第46話 私が何をしたというの!?


 ライズを追いかけてひたすら走って来たはいいが、結構離れていた距離は埋まるわけもなかった。

 どうやら道に迷った私は来た道に戻る事も出来ず、右往左往していた。



 もう、ライズを助けに行こうと思ったのに、私ったらバカすぎる!一度ロイさんを待ってから二人で探せば良かったんだわ……。


 自己嫌悪に陥りかけた私はため息をつくと、周りを見回した。

 どうやら私がいる場所は大通りから離れた、人通りの少ない路地裏といった感じの場所だった。

 どうやってここからさっきの広場に戻ればいいのかしら?と、思った私はとりあえず誰かに聞いてみようと、周りをもう一度見回す。


 すると、あるご老人の姿が私の目に入った。

 そのお婆さんはフラフラとしており、その足取りは何故かこちらを向いているような気がする。

 そして目の前に来ると突然お婆さんは倒れたのだった。


「え、目の前で!?えっと、お婆さん大丈夫ですか?」

「あ、ああ……すまないねぇ少し体が弱っていてねぇ」


 そう言いつつもなかなか起き上がる事ができないお婆さんが心配になり、私は膝をついてプルプルと力なく差し伸ばされたその手を握りしめる。


「あの、手伝える事があれば言ってください」

「それは、すまないねぇ……悪いけど家まで送ってもらえたら助かるのだけれど……」

「それぐらいでしたら任せて下さい!では持ち上げますからね、しっかり掴まっていてくださいよ」


 とりあえず連れて行ければいいのかと、私はお婆さんを横抱きに抱える。なんといってもお姫様抱っこだ。一度やってみたかったのである。


「え、ええ……!?」

「この抱き方ではダメでしたか?」

「い、いやいや。ありがとうねぇ……じゃあ、道を案内しようかねぇ……」


 少し驚かせてしまったようだがお婆さんはその後、家の向きがある方向に私を案内してくれた。





 そして今、何故か目の前には壁がある。

 これが家なわけがないし、これは一体?とお婆さんを一度地面下ろした。


「ありがとうねぇ……ここまで連れて来てくれて」


 お婆さんは地面に足をつけると、先程とは違いしっかりとした足取りでこちらを向いた。

 そのことに違和感を感じたが、とりあえず返事を返そうとした。


「いえ、どういたしまし……っ!!」


 突然殺気を感じた私は、後ろを振り向く。

 そこには今まさに、木材を振り下ろそうとしている男が立っていた。

 そして目があった男が声を上げる。


「なっ!!!」


 驚愕したその男は、気がつけば後ろに吹き飛んでいた。

 どうやら無意識に私の防風壁が発動したようだ。これが常日頃頑張っている訓練の賜物という事なのだろう。

 とにかく一体何なのかと、私はお婆さんに声をかけた。


「これはどう言う……えっ!?」


 しかしその姿はもう老婆ではなく背の低い男性に代わっていた。

 そして背の低い男は短剣を手に私に駆け寄ってくる。


「お前さえ殺せば!俺達は助かるんだ!!!」


 そう叫びながら短剣を突き出す男はどう見ても素人だ。私は短剣を持った手首を狙い、回し飛び蹴りをくらわせる。


「いっでぇ!!!」


 痛がる男の手から短剣がポロリと溢れ落ちる。

 すぐさまその短剣を拾い、男の喉元に当てがった。


「ひぃ!!」

「誰の差し金?」

「いや、俺達はコレを見ただけで……!」


 慌てて男はポケットの中から紙を出す。受け取ったその紙はクシャクシャでよく読めない。


「そこにクレア・スカーレットを殺せば莫大なお金を貰えるって書いてあったから、俺達は借金を返済できると思って……」



 ─── クレア・スカーレットを殺す?



 理解が追い付かない為クシャクシャな紙を読むふりをして、動揺する心を落ち着けようと先程言われた事をもう一度思い出す。


 私を殺すとお金が貰える?それは私に賞金がかかっていると言うことで……つまり私は何故か指名手配されてるのよね?

 一体どんな事で私は指名手配されてるのよ!?そんなの知らないないわよ……。

 だけど待って落ち着くのよクレア、ここで本人だとバレるのが一番まずいわ。今の私は男装のクーよ!とにかく最後まで役を演じましょう。


 おほん。と咳払いした私は、冷静を装い男に話しかけた。


「ふーん成る程……君達は僕がそのクレア・スカーレットに見えたの?」

「ひぇ!!……で、でも確かに、見た目は似ている気がするが、お前は男だったのか。それにクレア・スカーレットってのは貴族の令嬢だから、こんな強いわけないよな……」

「そうだね!貴族令嬢だから、剣なんて握った事もないに違いないさ!ははは!」


 自分で言ってて凄く悲しくなっていく……でも気にしたら負けよ、頑張れクレア!

 そう思いながら、私は暫く笑い続けたのだった。

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