第40話 実力の世界です!
呆然としたまま動かないヨシュアを、置いて私はロイさんの横に来ていた。
「お見事です!流石クレアさんですね」
「いえいえ、そんな……」
「謙遜しないでください。最初に空に投げた風を、上手く使われていましたね……!」
「あ、ロイさんはやっぱりわかりますよね?」
勿論と嬉しそうに話すロイさんに、私も作戦が成功した事にご機嫌である。
そう、最初に投げた風の刃は二つあった。
一つ目は雲の上まで届かせる程の魔力が必要だったため、ここで半分以上の魔力を消費している。
そしてもう一つ投げた風の刃は、いつでもヨシュアの模擬剣を狙えるように、空に旋回させていたのだ。
もしヨシュアに炎で押されそうになった場合、最初の刃で炎を消し動揺させたところに、私が誘導しつつ模擬剣を突き出させればストンと模擬剣は真っ二つ。模擬剣の無いヨシュアを戦意喪失させれば私の勝ち!
という火魔法特化の訓練の賜物である。
目の前のロイさんが、提案してくれたからこそ出来た作戦でもある。
「一応は俺が出した提案でしたからね。でも、本当に上手く使いこなせるかはクレアさん次第でしたから、努力の成果ですよ」
「ありがとうございます!!」
「そうだ!今度勝利祝いで一緒に城下街へ買い物に行きませんか?勿論俺の奢りです!」
「え!?本当ですか!是非とも!!」
嬉しさのあまり、何も考えずに返事をしていた。
でもよく考えたらこれって……デート!?
いやロイさんに限ってそんな事無いわよね。
一瞬思った事をすぐに否定しつつ、そのまま暫くロイさんとの和かな時間を過ごしていたのに、邪魔するような嫌な叫び声が前から聞こえてきていた。
「クーレーアー!!」
走ってくるその人は、先程まで試合結果に呆然と佇んでいたヨシュアだった。
「クレア!僕の完敗だ!!って!ロイさん!!」
いきなり頭を下げたと思ったら、ロイさんを見てヨシュアが顔を上げた。
その姿をみるとロイさんはニコリと頭を下げてた。そしてお邪魔ですかねと席を立ち、俺はそろそろ時間なのでと颯爽と去っていってしまった。
もう少しお話ししたかったのに、きっとヨシュアのせいだ……!
「ぐぬぬ……!クレアがロイさんと仲がいいのがきにくわん!!」
「いや、そんなこと言われても……」
元ハロルド殿下の婚約者とその近衛騎士だから、と言っても聞いてくれなさそうである。
「僕は騎士なったからには、ロイさんを尊敬しているんだ!」
「ヘぇ~。って!ロイさんってそんなに凄い人なの?」
「お前知らないのか!?ロイさんは騎士に入ってすぐ、近衛に配属されたスーパーエリートで、今は近衛から少し離れて新人教育に力を入れている、第一部隊副隊長様だぞ!」
「第一部隊副隊長!!?」
自分の今の配属が第一部隊だと言うのに、全く知らなかった。
そして所属した日の事を思い出そうにも、半分寝かけていた私に思い出せる訳もなく、さらにロイさんに対する今までの失態を徐々に思い出し、衝撃が突き抜けた。
第一部隊副隊長!?私はそんな偉い人に気軽に声をかけ、しかも何故か敬語を使われている変な女じゃない!!それは虐められても仕方がないわ!
混乱している私を侮蔑した目で見ているヨシュアに何も言えず、目を泳がせていたら盛大なため息が聞こえた。
「僕は何故こんな奴に負けたのか……」
「いや、あれは実力だから!」
「そんな訳がない。お前事前に対策の特訓してただろ!」
「なにいってるの当たり前でしょ!あんたもしてたんでしょうが?」
「そうだが……」
今度はヨシュアが目を泳がせていた。そして話を変えるかのように、目をそらしたまま私に質問をしてきた。
「ずっと気になっていたのだが、あの決闘中……一瞬だがお前の動きが鈍った。あれはどういう事だ?」
「好機とばかりにそこを攻めた人間が聞く事?」
「あれは僕がやった事じゃないからな」
その声はヨシュアの癖に、少し私を心配しているようにも聞こえてくる。だから私はヨシュアの目を見る事なく「わかってる」と呟いた。
そしてあの一瞬、左目の痛みと魔力の消失を感じた事を伝える。
「もしそれが本当ならば、お前を狙う人物が何処かから魔力封じを使った可能性がある。今回のこの魔力増強剤の事と関係があるかもしれないな」
もしかしたらそうかもしれないが、接点が全くわからない。
今回も前回も偶然私の前に魔力増強剤を持った人物が出てきただけに思えるのだ。
「どうなのかしら?でもあの魔法封じは完璧ではなかったわ。だって私の補助魔法は解けたけれど、空に投げた風の刃は消失せずに、その後普通に操れていたもの」
「まあこの演習場には決闘スペースを円柱状に、防御結界が張られているからな。寧ろその結界を破りつつ、クレア一人を狙って魔法を放つ方が難しいと思うんだが……」
確かに激しく闘っている中、私一人にわざわざ魔法を放つ必要があるだろうか?
「もしかしたら、私でもヨシュアでもどちらでも良かったのかもしれないわね」
「本当にそうなのか……?」
私の発言にヨシュアは首を傾げていた。
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