第83話 そういえば!?
「かんぱーい!!」
今日の締めに最高の一杯をと、美味しいご飯屋さんに連れてきて貰った私は果実水を飲みながら、今日の感想を言い合っていた。
「あのときは本当ヒヤヒヤしたけど、無事にハロルド殿下に受け入れて貰えて良かったね」
実際その通りである。
少し文句は言われたものの、殿下は私を拒否しなかったのだ。
「凄く嬉しくて、まだ夢の中なんじゃないかって気分よ!」
「夢じゃないよ。ほらっ!」
「うふふ、ありがとう。でもライズ、夢じゃないのを確かめる為に私の手をつねらなくてもいいのよ?」
あ、バレた?と言った顔をして手を離すライズを見て、私は面白くて嬉しくてつい笑ってしまった。
「何、俺そんな面白い顔してた?」
「ううん。なんだかいっきに緊張がとけたみたい」
笑ったら肩の力がストンと突然落ちたのか、ライズに言おうとしていた事を思い出した。
「そうだ!ライズったらずっと何処に所属したのか秘密にするから、ライズじゃなかったらどうしようって凄く緊張したのよ!」
「え?クレア気付いてなかったの?」
え、本当に?と言いながらライズはまた笑い始めた。こっちは本気でライズと離れるんじゃないかって寂しい気持ちになったと言うのに……。
「でも俺、クレアがハロルド近衛隊に入れないかもって言われて、凄く動揺した」
「え、本当に??」
またからかってと、私はライズの手をペチンと叩こうと手を伸ばしたのに、その手を掴まれてしまった。
その事に驚いた私は真剣にこちらを見るライズの瞳とぶつかり、ドキリとして顔を赤くしてしまう。
「本当に。一緒の所に配属されないんじゃないかって……」
一緒にいるときはそんな素振り見せた事なかったのに、今言うなんてずるい。
こんなんじゃ黙ってた事に文句なんて言えなくなっちゃうわ。
「もう、一緒にハロルド近衛隊に入れたからいいじゃない」
ポツリと呟いて、そっとライズの手を握り返す。
恥ずかしい私は、すぐに話題を変えたのだった。
「そういえばこの左目について一つ分かった事があるの」
「え?どうやってわかったの?」
「商人が確か私に言った事なんだけど、暗示はやはり効かないかって言ってた事を思い出したのよ。で、よく考えたらそのとき確かに左目が痛かったわ」
あれからずっと考えていたが、試す方法がなかったから確認できないでいた。
「本当にそうなのかわからないけど、この左目は何かから私を守ってくれてるのかもしれないわね」
「守ってくれるのと同時に痛みを伴うんじゃダメじゃない?」
確かにそのときは守って貰ったのかもしれないけど、その後魔法封じでは痛みでどうにかなりそうだった。
「まあ、また同じような事が起きたら今度は一緒に検証してくれる?」
「もちろんだよ。これからは俺がずっとそばにいて見てあげるから、だから何かあったらすぐ俺に言ってよ……」
その答えに、私は凄く嬉しくなって手をギュッとしてしまう。
それなのにライズは少し心配そうに私を見た。
「でも、その左目の話はあまり周りに話さない方がいいと思うよ。いつだって不思議な力と言うのは嫌な目で見られたり、実験対象として見られたりするものだから……」
目線を落としながら、もう片方の手で胸元の服を握りしめるその姿から、まるでライズが体験した事がある話のようだと思ってしまった。
だから私は理由を聞く事なく、縦に首を振る。
「わかったわ。それに私は迷惑をかけない程度に、これからもライズに頼っていきたいと思ってるから」
その返事にライズはホッとしていた。
そしてすぐに笑顔に戻ると私に言ったのだ。
「もう俺たち付き合ってるんだよ?だからさ、迷惑かけてもいいからもっと頼ってくれよ」
「つ、付き合ってる……」
「俺達両想いなんだから、付き合ってるんだろ?」
「そうよね……ええ、そうだわ!」
私達、付き合っているのよね……そう思うと、さらに顔が赤くなってしまう。
「クレアの赤い顔は可愛いね」
「もう、からかわないでよっ!」
真っ赤な顔でライズを見てしまう私は、両想いなんだからもっとライズを頼れるように頑張ろうと思っていた。
だって、これからはずっと一緒にいられるんだから。
そう思ったら、何故か絶対に一緒のところに行かないと言いきった奴の事を思い出してしまった。
「そういえば、ヨシュアって何処に配属されたの?」
「ああヨシュアなら、第一王女様の所に配属されたらしいよ」
第一王女といえばまだ14歳ぐらいの可愛らしい女の子だったはずだ。なんでまたそんな所に言ったのか思い当たる節が全くない。
「ヨシュアって第一王女と知り合いだったかしら?」
「なんでも、誰かにどうしても来てほしいって頼まれたとかなんとか……」
「ふーん、ヨシュアも大変ね。でもあんなにバカ騒ぎした仲なのにもうあんまり会う事もなくなっちゃうのかもね」
「……寂しい?」
その問いに、自分が少し感傷的になり過ぎているなと、苦笑いしてライズに向き合う。
「全く寂しくないわ。根性の別れでもないし、いつかまた会ったときは文句でも言ってくるのでしょうし……それに、今はハロルド殿下の近くにいられる。こんなに幸せなことはないわ!」
「そっか……そうだよね。クレアにとってハロルド殿下の側にいられる事が一番の幸せだよね」
「何言ってるのよ、その中にライズもいてくれるから。ライズがいてくれないと私は幸せにはなれないわ」
ライズは目を見開くと、嬉しそうな顔をしたと思ったのに、何故かその顔が苦しそうに歪む。
「ら、ライズ?」
「ご、ごめん。なんか目に入ったみたいだ。少しお手洗いで確認してくるね」
「う、うん」
目に何か入ったのなら仕方ない。
ライズが戻るまで先に美味しいご飯を頂くことにしましょう。
しあわせ気分で私はご飯を食べ始める。
だって今この時の私は、ライズと両想いになれたことで幸せの絶頂だった。
だからこの先どうなるかはわからないけど、でも今の私ならどんな苦難だって乗り越えていける。
そう思っていたのだった。
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