第80話 今すぐに伝えたい!
「話は変わりますが……クレアさんがハロルド近衛隊に配属されたら、俺は当分クレアさんに会う事が出来ません」
「えっと、まぁそうですよね……」
ロイさんはハロルド近衛隊に所属している訳じゃない。それに元から忙しい人なのだ。今までこんなに遭遇していた事が逆に凄いと言うべきなのだろう。
でもこんな状態ならこのまま顔を合わせない方が、私としてはありがたいかもしれない。
「あ、別に所属が違うからとかではなく、また遠征に行く事になりまして、今度は数ヶ月程王都を離れるんです」
「ああ、そうなんですか?」
「どうしてもその前に会いたかったんです。ついでに喜んで欲しくて結果を伝えに来たんですが……ご迷惑でしたか?」
「いえ、その事は助かりました!このままだと、また結果を見る事が出来ない気がしたので……」
「そうでしたか、ならよかったです」
少しホッとした表情を見せたロイさんは、改めてこちらに向き直ると笑顔で言った。
「遠征から戻ったときはハロルド近衛隊に復帰しますので、そのときはまたよろしくお願いしますね」
「え?ええええええ!!!?」
一瞬理解するまで時間がかかったが、そのあり得ない話に私は叫び声を上げていた。
「そんなに驚く事でしたか?」
「は、はい。だってロイさんって第一部隊副隊長だって……それにそんな簡単に行ったり来たり出来るものなんですか?」
「俺の扱いは少し特殊なので……」
そういえばこの人は国でも数人しかいない幻術使いなのだった。
きっと特殊な事例なんて沢山あるに違いない。
「わかりました。今は混乱していますが、一応はロイさんの帰りを待ってますから、気をつけて行ってきて下さい」
「その言葉だけで、俺は頑張れる気がします」
そっと手を差し出すと、ロイさんはしっかりとその手を握りしめウィンクした。
「戻ってくるまで俺のことも待ってて下さいね。それからライズさんと、どうなったかの結果も教えて下さいね?」
くぅ……。これはずるいわ!
ロイさんってイケメンなのに、ウィンクまでバシッと決めるんだもの。
だから私の顔が赤くなっていても仕方がない、仕方がない事なのよ!さっきの告白のせいなんかじゃないわ……。
そう言い聞かせ、赤くなった顔を見られないようにすぐにその場から立ち去る事にした。
それから私は特に予定もなく歩いていた。
そのはずなのに、気がつけばハロルド近衛隊に入れた事が嬉し過ぎて走っていたのだ。
とにかく、このことを誰かに伝えたかった。
先程ロイさんに会ったのは朝練を終えた後だったので、まだ日が昇ってそんなに立っていない。
そのせいか朝日で世界が輝いて見える。
─── 私、ハロルド殿下の近衛になれるのね!
嬉しくて更に走る速度は上がり、気がついたらある人物を探して走っていた。
この時間なら朝練を終えてあそこにいるはずだと、訓練道具が置いてある倉庫の近くをのぞく。
そこには思った通りの人物がいて、早くもこちらに気がついてくれたようだった。
「おはよう、クレア……ってそんな勢いできたらぶつかるよ!!」
「おはよう、ライズ!止まるからそこどいて!!」
急には止まれないスピードで走っていたため、その勢いのままライズに突っ込む。
そして突然避ける事なんて出来るわけもなく、ぶつかったライズは尻もちをついていた。
「いたた……って、ごめんライズ!って、あら?」
そんな私は尻もちをついたライズの上に、勢いのあまり乗ってしまっていたわけで……。
わ、私ってばライズに告白した後なのに、こんな恥ずかしい事をしてしまうなんて……これじゃあ、いつもとかわらないじゃない!?
「あの、その!これは偶然で……その、だ、大丈夫かしら……?」
「う、うん。俺は平気だけどクレアこそ大丈夫?」
「ライズのおかけで私は全くだけど……」
この恥ずかしい格好以外は……。
「それなら、申し訳ないけど上から降りてもらえると助かる……」
「あっ!ご、ごめんなさい!すぐにどくわ!!」
立ち上がった私は、きっと顔が真っ赤になっていただろう。
そしてライズは軽く砂を払いながら立ち上がると、そんな私をじっと見つめてきたのだ。
「何?」
「クレア、何かいい事あった?」
「えっ!?」
顔が赤くなってるはずなのに、そんな中でも顔に出てしまっているのだろうか、私は両手で顔を押さえてしまう。
そしてライズをチラリと見ると、恥ずかしそうに呟いた。
「……ハロルド近衛隊の配属が正式に決まったの」
「え!?本当?発表は明日なのにどこ情報なの?大丈夫、クレア……何か騙されたりとかしてない?」
大袈裟に心配してくれるライズに、過保護というよりも私を何だと思っているのだろうと、ため息をついてしまった。
「ロイさんから聞いた情報だから間違いないわ!」
「ロイさんか……なら間違いないのかな?」
何か思うところでもあるのか、ライズは少し考える素振りを見せた。
だから私はロイさんに言われた事をライズにも伝えてしまった。
「私さっき、ロイさんに告白されたの……」
「え!?」
「私はライズの事が好きだからって伝えたんだけど、諦めないって言われたわ」
別にこれを言ったとしても、ライズが私の事を気にしているのかなんてわからない。
でも少しでもライズに気にして欲しいなんて思ってしまう、私がいたのだ。
「そっか、ロイさんか……」
だからそれはどっちの意味なの?
私はライズが何を考えているのか全くわからなくて、ロイさんにライズだけはダメだと言われた事を思い出してしまう。
でもそんなはずがないと首を振って、私はライズを見た。
「ライズ、私は何を言われたって気持ちはかわらないから……それだけは覚えておいて欲しいわ」
「……わかった。でももう少しだけ、考えさせてくれるかな?」
「ええ、ライズが納得のいく答えが出るまで私は待つから……」
そしてまた一瞬だけライズは何かを考えていた。そしてすぐ切り替えるように私に笑顔を向けつつ両手を包み込んだのだった。
「でも今はクレアを祝う事の方が大事だよね?ハロルド近衛隊配属おめでとう!なんだか自分の事のように嬉しいよ!」
「あ、ありがとう。振り返ると今までの行動が恥ずかしいわね」
「ははは、でも恥ずかしがるクレアも可愛ね」
ライズったらまたすぐにそんな事を言うものだから、勘違いして私の顔が更に赤くなるじゃない!
「なによ!からかってるの?」
「わかった?そんな所も面白いよね」
「もー!!人をからかってないで、ライズの希望先も教えなさいよー!!」
これが一番知りたいことだなんて、ライズには絶対言えないけど……。
「それはまだ秘密」
唇に人差し指を当てて優しく笑うその姿に、何故か私は深く追求することもできず口を閉ざしてしまった。
振られてもライズと離れるのだけは嫌だわ……。
そして私はライズが何処に所属したのか、怖くて結果を見に行くこともできないまま、配属の日を迎えることになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます