第77話 ハロルド近衛隊を希望します!!


 共通講義室につくと、本人確認の為の人物認証魔導装置に触れ、本人確認がとれたことでようやく部屋の中に入る事ができた。

 毎年他人を装って入ろうとする人が必ず現れたりするらしく、それの対策らしい。


「それにしても、全体の10%に資格があるって聞いていたけど、近衛希望者自体は5%ぐらいなのかしら」

「それはしょうがないよ。近衛隊は花があるけど相手は雲の上の存在だし、粗相を恐れる人だっている。それに王族を守る為に騎士に入った訳じゃない人も居るだろうからね」


 まあ、騎士になった人間は貴族ばかりではないから仕方ないわね。

 それにこの国の王族は皆暗殺の危機を抱えているから、そんな死ぬかもしれない所入りたくない人だっているはずだわ。

 私は受付の人から希望用紙を受け取り、勿論ハロルド近衛隊希望と書き記し、その紙を持って受付の人に渡しにいった。


「確認しますね。ええと、あの……」


 確認しようと用紙を読み始めた受付のお兄さんは、言いづらそうにこちらをチラリと見た。


「何か不備がありましたか?」

「いえ、そう言う訳ではなく……あなたはクレア・スカーレット様ですよね?」

「そうですけど。でも、もうスカーレットでは無いですが……」


 その問いに受付の人は深いため息をついた。

 そして内緒話をするように口の横に手を当てて小声で話しだす。


「あのですね、クレアさん。もしかするとこの希望は通らないかもしれません」

「……え?」


 言われた事が理解出来ず私は固まってしまった。

 そんな私に申し訳なさそうに受付のお兄さんは言葉を続けて言う。


「成績などには全く問題は無いのですが、最終判断をするのは上層部です。そしてあなたは元婚約者なのでもしかしたら危険人物として、上層部から許可が下りないかもしれません」


 そ、そんな……。

 ここまで頑張ってきたのに全部無駄だったって事なの?

 言われた事を理解した私は、顔が真っ青になりながらその人に必死に聞き返していた。


「そ、それって絶対無理って事ですか?」

「そうとは言いませんが、もしかしたらという事です。なので希望が通らなくても諦めて下さいね。もし今希望を変えるのでしたら、変えられた方は確実に通ると思いますが……どうされますか?」


 どうするかと言われても……。

 でも絶対に無理という事じゃ無いみたいだし、少しでも希望があるのなら私はそのその希望にかけるまでよ!


「希望は変えません。このままでお願いします」

「わかりました。一応忠告はさせて頂きましたからね」

「はい、落ちても文句はいいませんから安心して下さい」


 そうは言ったものの落ちたら私は落ち込みのあまり、数日寝込んでしまうかもしれないわ。

 既に少し落ち込んでいる私はふらふらと出口の方へ向かっていた。


「クレア!」


 そんな私に気がついたのかライズが追いかけてくる。


「あ、ライズ……希望はもう出したの?」

「うん。俺は決めてたからすぐに終わったよ。それで、クレアはどうしてそんなに落ち込んでるの?」

「いや、あのそれが……」






 会話をするため私達はバルコニーに出て、先程受付の人に言われた事を全てライズに話していた。


「そっか、そんなこと言われたんだ」

「もうどうしようも無い事だってわかってるんだけど、それで落とされたらって考えたらやるせ無くて……」


 俯く私は口を強く噛み締める。

 そして私の強く握っていた手に、そっと手が重なった。

 ハッと顔を上げると、優しいエメラルドの瞳と目が合った。そのことにドクン心臓が大きく跳ねる。


「じゃあ、一緒に願掛けしに行く?」


 その笑顔はどこまでも優しくて私にはとても甘い。顔が赤くなる私は、そんなライズについ甘えたくなってしまう。


「うん。すぐに行きたいわ……」

「よし、そうと決まったらすぐに出発しよう」


 手は握られたままなのにライズはそのまま歩いて行こうとしてしまう。そのことに私は焦っていた。


「ライズ、手!流石に繋いで歩いてたら周りに勘違いされるわ」

「あ、そっかー。なんかクレアといると保護者の気分になっちゃうからさ」

「保護者……」


 やはり保護者としか思われていないのだと、私はショックを受けてしまう。


「ははは、気にしない気にしない早く行くよ!」


 そう言いながら先に歩いていくライズの後ろ姿を、落ち込んだ顔を見られないように追いかける。

 そして気になった事を聞いていた。


「ちょっと待って。願掛けっていってもそんなスポット何処にあるの?」

「いいから黙ってついてきて」


 そう言うライズがカッコよく見えてしまって、私はその後をドキドキしながらついていったのだった。

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