第78話 願掛けします!
ライズについて行った先は、先程いた共通講義が入っている騎士団詰所内の更に上、監視塔用の望遠鏡が置いてある近くまで私達は上がってきていた。
因みにこの騎士団詰所は遠くを見渡す為の監視塔にもなっているので、上の方はかなりの高さになっている。
「こんな上まで来て一体何があるの?」
「ほらクレア見て」
監視塔の一番高いところではないが、それでもそこからの景色は圧巻だった。
見渡す限りの城下街に、遠くには地平線まで見える。そして今は日が落ちる時間帯、赤く染まる城下街に、私は感嘆の声をあげていた。
「すっごく綺麗……」
「俺も初めて見たとき同じ事を思ったよ。でも今は時間が無いから景色を楽しむのはまた今度にしよう」
「え?」
景色を見せる為に来たんじゃないの?
「今日は願掛けだからねそっちを優先しよう」
「あ、そうよね。それで願掛けは?」
「時間がないからよく聞いてよ。この場所では日が沈む丁度に願いを言うと、その願いは叶うっていう願掛けがあるんだよ」
「日が……?ってもう日が沈み始めてるわ!」
私は水平線と太陽を見比べて、日が沈む瞬間を睨むように見つめた。
「よく見てても沈む瞬間ってよくわからないからね。クレア集中だよ!」
「わかってるわよ」
そう言って私達二人は黙る。
私は祈りながらその時を待っていた。
ゆっくりと沈む日は城下街に飲み込まれるように美しく消えていく。
今!!と、私は目をつぶって願いを唱えた。
─── ハロルド近衛隊に入れますように!!
どうか、どうかと何度も呟く。
ゆっくりと目を開けたとき、世界は暗闇に飲み込まれ、城下街はランプの光で幻想的に輝いていた。
「綺麗……」
「この景色もクレアに見せたい景色だったから、一緒に見れてよかった」
そう言って暫く二人で眺めていると、静かな夜景にライズの声だけが聞こえてきた。
「少しは気が紛れた?」
「……ライズ」
暗闇の中のライズの表情はわからなかったけど、きっと笑っているのだろう。
だから私の顔も見えないだろうと、少し顔を赤くして私は小さな声で呟いた。
「ありがとう」
スッキリとした頭で私はまた城下街を見つめる。
そして私は思ったのだ。
もしかするとライズと一緒にこんな風に景色を見れるのは、もう最後になるかもしれない……。
それならこのまま想いを伝えられずに別れるよりも、言ってスッキリした方がいいんじゃないのかしら?
どんな結果になろうと、今の私なら全て受け止められる気がするから……。
そう決意した私の目にもう迷いはなかった。
「あの……ライズに聞いて欲しい事があるの」
「ん?どうしたの、クレア……」
そのエメラルドの瞳がこちらを向いた。
それだけで私の心臓はドキドキと鼓動は早くなるばかりで、ライズと夜景が相まってその姿がいつもよりカッコよく見えてしまう。
ゴクリと、私の喉がなるのがわかった。
きっと緊張して手は震えているのでしょうね。
「クレア、ゆっくりでいいから伝えて?」
その優しい声に私はコクリと頷く。
そして大きく深呼吸すると、私はようやく口を開く事ができたのだ。
「わ、私は……ライズの事が好き」
「…………え?」
ライズの瞳が大きく見開いたのがわかった。
きっと私に告白されるなんて全く思っていなかったのでしょうね。
私の事を恋愛対象として見ていないのはわかっていたけど、これは少しくるものがあるわ……。
でも今なら、すぐ取り下げれば間に合うかしら?
「ライズ、今の話は……」
「本当?」
「え?」
「クレアが、俺を好きだって言うことだよ」
「……ええ、そうよ。本気でいっているわ……私はライズの事がずっと好きだったの。何度も言わせないでよ……」
「そっか……」
えっと、その微妙な反応はなんなのかしら?
これは失恋したと言う事なのか、そうじゃないのかハッキリ答えて貰えないと、ずっと私の心臓がドキドキしてて死んじゃいそうなんですけど!?
そんなライズは私の告白を聞いて考えるように、夜景を見ていた。
「ねえ、クレア。少し返事は待たせてもらってもいいかな?」
「……へ?」
「俺にも少し考える時間が欲しいんだ。そんな俺って優柔不断かな?」
「い、いえ、そんな事ないわ!私、ライズの答えを待ってるから……」
期待はしてないけど、こんな気持ちでずっといないといけないなんて……ライズとこれからどうやって顔を見合わせたらいいのかしら?
「でも返事を返すまでは、クレアとは今のままの関係でいたいな」
「ライズ、あなた酷なこと言うのね……」
「ごめんね。俺、クレアに避けられるのは嫌だからさ」
それって期待してもいいってことなのかしら?
ああ、勢いで告白してしまった事をすでに後悔しているわ……。
「でも、願掛けは効くといいね?」
「……そうね」
そう言うと、私達は無言で再び夜景を見はじめた。
でも私は、夜景よりも真面目な顔をして何かを考えるライズの顔を見つめながら、この先もずっと一緒にいれたらいいのに……と、思ってしまったのだ。
こうして、願掛けのお陰で私の不安は取り除かれた。
だけど私には、新しい不安を残したのだった。
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