第39話 決闘させて頂きます!
目の前には相変わらずヨシュアが、仁王立ちで構えている。
違うのは演習場の真ん中に居るかどうかだろう。
周りの観衆用の椅子には同じ班でありヨシュアの取り巻きたちが、ヨシュアさん頑張って下さい!と、声を張り上げている。
対して私を応援する声は一切聞こえてこない。
それでも視界の端に、私を応援する為に来たロイさんと、ハロルド殿下近衛隊に所属しているため忙しいはずのトリドルさんが、休憩時間なのか欠伸をこぼしながらダラダラしていた。
いや、本当にあの人何しにここに来たの?
まあ知り合いがいると言うだけで、張り切り度合いが変わると言うものよね。良いところを見せたらハロルド殿下の近衛の推薦状を貰えるかもしれないし!そんなものあるのか知らないけれど。
それにここには騎士団のお偉いさんが沢山いるし、頑張りましょう。
私は改めて気合をいれると、模擬剣を手に持ち下段に構える。対してヨシュアは上段に構えている。
演習場は一瞬の静けさに包まれた。
「はじめ!!」
声がすると同時に魔法を身体に纏う。
火使いでよくいるのは、爆発力による攻撃特化タイプである!
ヨシュアの爆発による特攻を予測して私は暴風による防御壁を作り、空に風の刃を二回投げる。
「暴風壁を張るのは予想していたさ!」
その言葉と共に、空から火球が降ってきた。
どうやらヨシュアは開始と同時に、火球を空に投げたようだ。
前進する事で火球を避けつつ、暴風壁をギリギリで解除。
突然解除したためヨシュアの目前に、いきなり現れたように見えたはずである。
「くっ!」
「魔法の腕が全てだと思わないで欲しいわ!」
ガツンと木と木がぶつかる音がする。
その音に私は楽しくなる。
本来模擬剣はこうやってすぐに壊れるものではない。あのときが異常な人間が相手だっただけなのだ。
しっかりと模擬剣を交わせたことに、私は口の端を吊り上げた。
「お前……楽しそうに闘うじゃないかっ!」
「ええ、とても楽しいわ!!」
剣と剣が何度もぶつかり合う。
周りの音が何も聞こえなくなって、私には目の前のヨシュアしか見えなくなっていた。
何故かしら剣を合わせるたび、砂煙のせいか周りが白く輝いて見えるわ。
そう思える程、今の私はこの勝負を思う存分楽しんでいた。
そしてヨシュアの剣の実力は私と五分五分だ。
ただし魔法の威力はあちらの方が上。
なるべくヨシュアに魔法を使わせない事が勝敗に関わってきそうだと、何度目かの打ち合いで思っていたときだった。
突然、左目が激痛に襲われた。
「─── っつ!!」
そのせいで補助魔法の威力が急激に弱まったのがわかった。
勿論その異変を見逃すヨシュアでは無い。
「そこだ!」
「くっぅ……」
完全に魔法が切れた私に、重い剣の一撃が襲ってきた。
力に押されて私とヨシュアの距離が遠のいた。
このままでは魔法を撃たれてしまう!
「これで終わりだ!!」
声とともに私の周りに炎の渦が取り巻き始めた。
耐久力の無い私は、この炎を薙伏せる程の風を出す事が出来ないことを、既に気が付かれていたのだ。
「これ以上はどうしようも無いだろう?クレア、早く降参すべきだ」
この状態をみたらすぐにでも降参すべきだろう。だけど私は笑い声が止まらなくなっていた。
「ふふふふふふふ」
「な、何がおかしい!!負けて情緒がおかしくなったのか?」
これだけ見たら確かにもうお手上げ状態である。
でも私にはまだ初めに空に投げた風の刃がある!
「空をご覧なさい?」
「何?」
空を見上げると、そこには白い塊が。
「な、何だあれは!!」
ヨシュアが降ってくるそれを避けるように一歩後ろに退いた。
その白い塊は地面を薄く抉ると冷気と共に暴風となり吹き抜けた。余りの風の強さにヨシュアの炎ごと吹き飛ばす。
私の耳には風に驚いた観衆の騒めく声が聞こえていた。そしてその威力は放った私自身でさえも一瞬目瞑ってしまう程だった。
そして目を開くと、そこにはヨシュアが消えた炎に狼狽えている姿が見えた。
「ほ、炎が!!」
「おほほほほほ!これぞ雲の上まで届いた風達が、私に届けてくれた暴風攻撃よ!流石の風の強さにあなたの炎も消えてしまったようね!」
私は時間稼ぎをする為に、ヨシュアにわざわざ説明をしてあげる。
「く、そんなのすぐ新しい炎を!」
「そうはさせないわ!」
私はヨシュアの炎の攻撃が来る前に補助魔法もかけないまま飛び出した。
「くそ!補助魔法もかける体力もないお前に剣で負けるものか!」
ヨシュアの模擬剣が私の目前に迫っていた。それなのに私は全く怖く無かった。
むしろにっこにこ笑顔でその場で立ち止まった。
次の瞬間、私はヨシュアの模擬剣に叩きつけられたように見えただろう。
しかしそれはいつまで経っても、身に降りかかる事は無かった。
「う、嘘だ……!!」
呆然と佇むヨシュアの模擬剣は、柄から先が無くなっていた。
私の風の刃がヨシュアの模擬剣を切り落としたのだ。
そんなヨシュアの足を軽く引っ掛ける。
簡単に倒れたヨシュアをにっこにこで見つつ、私は喉元に模擬剣を突きつけた。
これで前回の恨みは果たさせて貰うわよ!
そう思いながら、いまだ何が起きたか理解できないヨシュアに、最高の笑顔で言い放った。
「はい。私の勝ちね!」
私の声に審判が判定を叫ぶ。その声とともに観衆が湧くのがわかった。
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