第4話 騎士団に入る為に特訓します!
騎士団に入ると決意をした日から、私はすぐに猛特訓を始めていた。
なによりスカーレット侯爵家には、騎士団副団長である母がいるため、とても広大な私兵用の訓練施設が備わっているのだ。私はその訓練に混じりつつ、日々鍛錬をしていた。
それなのに今の私は、腕立て伏せをしながら現状を嘆いているところだった。
試験まで後二ヶ月を切っているのに、まだ私が試験を受けられるかどうかの審議が通っていないって、どういうことなのーー!?
そう憤ってはいるけど、私はお父様が頑張って下さっていることを知っているため、それを口に出す事はしない。
代わりにその気持ちを、ずっと筋トレにぶつけていたのだ。
だけどこのままずっと承認されなければ、今年どころか来年もその次も入団試験を受けられない可能性があるのだ。
それはつまり、私は一生騎士になれないということになる。
因みに騎士になるための方法は二択。士官学校を卒業する事、又は入団試験を受けるかのどちらかである。
士官学校は簡単な入学試験とお金さえあれば通えるが、だいたいの平民はそれを支払う事ができないので入団試験を受ける事になる。
もちろん貧乏貴族だとしても条件は同じだ。そのために貴族でも入団試験を受ける者は結構多い。
そして殿下の婚約者だった私は、もちろん士官学校には通っていなかった。
さらにこの年齢では、もう入ることもできないため入団試験を受けなくてはならないのだ。
だから今私ができるのは、お父様を信じて待つこと。そして待っている間は、訓練あるのみ!!
もし試験が受けられるようになったとき、女性だからといって舐められる訳にはいかないもの。
実はこの国の女性騎士は少ないため希少ではあるが、力では男性に敵わないことから下に見られやすい。
そもそも女性騎士は魔法が発展したことにより、実力をカバーできるようになった女性達によって発足したものである。そしてその数は、年々増えていた。
しかし魔力が高い者は貴族である事が多いため、女性騎士の殆どが貴族の女性であった。
そんな私も魔力が高く風魔法を得意としていた。
しかし魔法とは、いまだに発展途上のものであるため、とても優秀な上級魔道士でさえも、魔法陣を組み合わせた魔術でないと、強力な魔法を引き出すことができないのが現実だ。
なので魔法を使えたとしても、大体の人は初級魔法しか使えないのである。
それでも私は普通の人よりとても魔力が高いことから、魔法のゴリ押し戦法が得意だった。
ハロルド殿下を守るときも常に風魔法を使って敵を蹴散らしていたのだ。
だがしかしこれでも数日前までは令嬢として、なるべくお淑やかに生活をしていたつもりである。
だからこそ今は基礎体力や、筋力がまだ伴っていない事を痛く実感しているところだった。
そう思っている私は、とにかく筋トレ!と言いながら腕立て伏せ百回を数セット終わらせ、一息つこうと丁度水を手にしたところだった。
屋敷の方から侍女であるエレノアが手を振り、慌ててこちらに駆け寄って来るのが見えたのだ。
「クレアお嬢様、お客様がおいでです。至急ご準備をしますのでこちらへ!」
こんな私に、誰が会いに来たと言うのかしら?
急いで着替えを終えた私は客室に早足で向いながら、そういえば誰が来たのかを聞いていなかった事に気がついた。
そして今から聞く時間もないため、とりあえずその扉を開けたのだ。
その先にいたのは───。
「クレア、あの日以来だな……」
そこには私の幼馴染であるジェッツ・マーソンが、椅子に座りながら待っていた。どうやら疲れているのか、その顔色はとても悪い。
しかし今は会いたくない人物でもあるため、私は顔を顰めてしまう。
だってこの男はハロルド殿下の侍従であり、婚約破棄のときに私をエスコートしていた相手でもあるのだ。
つまり、私が倒れたのも横でバッチリ見ていたはずである。
それなのに何故……?
「こんな私に、よく会いに来れたものね」
対面に座り、つい思っていた事をそのまま言ってしまう。
しかしジェッツはその言葉に少し眉を歪めただけだった。その予想とは違う態度に、私は少し驚いてしまう。
おかしいわ。
いつもならすぐに反論してくるくせに、今日は何も言ってこないなんて。
幼馴染みである私は、これでもジェッツの性格をよくわかっているつもりだ。
だからこそ何も言ってこないジェッツを見て、もしかして謝りにでも来たのかしら?なんて思ってしまい、その口から嫌味のような言葉が出てしまった。
「婚約破棄された事はもう気にしてないし、ジェッツには関係ないから何も言わなくていいわよ」
「………………」
そんな私の態度に、ジェッツは少し表情を曇らせていた。だから少し負い目があるのかと思ったのに、何故か盛大にため息をついたのだ。
その態度に私は少し、イラッとしてしまう。
「なんなのよ、謝りにきたわけじゃないの?」
「本来ならそのつもりだったのだが……その様子だとお前、泣いてもいないみたいだな」
「なっ!?」
図星をつかれた私は、何も言えなくなってしまった。
確かに婚約破棄された事は悲しかったけど、特に涙は出てこなかった。それよりも早く殿下のために行動したくて、泣いてる暇なんて私にはなかったのだ。
だとしても、婚約破棄されてからもう何日も経っているのに、なんでこいつにそんな事がわかるのよ!
「なんでそんな事知っているのか?って顔してるな」
「う、うるさいわね!」
「これでも僕はお前の幼馴染みだと思っている。お前の行動と実際目にした態度で何となくわかる」
子供の頃から神童と呼ばれていたこの男は、今もなおその頭脳を殿下のために役立てている。
そんなジェッツからしたら私なんて、わかりやすい存在なのかもしれない。
だとしても言い返せないのがとても腹立つ!!
「まあ泣かなかったのは意外だが、僕はお前の噂を聞いてここまできた」
「噂を?」
「ああ。クレア・スカーレットがハロルド殿下に復讐をするため、騎士団に入ろうとしているという噂をな……」
「!!!!?」
衝撃的なその言葉に、私は目を見開いたのだった。
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