてしまった。

 何故なら、ジェッツがこちらに向かって歩いて来ていたからだ。



「へー、誰と誰の縁が切れたって?クレアには僕がそんな薄情な人間に見えたんだ」

「……ジェッツ?」

「それ以外誰に見えるんだ?ああそうか、クレアの凡庸な目では僕の姿が認識出来なくなってしまったんだな可哀想に」


 こんな嫌味を言ってくる人間は間違いないなくジェッツだ!


「ちゃんと認識できてるわよ!!」

「なら早くそう言うんだな。それにどうやら怒られる準備は出来ているように見えたが?」

「ぐぬぬ……」


 確かにそうだけど、別に怒られたい訳ではないのだ。だから私は、ジェッツの顔を見ないように俯いていた。

 それなのに、何故かジェッツは私の頭に手を乗せたのだった。


「……ジェッツ?」

「とりあえず、お前のおかげでハロルド殿下に何もなかったこと、礼を言っておく」

「……へ?」


 まさか褒められるとは思っていなくて、私は驚きに顔を上げてしまう。そしてジェッツの顔を見て失敗したとすぐに悟った。

 ジェッツはニヤリと笑い、今にも私を追い詰めてやるといった顔をしていたのだ。


「しかし、今回のことは話が別だ。いいかクレア、何故いつも言われた事を確実にこなす事が出来ないんだ!?それにどうして一人で独断専行してしまうんだ!!いつも言っているだろう?何かあったら連絡が大切だと、お前が勝手に行動する事で僕がどれほど苦労をしていると思っているんだ!!?」


 いつも怒られるたび、同じ事を言われているはずなのに、ジェッツが一度に言うので私の脳が拒否反応をおこしてしまう。

 そして、毎回それがジェッツにバレてしまうのだ。


「おい、クレア。僕の話ちゃんとわかってんだろうな?」

「ひ、ひゃい!聞いてました!!」


 ビクッとした私を見て、ジェッツは眉を寄せると私の腕を掴む。


「それに、この腕……」

「いたっ!ちょっとレディの腕をいきなり掴まないでよ!」

「クレア、また魔力暴走したんだろう」


 確かにトリドルさんから逃げるときに魔力暴走を起こした。そしてこの腕はそれによって細かい切り傷が残ったままだ。


「こ、これは必要なことだったから仕方がないのよ……」

「だからといって、そんな簡単に怪我をしないでくれ。お前が怪我をすれば僕だって心配なんだ。だからもっと行動には気をつけてくれ……ただでさえ普段の行動から危なっかしいんだからな」


 腕を掴んでいるジェッツの手が少し震えている。

 その事に私は驚いてしまう。

 今までだってこういう事は何度もあったのに、こんなにもジェッツは心配症だっただろうか?

 なんだか前よりもジェッツの保護者レベルが上がっている気がして、なんだか申し訳なくなった私は頭を下げていた。


「……ジェッツ、ごめんなさい」


 そう言うと、ジェッツは私の頭にまた手を置く。そのことに再び驚いていると、ジェッツはその手に力を込めた。

 頭を押さえられてしまった私は抗議の声を上げる。


「な、何?痛いわよ!」

「クレアが、今は誰も信用出来ないことはわかっている……」


 その言葉に、私は何も言い返せなくなってしまった。

 だって、ジェッツが言っている事は本当のことだったから……。


 ─── 今はまだ、私は誰も信用できない。


 でもそれは仕方がないことだ。

 だって、婚約破棄されてから元気に振る舞ってはいるが、私の心についた傷はそう簡単に癒やされてはくれない。


「だから、今日はこれ以上言うのはやめておく」

「……ジェッツ」

「僕はハロルド殿下のする事は全て正しいと思っていた。でも今回の件は……少しだけ間違っていたと思っている」


 あのときの行動に少し後悔しているのか、ジェッツは少し眉を寄せていた。


「もう、そんなに気にしないでよ。前にも言ったけど私はハロルド殿下の事、好きなわけじゃなかったのよ?」

「でも婚約者なんて、恋愛感情は関係ないだろ?だから僕が今言っているのは方法のことだ。もっと円満に解消出来たはずなのに、時間がなくて僕はいい案が思い浮かばなかった」

「それはジェッツのせいじゃないわ!何か理由があったのでしょ……?」


 そうであって欲しいという私の願いも込めて、ジェッツに問いただす。

 しかしその答えは返ってこなかった。


「……今は何も言えないんだ。だけど僕はお前に悪かったと思っているのは事実だ。だから今回はクレアのために、騎士団の入団試験を受けられるように手配しておいた」

「……はぇ?」


 何故か謝られていたはずなのに、突然の爆弾発言に私の頭は追いつかず、間抜けな声をあげてしまったのだった。

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