第71話 追い込まれても挫けません!
とにかく今の私が言いたい事はただ一つだけよ。
万事急須!!チェックメイト!もう打つ手もないわ。
演習場内の試合場、私はさらにその中心に立っていた。
その周りには暗示をかけられているのだろう騎士達がズラリと並んでいる。
完全に取り囲まれてしまったのだが、そこから何故が様子がおかしい。
何故この人達は私から少し距離を保ったところで立ち止まっているのかしら?
もう後一歩まで来ているのだから、とっとと殺ればいいのに騎士達は先程までの威勢は鳴りを潜め、剣を構えたまま止まっている。
何より騎士達は私を見てもいない。
その不気味な光景に、攻撃をするべきなのかどうかを悩んでしまう。
この人達は暗示にかかっているだけだから手を出せないし、それならいっそ今のうちに逃げるしか無いのかしら?
「おやおや、この状況から逃げようと思っているのかい?」
声がする方を見ると、商人の男が観席に座り楽しそうに此方を見ていた。
「何なのよ、あんた!私はあんたの余興に付き合ってる場合じゃないのよ!」
「はあ、この状況でもまだ威勢がいいとは面倒な女だね。私としてはもっと絶望的に顔を歪めてくれないと面白くないというのに、そうだ!いい事を思いついた」
そういうと、男は軽く手を上げた。
何をしたのかと警戒を強める私の前に一人の男が姿を現し、その姿に目を見開いた。
「ら、ライズ……?」
目の前にゆらりと立ち塞がったのは、ライズだった。そのことにとても動揺している私がいた。
いつもと同じエメラルドの瞳なのに、そこから全く優しさを感じる事が出来ない。
「知り合いに殺されるなんてとても絶望的でいいよね?」
「なんて悪趣味な!く、ライズ!ライズ私の声が聞こえないの!?正気に戻ってお願い!!」
何度叫ぼうと、目の前のライズは全く動じない。
私の言葉なんてライズには、届かないのかも知れない。
それに私はライズを攻撃するするなんて、絶対にできないわ!
……だって私は……。
私は、ライズの事が好きだもの……。
そう理解した瞬間、私は今の状況に絶望する。
そして、そんな私の思考を遮るように男が嘲笑ったのが見えた。
「何をしても無駄だよ。今の私は魔力増強剤で暗示の効果はいつもの数倍以上。誰にも私を止める事は出来ないからね」
「そんな強い暗示をかけられるのに、何で私なのよ?」
国の重要人物は沢山いる。
それなのに一騎士見習いなんかに、こんな全力でくるなんてこいつ頭おかしい。
「だって、君ったら私の邪魔ばかりしてくれちゃってね……君が婚約破棄されたときに田舎に引きこもってれば良かったものの!まさか私の作戦が失敗するなんて思わなくてね。そのせいで私は国に帰れなくなったのだから、こうまでしないと私の腹の虫が治らないんだよ!!」
こいつの言っている意味がわからないけど、多分こいつは私が婚約破棄をされた事に、何か関わりがあるという事だけは理解できる。
「なんだか無性にイラッとする事を言われた気がするわ、私は絶対にあんたみたいなやつに、殺される訳にはいかないから!!」
「全くこれだからバカは嫌いなんだ。本当に無駄な話をしてしまったな。お前ら、とっとと殺してしまえ」
男の目が光ると、止まっていた事が嘘のように全員が一斉に動き出した。
「くっ!全員で来るなんて聞いてないんですけど!!」
ライズだけと戦わせるのかと思ってた私は、やはりバカなのかもしれない。
動かないライズと対照的に、周りの騎士達は一斉に此方に剣を振り上げた。
咄嗟に私は風魔法で防壁をはる。風の勢いで数人の剣が飛ばされて行くのが見える。
そしてよく見ると、騎士達は謎の白い粉を私に投げつけているようだった。でもそれが何かわからない為、今は騎士達への対処を考える事を優先する。
風でいっぺんに飛ばしてしまう事は出来るけど、そうすればこの人達に怪我を負わせてしまうわ。
今の私の実力では全員を無傷で昏倒させる事も出来ないし……。
一体どうすればいいの!?
一番の問題は朝から魔力を使い続けているから、そんなに長く持ちそうにない事ね。
魔力が切れたときは死あるのみ。それまでにいい方法を思いつくしかないわ!
そう思った瞬間、突然の激痛に私は目眩を覚える。
くっ……!また左目が……これはヨシュアと決闘のときと同じ感じ……まさか魔法封じ!?それも前以上に強烈な魔法封じだわ!!
やっぱり、あのときもこいつの仕業だったの……!?
左目を抑える私の周りでは、風達が少しずつ鳴りを潜め、ついに私を守る壁は全て無くなっていた。
「やった、魔法封じも成功した!一気に仕留めてしまえ!!」
男が興奮して席を立つ音だけが、ふらつく私の耳に届く。そしてライズが剣を振り上げたのがわかった。
うまく動かない体を動かして避ける為、後ろに下がろうとしたがその手をライズに掴まれる。
しまった!と思ったときには、すでにライズの剣が目前に迫っていた。
咄嗟に目をギュッと閉じ、そのときが来るのを受け入れようとした。
……………………………。
しかし幾ら待ってもそのときは訪れなかった。
あれ?痛くない……。もう既に死んじゃってるから痛くないのかしら?それに何か暖かい。
なんだか誰かに抱きしめられているみたい。
これが死後の世界だから暖かく感じるのかと何故か納得していると、上から声がした。
「クレア、そのまま目を瞑っていて」
「へ?」
その優しい声は何処から聞いても、いつものライズの声で……その事に私の心臓はトクンと、高鳴ったのだった。
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