第42話 連れてこられた先で(ヨシュア視点)


 訳もわからずトリドルさんに連れられ、僕は少しびびりながらこの長い回廊を歩いていた。



 しかもここにくるまでの間、トリドルさんは一言も僕に話しかけてこないのだ。それがまた僕をビビらせるのには充分な恐怖であった。


 確かに僕はこの魔力増強剤を持ってはいたが、使ったわけではない。それなのにこの状況ということは、それ程これは良く無い物だったのだろう。


 つまり、僕は罰せられるのかもしれないと言うことか……。

 家に迷惑をかける事は出来ないし、ここは腹を決めて家と縁を切ることも視野に入れなくてはならないようだな。


 そう思い悩んでいる間に気がつけば、左右に護衛の騎士二人が立つ豪華な扉の前にいた。

 わざわざ護衛が立つようなとても偉い人物の前に連れ出されるなんて、僕の顔は真っ青になっているに違いない。



「トリドルだ。例の件の参考人を連れてきた」


 その言葉に護衛が頷くよりも早く、何故か先に扉が開いたのだ。

 それは中から誰かが飛び出して来たからだった。

 そしてその扉の隙間から、中にいる人物がチラリと見えて僕は固まる。


「参考人!?本当ですかトリドルさん!!」

「ジェッツ、静かにしろ。これは極秘案件なんだぞ!それにお前がいきなり飛び出して来たから、こいつがびびって固っちまったじゃねぇか!」


 二人のやりとりに更に困惑した僕は、とりあえず出てきた男を確認することした。

 確か慌てて出て来たこの男はジェッツと呼ばれていた。

 そして思い出す。ハロルド殿下の侍従であるジェッツといえばマーソン侯爵家の長男で、同じ侯爵家の人間として社交界で数回話したことがあったはずだ。


 いや、今はそんな事はいい。

 それよりも───。


 僕は扉の隙間から、中にいる人物を改めて確認しようとそっと覗く、そこには藍色の髪に碧い目をした男が優雅に紅茶を飲んでいた。


 あれは間違いない。


 ─── 第二王子のハロルド殿下だ。



「とにかく、まずは中へ入ってもらおうか……。ん?君はヨシュアじゃないか」


 今まで僕の顔を見ていなかったのか意外そうな顔をするジェッツに、こんな馴れ馴れしい間柄だっただろうかと、僕は少し首を傾げつつも部屋の中へと入っていく。


 中には思った通りの人物、ハロルド殿下が椅子に座りながら僕を見ていた。

 その姿に緊張と不安が再び襲って来た僕は、咄嗟に土下座をして謝罪の言葉を叫ぶ。


「この度は誠に申し訳ございませんでした!!この事は私の無知によるものであり、この魔力増強剤はフラーレン侯爵家の者が持ち込んだ物ではごさいません。そして全く関わりも無いのです!信じてもらえないというのであれば私は家族との縁を切ります。ですからどうか、罰は私一人に……!」


 床を見つめながら、僕は祈るように殿下の反応を待つ。

 しかし返ってきたのは思っていた言葉とかけ離れていた。



「……君、なにか勘違いしてるよね?」

「はい?」


 その言葉に咄嗟に顔を上げてしまい、しまったと再び顔を伏せようとした。

 しかし、しっかりと見えてしまった殿下の顔に僕は目を見開いてしまう。


 何故だ、殿下が肩を震わせて笑うのを我慢していらっしゃる……?


 それによく見ると周りの人達も何だ、何だとこちらを変な目で見ている気がする。

 とりあえず肩を震わせて顔を背ける殿下を放っておいて、俺を連れてきたトリドルさんを見た。

 頭をポリポリかくその顔は、目が泳いでいる。

 そして横にいるジェッツが、トリドルさんを睨みつけていた。


「トリドルさん、何故ヨシュアをここに連れてきたのか説明していなかったのですか?」

「いや説明なら、着いてからでいいかなぁーって!」

「全く良くないです!!」


 ジェッツに叱られるトリドルさんを見て、僕が罰せられると思ったのは勘違いだという事に気がついた。

 そしていまだに言い争う二人を止めるため、ハロルド殿下はようやく口を開いたのだ。


「二人ともそこまでだ」


 殿下の一声で2人はピタリと止まる。

 そして何かを察しすぐに移動した2人は、ハロルド殿下の後ろに待機した。

 それを確認したハロルド殿下は、改めてこちらを見る。


「いきなり連れてきてすまなかった。こちらもかなり切迫しているところなんだ」


 ふぅ、とため息をつく殿下はお疲れなのか、目元を軽く揉んでいる。

 その姿に申し訳なくなってきた僕は、魔力増強剤を早く渡してしまおうと、ポケットから出すことにした。


「それで殿下の目的は、こちらの物についてでお間違いないでしょうか?」

「その通りだ。君の知っている事を少しでもいいんだ。どうか魔力増強剤についての情報をなんでもいいから私達にくれないか?」


 どうも先程言っていた通りかなり切迫しているのか、その表情はどこか苦しそうだった。

 だから僕は少しでも役に立てるならと、口を開いていた。


「……殿下のお役に立てるのでしたら喜んで」


 そして僕は先程あった事を、そのまま殿下に話し始めたのだった。

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