第79話 突然の結果はやめて!
「え!?ハロルド近衛隊に所属の許可が下りたんですか?」
呆然と立ち尽くす私は、わざわざ結果を教えに来てくれたロイさんを見上げた。
「おめでとうございます。これでクレアさんも来月からハロルド殿下の近衛隊に所属できますよ」
「あ、ありがとうございます!!」
確か結果が出るのは明日だった筈なのに、ロイさんは私を驚かそうとしてくれたのかもしれない。
嬉しさの余り私はつい、ロイさんに抱きついてしまった。
「あの、ちょっとクレアさん……!」
「あ、すみません。余りの嬉しさに!」
はしたない事をしてしまったと、私は慌ててロイさんから離れようとした。
それなのに今度はロイさんが離してくれなくて、私は不思議に思い顔を見つめる。
恥ずかしそうに目をそらしながら、ロイさんはポソリと呟いた。
「……あの、実はクレアさんがハロルド近衛隊に入れるように少し頑張ったので、俺もご褒美貰っても良いですか?」
「え?」
ご褒美って何?
って言うか私の為に、ロイさんが頑張ってくれたってどう言う事!?
確かにロイさんは今、期待の大型新人なのは知ってるけど……かなり上層部にまで伝手があるのかしら?
なんて考えていると、ロイさんは私を強く抱きしめた。こんなに熱烈なハグをされたのは初めてで、私は顔が赤くなるのがわかる。
とにかくこれがご褒美になると言うのなら、私が照れてはいけないと冷静になろうと、私はロイさんについて少し考えていた。
さらさらな金髪に少し少年っぽさが残る綺麗な顔。普段はとても大人っぽく見えるけど、ロイさんはこれでも一応年下なのよね。
でもこうやって甘えてくれるって事は、少しでも私の事をお姉さんだと思ってくれてるのかしら?
そう思ったら少し嬉しくなったが、それにしてもロイさんにここまでしてもらえる理由は全くわからないままだった。
「あの聞いてもいいですか。どうして私の事をこんなに気に留めてくれるんですか?」
少し言い淀んだロイさんはようやく私を離すと、じっと瞳を見つめてきた。
「…………私は貴女に忠誠を誓っていますから、貴女の望む事を叶えて上げたい。その答えでは不満ですか?」
忠誠を誓った理由だって私は知らないのにその答えでは不満しかない。
「不満そうな顔ですね……」
「ちょっと、人の顔を勝手に読まないで下さい!」
「ではこうしましょう。俺はクレアさんを助けると言ったのに、昇進試験の日に何も出来ませんでした。これはそれのお詫びとして……」
「それはロイさんがその日、王都から離れていたから仕方ないです!」
あの日というか最近までロイさんは、どうしても外せない護衛任務があったらしくて、ずっと王都にいなかったのだ。
「でも、俺はクレアさんの大事なときに支えられなかったのが悔しかったんです。あんなに頼って欲しいと言ったのに大事な所で役立たずですみません……」
「そんな事ありませんから謝らないで下さい。私は無事でしたし、あのときはライズが助けてくれましたから!」
「…………また、ライズさんですか。やはり、そうなんですね……」
ライズの名前にロイさんは少し眉を寄せ、何かを思案したと思ったら真剣な顔で呟いた。
「もう一度抱きしめてもいいですか?」
出てきた言葉に驚いて、私は反射的に拒否する。
「え、なんでですか!?だ、ダメです!!」
あんな恥ずかしいのはもう無理と、足が2、3歩後ろに下がっていた。
その様子にロイさんは一瞬少し悲しそうに目を伏せたが、改めてこちらを見つめるその瞳は何かを決意した顔だった。
「ごめんなさい、クレア様。少し強引に行きます」
そう名前を呼ばれたときには、ロイさんにまた抱きしめられていた。
「え?いや、その……」
「クレア様が、あの男の事を好いている事はわかっているつもりです」
っえ!?な、なんで……どうしてそんな事知ってるの?
驚きのあまり、私は声が出ない。
「クレア様が誰と付き合っても、俺は文句を言うつもりはありませんでした。でも、あの男だけは絶対にダメです」
「……どうして、ですか?」
「あの男は信用できません。いつかクレア様を悲しませると俺にはわかるからです」
「そんなこと、なんでロイさんがわかるんですか!?」
私はロイさんの発言が許せなくて、無理矢理抱きしめる腕から抜け出していた。
しかしロイさんに手を掴まれてしまったのだ。
「あの男にするぐらいなら、俺にしてください」
「な、何を言っているのかわかっているのですか!?」
「ええ、俺はクレア様の事が好きですから……」
「へ?」
ロイさんが私の事を好き?
「いや、流石にからかってますよね?」
「そんな事はありません。俺は昔からずっとあなたの事が好きでした」
「む、昔から!?」
それって、ハロルド近衛隊にロイさんが入ったときからってことなのかしら……?
いやいや、今はそんな事考えてる場合じゃないわ!
「俺がクレア様を気にかけるのも、何かしてあげたいと思うのも本当は全て、クレア様の事を愛してるからなんです!」
そう言われれば、先程の疑問も全て私の事が好きだったから……というその一言で解消されてしまう。
だけど何か焦っているように見えるロイさんを見て、本当にそれだけなのだろうかと疑問に思ってしまう。
だからこそ冷静になってきた私は、ロイさんを見つめる。
「ロイさん。お気持ちは嬉しいのですけど、私はライズが好きなんです……」
「それは知っています。それでも俺は絶対に認めません」
「いやいや、なんでロイさんの許可がいるのですか?」
「許可なんて関係ありません。それに例え二人が想い合っていたとしても、俺は絶対に諦めませんから。もしクレア様を傷つけでもしたら、すぐに貴女をあの男から奪いに行きます。だからそれだけは覚えておいてください……」
そう笑顔で言うロイさんは、ようやく私の手を離したのだった。
「すみません。本当は言うつもりなんてありませんでしたけど……ライズさんの事を嬉しそうに言う姿を見て、いつかクレア様が傷つくのかと思ったら俺の感情を抑えられませんでした」
「いや、その」
「でも今の話は嘘ではありませんので、しっかり覚えておいてくださいね」
いや、圧のある笑顔で言われても困るわ。
ただでさえ、まだライズから返事を貰ってないのよ。それなのにそんな事言われても……。
困ってる私を見たからなのか、ロイさんは今の事などなかったのように話を変えたのだった。
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