第73話 真の決着(ヨシュア視点)


 薄暗い部屋の中。男はくぐもった声を上げていた。

 ここは王宮の中、地下牢に入れる前に尋問する為に作られた部屋であり、初めて入った僕は少しびびりながらその光景を見ていた。


「さあ、どうなんだ!『黄昏の砂漠』とは一体なんだと言うのだ!?」

「ははは……ゴホッ……」

「くっ!」


 先程から、男は常に血を吐き続けていた。特にこちらが拷問して血を吐かせている訳ではない。

 男が毒を仕込んでいるのかと思ったが、すぐに死ぬ訳でもなかった。

 何故か質問をすると吐血するのだ。

 これではまるで……。


「カールのときと同じだな……」


 横にいるジェッツが僕と同じ事を思ったのか小声で呟いた。そして男は更に笑い出し言った。


「私は私自身に暗示をかけているからね。私から情報を引き出す事は不可能だよ、はははは!!!」

「そうでしょうね。ならば仕方ありませんヨシュア、3人をこちらへ連れてきて下さい」


 僕はジェッツに言われた通り、隣の部屋で待機してもらっていた、3人をこちらに連れてきた。

 その2人をみて商人の男が目を見開く。


「な!!貴様ら……生きていたのか!?」


 男が食い入るように睨みつけていたのは、商人に暗示をかけられていたカールと、別人のようにムキムキになっていたイルダーの2人だった。


「私はずいぶん君に騙されていたようだね。でも私達は君の暗示から無事抜けさせて貰ったのだよ」

「なんだと!!」

「ここにいる彼女のおかげです」


 男はカールが指し示した方をみた。そこには手鏡を持ったセーラが立っていた。


「初めまして、名も知らぬ男性。あなたのおかげで私は暗示についていろんな事を試す事が出来ました。感謝させてください」


 そう言ったセーラはににこりと微笑むと、鏡を前に突き上げた。


「では、あなたの暗示も必ず解かさせて貰いますね!!」

「そ、そうは行くか……う、ゴホッ!!グゥッ!」


 男は暗示を解く前に死ぬつもりなのか、ひたすら口から血を流し始めた。

 その様子にセーラは余裕そうな顔をしかめる。


「くっ……これでは、このままでは時間が間に合いません!!」

「貴様らに……ぐっ……くれてやる、情報は……ないわっ!!がぁ……!」

「ま、待て!そんな死に逃げ、私は絶対に許さん!!」


 叫ぶセーラは焦りながらも、詠唱を続ける。

 鏡からはずっと光が溢れており、何がどうなっているのか僕達にはわからない。

 とにかく祈るしかないと、僕はセーラ間に合え!間に合え!!っと祈り続けた。



 そして暫くして光が落ち着き、部屋に元の暗さが戻ってくる。


 目を開けるとそこには必死に肩で息をするセーラが、鏡をダラリと持ち男の前に佇んでいた。

 その様子にどうなったのかと気になった僕は一番最初にセーラに話しかけた。


「セーラ?」

「…………くっ……ダメ、でした」

「セーラ……」


 僕は咄嗟にセーラの元に向かっていた。


「私の力では時間が足りませんでした。申し訳、ありません……」


 そう言いながら気を失うセーラをそのまま抱きとめ、向こう側にいた男だった物に目を向けた。

 男は口から血を吐き続け、その血に溺れるように倒れていた。

 その様子をみて、ジェッツが僕に話しかける。


「亡くなってしまったならば仕方ない。まだ情報源が完全に途絶えた訳ではないからな。カールとイルダーは思い出した事が有ればすぐに報告を、それから記憶が怪しい部分はセーラさんからこの鏡を借りてほしい」


 そういうと、ジェッツは部屋から出て行こうとした。僕はそんなジェッツをつい引き止めてしまった。


「それだけか?」

「はい?相手が死んではどうしようもないからな。僕が欲しいのは情報だけだ。ああそれと、セーラさんには貴女のせいではないですから安心して下さいと伝えて欲しい。それでは急ぐので失礼します」


 そう言うとジェッツはとっとと部屋から出て行ってしまった。


 あいつハロルド殿下の前以外だと余りにもあっさりし過ぎだろと、僕は溜息をついた。

 そんな僕をみてカールとイルダーは「私達も報告があるので失礼する」と足早にさっていった。

 それと入れ違いにこの男の処理をする為、別の男達が部屋に入ってきた。

 僕は邪魔になるといけないと思い、セーラを抱えたまま部屋を後にする。





 セーラの部屋にたどり着くと、ソファーにセーラを寝かせ僕は窓から外を眺めていた。

 どうやら騎士団の方からこちらにまで歓声が聞こえているようだった。

 きっとこの時間なら決勝戦の勝敗でも決まったのかもしれない。

 僕も少し見たかったと、眉を寄せつつも先程のことを思い出していた。


 真犯人である商人の男は死んだ。

 これでクレアが狙われる事も、魔力増強剤が広まる事もなくなるだろう。


 でも本当にそうなのだろうか?

 『黄昏の砂漠』という奴らの目的なんて僕にはわからない。でもきっとまだ終わってないのだろう。

 だってこんな終わりで決着がつくはず無いのだ。


 でもこれ以上僕が関わっていい事でも無いのかも知れないと、ソファーでゆっくり眠るセーラをチラ見した。

 そして当分こいつらと関わらないようにしようと心に決める。


 よし、僕は絶対クレアと同じ隊にはいらないぞ!


 と気合をこめ、もう一度窓の外を眺める。

 まあ、とりあえずはセーラが起きるまではここにいてやると、ゆっくり椅子に座り直すのであった。

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