第41話 見かけによらず心配性?
まだぶつぶつと考えているヨシュアに、とりあえずこの瓶を誰かに預けに行きましょうと誘う。
「今は考えても仕方がないし、魔力増強剤を信頼できる人に渡しましょう」
誰か周りにいないかと辺りを見回していると、こちらをじっと見つめているヨシュアに気がついた。
「な、なによ……?」
「いや……その左目は大丈夫なのか?」
左目?と思っている間に、ヨシュアは私の目の横に手をそっと触れた。
「ちょ、ちょっと!?」
私の叫びなんて聞こえないのか、ヨシュアがまじまじと私の左目を観察しているようだった。
そんな顔を近づけて見られたくないんですけど!?
というより、この人態度が変わりすぎじゃない?
もしかして仲間意識が強いタイプなのかしら……だとしても、やっば顔が近すぎるから離れて!
私の思いが通じたのか、ヨシュアは私から少しだけ離れてくれた。
そのことにホッとしている私とは対象的に、ヨシュアは心配そうに顔を歪めていた。
「左目だけ少し充血していてるのか目が赤い……本当に他に体がおかしいところはないのか?」
確かにあれ程の痛みを伴ったなら、目が赤くなっていても仕方がない。でもそれ以外の痛みや違和感も全く感じないのだ。
それはそれで不思議ではある。
「今のところないわよ」
「……ならいいんだが。とりあえずこれを渡したらお前は医務室に行くんだぞ。いいか、絶対安静にしておけよ!!」
指を差しながら言うヨシュアを見て、今までの態度と本当に違いすぎるし、ヨシュアまで保護者みたいな事を言い出したことに、私は苦笑してしまう。
元は家柄で喧嘩をふっかけられていただけなのだ。きっと本当は優しいところが彼の本来の姿であり、こういうところが人を惹きつけているのだろう。
だからこそ、ヨシュアが私に喧嘩をふっかけてきたときの事を思い出してため息をつく。
「はぁ、本当に私の顔に火傷を負わせようとした人と、同一人物だとは思えないわね」
「うぅ、その件についてだが……頭に血がのぼっていたとはいえ、一応は女性の顔に一緒残る跡をつけようとした事……本当にすまなかった。あの時の僕はどうかしてた、今となっては言い訳に過ぎないけどな……」
まさかヨシュアに謝られるなんて思っていなくて、私は驚きの余りにそのままの言葉を口にする。
「ヨシュア、あなた……謝れたのね」
「クレアは僕を何だと思ってるんだ!?僕はこれでもレディに対してはとても紳士だと有名なんだぞ!」
「そんなの知らないけど……私に対しては紳士じゃないじゃない」
「僕はクレアのことレディだなんて、一度も思ったことないからな。当然だろ」
何が当然なのかはよくわからないけど、ヨシュアが私をどう見ているのか良くわかった。
正直私も今はレディと思われたいわけじゃないので、それは別にいい。
「だから今回のその目のことは、共闘する仲間として心配してやってるんだ……だからちゃんと医務室に行けよ」
「わかったわよ」
そう言ったのに、その後もヨシュアは何度も安静にしろとか変な事するなよ、と言ってくるのであんたは私の母親なの!?と言ったらようやく黙ってくれたのだった。
そして本来の目的である魔力増強剤を誰に渡すか考えた結果、いまだその場から全く動く気配のないトリドルさんのところに行く事にしたのだった。
「おお、クレアの嬢ちゃんじゃねぇか!さっきの戦い良かったぜ!!」
ダラダラしていてもどうやら私達の決闘を見ていてくれたようだ。
でもこのまま続くと長くなりそうだと思った私は、早く終わらせようとヨシュアを見た。
「ハロルド近衛隊トリドル副隊長。初めてお目にかかります、ヨシュア・フラーレンです」
その挨拶に私は目玉が飛び出そうになった。
ヨシュアが真面目に挨拶をしたからではない。トリドルさんの肩書を聞いたからだ。
トリドルさんが、ハロルド近衛隊の副隊長!!
あの傍若無人で適当なトリドルさんが!
確かにハロルド近衛隊の隊長は、結構お年を召していらっしゃったからそろそろ引退だなぁ、とは言っていたけれども!
とにかく驚いた顔を見られる訳にはいかないと、私はヨシュアの後ろに顔を隠す。
「あ、ああ。フラーレン侯爵様の次男坊かぁ~。大きくなったなぁ!」
「何処かでお会いに?」
「ああ、お前がすっごい小さい時になー。それより俺になんの用だ?」
堅苦しいのが苦手なトリドルさんは、さっさと話をして欲しいようだった。それは私としてもありがたい事だった。
「お恥ずかしながら私の勉強不足で、このような物を仕込まれてしまいまして……」
「……!」
トリドルさんの顔色が見るからに変わる。もしかしたらトリドルさんは、魔力増強剤について調べてたりするのかもしれない。
「おい、ヨシュアとかいったな。少し付き合え……」
「えっ!?」
今まで全く動くことのなかったトリドルさんが、急に立ち上がりヨシュアの肩に腕を回した。
困惑するヨシュアを連れながら「またなぁ~」と私に挨拶して去っていく。
そして気がつけば、私はその場にとり残されていたのだ。
一緒に話を聞きたかった気もするけど、後はヨシュアに任せておけば大丈夫よね、そう思いながらヨシュアに言われた通り、医務室に向かうことにしたのだ。
そして医務室に行って見たものの、左目が赤いだけで他におかしなところは何もなかった。
本当にこの左目の痛みは魔力封じの影響なのかしら?
その疑問だけが私の心に残った。
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