第14話 憤慨(ジェッツ視点)


 今受けた報告に僕はワナワナと震えていた。

 その周りには薄らと雪が舞っている事が、僕の怒りの限界点を超えた事を現していた。


「あの脳筋ゴリラ女はまたやらかしたのか!!ちゃんと僕はこれ以上余計なことはするなと、忠告しておいたというのに!いつもいつも、心配ばかりかけるなんて!!」

「ジェッツ、まあまあ落ち着けよ。実際嬢ちゃんのおかげで、今回はハロルド殿下を守れたのは事実だからな」


 僕を宥めるためトリドルさんが僕の肩に触れようとしたので、僕はそれを振り払う。

 別にトリドルさんが嫌いな訳ではない。僕が人に触れられるのが嫌なのだから仕方がない。

 でも、そのおかげで少し僕の頭は落ち着き始めていた。


「すみません、取り乱しました。クレアのおかげなのはわかっているのですが、どうしても勝手に行動するあのバカの事を思うと頭にきてしまうのです。何故いつも勝手に行動するのかと……僕に少しぐらい相談ぐらいしてくれてもいいのに」

「それぐらいクレアの事心配してんだ~?」

「そんなことありません!!!」


 叫んだ後に、トリドルさんがニヤニヤしているのも見て、揶揄われた事に気がついた。

 これ以上話に付き合っていられないと、話題を逸らすため僕はコホンと咳払いし、報告の続きを聞く事にした。



「……それで、その買収されたというハロルド近衛隊のやつらはどうなりましたか?」

「買収まではされてないみたいだが、プロンプト侯爵の子飼いのやつらに踊らされたみたいだぜ」

「近衛隊とあろう者が簡単に殿下の元を離れるなんてありえません!!」


 ただでさえ、ハロルド殿下の近衛には自分の意思でなった者達は少ないのだ。

 だからこそ身辺調査には気をつかっているが、それでもいつ刺客が紛れていてもおかしくない程には、信用できる者が少なかった。


「でもな、今回ヘマをやらかした奴らは厳しい処分がちゃんと下る。本当は近衛隊から外したかったんだが、これ以上ハロルド殿下の近衛を減らすことはできないからな……」

「全く、こんなときにハロルド近衛隊の隊長が行方不明なんて」

「そこはまだ調査中だ。でもこれだけ探しても見つからないからな。国から逃亡したか、既に亡くなっているだろうな……」


 近衛隊隊長が行方不明になったのは、ハロルド殿下がクレアと婚約破棄をしてからすぐだった。

 だからスカーレット家が関わっているのかと捜索してみたが、その姿を追うことは出来なかった。


 全くどこもかしこも問題だらけだと言うのに……。

 ここにきて、さらなる問題が出てきてしまうとはどう言うことだろうか?


 僕は机の上に置いてある二枚の紙を見て深くため息をついてしまった。

 どんどん問題が重なっていくことに、僕は頭を抱えたくなる。



「それから紫髪の男は、今回の件とは全く関係がないみたいだな」

「そうですか……」


 紫色の髪に紫色の瞳。

 この国ではほぼ見る事のないその容姿に巨漢。

 それは隣国、カメリア国では有名な賊の首領だった。


 その男が今この国に来ている。

 狙いはハロルド殿下暗殺かと思っていたのだが、どうやら違うようだ。



「トリドルさん、緊急事態なので申し訳ないのですが」

「なんだ?」

「本日よりあなたには、ハロルド近衛隊副隊長として隊をまとめて頂きたい」

「は?俺が副隊長??」


 現在ハロルド近衛隊は隊長が行方不明、副隊長は別部隊に取られており不在だ。

 このままではハロルド近衛隊はまとまる事なく、ハロルド殿下をお守りする事すら危うい。


「正直な話、近衛隊の中で信頼が置ける者はトリドルさんを含めてあと2、3人しか存在しません。それなのにその方々も、隊長を探すという任務に着いているため現在王都にいないのです」

「確かにそうだけどよぉ……俺なんかで大丈夫なのか?」

「僕が見たところ、トリドルさんは周りからの信頼が高いと思っているので適任ではないでしょうか?」

「そうかぁ?」


 と首を傾げつつ、了承してくれたトリドルさんにお礼をして、僕はもう一枚の紙を手に取り眉を寄せる。



「何よりも、もう一枚のこの紙に書かれている内容……問題は山積みですね」


 僕はため息をついてその紙を改めて見る。

 その紙には何度見返しても、クレアの似顔絵が描かれていた。

 そして大々的に書かれた内容に顔をしかめると、これがクレアの目に止まらないようにする方法を僕は頭で考える。


 それにクレアに会ったときは、顔に出さないよう気をつけなくてはいけないなと、クレアのアホ面を思い出す。

 それよりも次会ったまずは説教だと、僕はほくそ笑むのだった。

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