第70話 暗示って強すぎない!?
信じられない光景につい心の声が口から漏れてしまっていた。
だって商人は探しても見つからない筈の人物なのに、それなのに何故かライズと一緒にいたのだ。
「ら、ライズ!どうしてここに……あなたこの商人と知り合いだったの?」
そう言って思い出す。そう言えば前、お忍びで城下街にロイさんと出かけたあの日、私はライズが商人と歩いている所を一瞬ではあるが見ている。
「そんな、じゃあ……」
ライズはそちら側の人間だったって事?
「うそ!嘘よね、ライズ!!?」
ライズは私の問い全く反応する事なく、何処か宙を見つめている。その様子はどう見ても普通じゃない。
でもその様子に思い当たる事があった。
もしかしてこれがヨシュアが言っていた暗示?
それがライズにもかけられているだけなら、私はライズを敵と認識できないわ!
いや、本当は敵だなんて思いたくないだけかもしれないけど……。
そう考えつつ少し冷静になれた私は改めて商人を見る。
男は相変わらず派手な格好をしており、ライズより少し前に出ながら、私の方を向きニヤリと笑ったのがみえた。
その姿は以前街で見かけたような、貴族の男の前でヘコヘコしていた姿と全く異なっていた。
きっとこちらが、本来の姿なのだろう。
その瞳を見た瞬間、左目が少し傷む。
「まさか自分から飛び込んでくるとは、そしてやはり暗示は効かないか……流石は破壊の女神さまだね」
「破壊の女神??」
聞いた事がない単語に私は首を傾げる。
「はは、知らないままの方が幸せな事もあるんだよ。そして私の役目は終わった、だが自滅してでもやらなくてはならない事があるんだよ……ははははは!!」
「何をいっているの?」
突然笑い出した男に、私は後退りかける。
この不気味な男をすぐに捕まえなくてはいけないと思うのに、頭では今すぐ逃げろと言ってくる。
それなのに男から目が離せない私は動く事ができず、笑い終わるのをただ見ている事しかできない。
そして横にいるライズはそんな男を全く気にせずに佇んでいた。
笑うのをやめた男は、私に焦点を合わせるとニタリと口を歪める。
「あーあ、無駄話をしてしまったよ。でもそんな事はどうでもいいんだよね。だって君は、今日ここで死ぬのだから!」
一瞬男の目が光った気がした。
気がついたときには商人の横にいたライズが大声で叫んだ。
「敵襲だ!賊が紛れ込んだ、すぐに応援を要請する!!」
一瞬、賊と言うのはこの男の事だからライズが正気に戻ったのかと思ったのに、横にいる商人は全く動く気配はない。
どう見ても、楽しそうにニヤニヤとその場で立ち止まっていた。
そしてこちらに駆けつけてきた他の騎士達も、様子がおかしい事に気がついたのだった。
「賊はそこにいる者です!」
ライズが私を指差したと思ったら、騎士達は私を見て一斉に剣を向けてきたのだ。
「え!?ぞ、賊はどう見てもそっちでしょ!!」
「何を言っている!!こいつを引っ捕らえろ!」
話なんて聞いてくれる気配のない騎士達は、問答無用で剣を振り下ろす。
切られそうになるのを間一髪で避けつつ、すぐさま後ろに走り出した。
「くっ……!一体どうなってんのよ!!」
どうして追いかけられなくてはならないのかと困惑しながらも、私は風魔法でスピードを最大限上げるとその場を後にした。
そして立ち去る最中、商人の目から黒いもやが見えたことで私は確信する。
やっぱり皆、暗示にかかっているんだわ!
それに暗示魔法って一体何なのよ!こんな事ならヨシュアに、詳しく聞いておくんだった。
今更愚痴っても仕方がない。
それよりも今はあの商人と暗示について考えることの方が大事だ。
先程こちらに向かってくる騎士達は、一瞬で暗示にかかっていたように見えた。
本当にそんな事が可能なのだろうか?それともこれは前から準備されていた事……?
そんな事を考えては、やはり1番気になるのはライズの事だった。
こんなにも沢山の人が暗示にかかっているのなら、きっとライズもそうなのよね?
信じたい、信じたいけど……ライズと商人は前から知り合いだし、そうとは限らないかもしれないじゃない。
───もしかしたら本当にライズは敵……。
そう考えて胸がチクリと痛む気がして、私は足も思考も止めてしまった。
「いたぞあっちだ!!」
その声に我に帰る。
まだかなり遠くにその姿は見えるが、その声と足音に、人数が増えているように見えて嫌な予感がした。
一瞬足を止めただけなのにすぐに見つかるし、どう見てもさっきよりも敵が増えてるわ!
この人数を前から暗示していたとも思えないし、本当に視界に入った瞬間に暗示にでもかかるというの?
もう本当、一体どう言う事なの!?
わからないことだらけだけど、とにかく今は足を止めるわけにはいかないわ!
なによりこのまま第一演習場に向かうと、一般市民まで巻き込む事になってしまう。それだけは絶対に避けなくてはならない。そして暗示にかかっている人が増えられても、私が困る。
ならば今は使われてない他の演習場で迎え撃つのが一番だろう。
でもなんでまた命を狙われているのか、全然わからないんだけど!!
やけくそ気味になった私は、追いかけてくる騎士達を誘導するように、第七演習場へと駆け込んでいった。
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