第45話 魅力は人それぞれ!
男性とちゃんと認識されたことに少し浮かれつつ、ロイさんとその女性の元へ向かうと、バターのいい香りが漂ってきた。食欲がそそられるその匂いの元にはホクホクのジャガイモが。
「じゃがバター?」
「そうだよ!この店では自慢のジャガイモをじゃがバターにして売ってるのさ!うちの夫が丹精込めて作ったジャガイモは本当美味しいんだから!絶品だよ。味もただのバターだけじゃなくて、塩、胡椒、ソースとか組み合わせもできるからね!食べやすいようにカップに入れて渡しているから安心しなよ!」
そんなに力説されたら涎が止まらなくなりそうだ。私はバターだけのものと、塩胡椒の物を頼んだ。
「毎度!お兄さんイケメンだからね、少しサービスしちゃったわよ!」
お姉さんはウィンクをしながら、私に袋を渡してくれた。
その言葉にすっかりその気になった私は、調子に乗って、袋を受け取る為にそっとお姉さんに手を重ねた。
「そんな事ありませんよ。この素晴らしいジャガイモ、それを汗を流し作る姿……それさえも美しい貴女には敵いませんね」
ふっ、決まった!
どうだ!と、ロイさんを見ると苦笑を溢してこちらを見ていた。
その反応に失敗したかとお姉さんを改めて見れば、その顔は真っ赤で口をパクパクしている。
その様子に大満足な私は軽く頭を下げその場を後にした。
歩きながら勝ち誇った顔をして、ロイさんに耳打ちした。
「私の魅力を女性だけはわかってくれるのですよ」
「……クーはそれでいいのかい?」
「もちろん!」
即答した私をロイさんが残念な子を見るような目で見ている気がしたが、こればかりは仕方がない。
女性としての魅力がなかったからこそハロルド殿下に愛されなかったのだ。
それにもう結婚などできないだろうし、男性からはもうそんな風に見られる事もないはずだ。
そう思ったのに何故か一瞬ライズの事を思い出してしまい、ないないあり得ないわよと、私は首を振る。
それに男性に好かれるのが絶望的なら、女性からは好意的に思われる存在になりたい。
だからこそ私は違う魅力を高めるべきなのね!
素晴らしい結論を見つけたと私は納得し満足していた。
だからその後ろでロイさんがポツリと呟いた言葉がよく聞こえなかった。
「……俺からしたら、クレアがこの世で一番魅力的なのにな……」
私は振り返り、首を傾げる。
「ロー、何か言わなかった?」
「ううん、何でもないよ。それよりジャガイモが冷める前に食べられそうなところを探そう」
そう言って歩き始めたロイさんとともに、ジャガイモを食べる場所探しをする事にしたのだった。
そして私達は今、一番近くの広場の椅子に座っていた。
ジャガイモは串と違ってカップに入っている為、椅子に座ってゆっくり食べた方がいいと言う事になったからだ。
そして美味しそうに食べている私の姿を、何故か微笑ましく見ているロイさんが何かに気づいたように言った。
「ずっと食べっぱなしだったから、そろそろ喉が渇かない?」
「確かに、乾いたかも」
今まで何故気が付かなかったのだろうという提案に、私はクビを縦にふる。
もう既にお腹は満腹で、これ以上は入りそうもない。そうすると忘れてたかのように喉が渇くもので、私の体はとても本能に正直である。
「では、すぐそこで買ってくるから絶対にここから動かないように」
「はーい!」
私の返事を聞いて立ち上がりはしたものの動かないロイさんに、どうしたのかと顔を上げる。
そこには、とても心配そうにこちらを見るロイさんの顔が目の前にあり、私はとても驚いてしまう。
「本当に大丈夫ですか?」
耳元でボソッと言うロイさんが余りにも近いので、何だか恥ずかしくなり顔が赤くなってきた私は、ひたすら頭を縦に振り続けた。
その様子に納得したのか、ロイさんは今度こそ屋台の方へと歩いていく。
はぁ、心臓に悪い。思ったよりもロイさんってイケメンなのよね。それなのにあんなに近づいてくるなんて……そのせいできっと顔が赤くなってしまったに違いないわ!
それにあの顔、誰かに似ている気がするのだけどいつも思い出せないし……。
そんな事を考えていたときだった。
人が行き来する中、少し奥の方で見知ったダークブラウンが見えた。
ついその姿を目で追うと、その男はどう見ても知っている顔に思える。
─── あれは……ライズ!?横にいるのは誰?
横にいる男は中年でお腹が出ているが、上から下まで派手な色合いのいかにも商人ですと、言った見た目だった。
見た感じでは、ライズが何処かへ案内しているように見えるけど……どう考えてもあの商人は胡散臭過ぎるもの。
きっとライズの事だから、何か騙されそうになっているに違いないわ!
私はロイさんとの約束も忘れて、咄嗟に駆け出していた。
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