第30話 御守りの力!?
遠くで誰かが名前を呼んでくれている。
でもそんな訳がない。
私はさっき、斬られて死んだのだから……。
それにとても身体が暖かい。これが死後の世界?
それにしては周りの音がうるさい……。
そう考えておかしいことに気がつく。
死後の世界ならば、先程と同じ戦闘音が続いている訳が無いのだ。私はゆっくりと目を見開いた。
「私……飛んでる!!!?」
目下には先程と変わらない光景が続いている。
戦況は変わらず騎士達が押されているようだ。
もしかして死んだから浮かんでるのかと、一瞬本気で考えてしまったがどうやらそうではないらしい。
下で大柄の漢が私が突然居なくなった事で、何処に消えた!と叫んでいる。
そしてふと暖かいものの正体が目の前に浮かんでいた。
「これって……ハロルド殿下に貰った御守り?」
自分で口に出したのにその事実に私の体は震えていた。御守りと言えど、本当に効果があるなんて思っていなかったのだから。
それに今、私の身体はもう傷一つ無くなっていた。この世界に一瞬で傷が治る物など聞いた事がない。
それなのにこの御守りは、それを為し得てしまう程効果がある物だという事。
つまりこの御守りは国宝か何かなのだろう。
そんな物を何故、私なんかの為に……。
理由はわからないけれど、実感してしまうと震えは止まらない。
─── ああ……、ハロルド殿下が私を守ってくださったのだ。
それだけで天に登る心地だった。
だからこそ自分の成すべき事を理解する。
体の震えを抑えるように、私は自分の状態を確認した。貫かれたはずの身体は完全に元に戻っている。
それだけではない、私が思わず空を飛んでしまう程この体に溢れる魔力量。
この御守りは魔力増幅効果も付いているのだろうか。
でもどうしてハロルド殿下は私にこんな高価な物を渡してくれたのだろうか……。
いや、今はそんな事を考えている場合ではない!
ハロルド殿下に救われたこの命、もう一度失う訳にはいかない!
私は改めて大柄の男をみる。あの男が使ったのは土属性の魔法だ。相性だけで言えば最悪の相手である。
でも今は空を飛んでいるのだ。これならば土属性の魔法はそうそう当たらないだろう。でも同時に私の魔法も相手に当たる事はない。
でも今、考えなくては……!
無意識に腕を上げた私は、自分の手に壊れかけの模擬剣の柄がある事に気がついた。
これだ!!
閃いたのと同時に私はゆっくりと降下する。
少しずつ地面が近くなり、男の声がハッキリ聞こえるようになった所で止まった。
「おい!何処に行きやがった!!急に消えるとか聞いてねぇんだけど!!」
男が未だに叫んでいる。
だから私は男に聞こえるように、空から大声で叫んだ。
「待たせたわね!!先程のお礼参りをさせて貰おうじゃないの!」
「て、てめぇなんで空から!しかもなんで傷一つ無くなってやがる!!こりゃいったいどういうことだ!!」
混乱する男を無視して、私は男に上空から切り掛かった。
男は迎え撃つため剣をこちらに突き刺す。
「おいおい。おめぇの模擬剣は壊れてて使い物にならねぇだろうがよ!!」
切っ先は確実に私を捉えていた。
だから男はそのまま前に足を出した。
剣が私の目の前に迫る。
それでも私は怯む事なく風を研ぎ澄ませた。
一瞬の沈黙と静寂が、勝敗を物語っていた。
そして気がついた男は声を上げる。
「な!一体全体どうなって……ぐっぁ……」
その男の剣先は私に届く事は無かった。
それよりも先に私の剣が男の体を貫いていたのだ。
「これは風でできた剣。そのまま言えばウィンドソードよ!風の剣だから何処までも伸びるし、だからあなたの剣より先にあなたに届いただけ」
「なんで、どうしてだ……!!」
身体を貫かれてもなお前に進もうとする男に、私は変わる事の無い刃を向けて言い放った。
「私を守りたいと願ってくれた人がいた。貴方にはそんな人がいなかった。それが唯一の勝敗よ」
男は悲痛な声を上げながらゆっくりと倒れていく。とはいえ殺してはいない。
後で何故こんな事をしたのかキチンと吐いて貰わないと困るもの。
「か、頭が負けた……」
「ぜ、全員撤収だぁあああ!!!!」
この男の子分達は、男が負けたのを知るや否や逃げ出していった。
何人かは捕まえたようだけど、この惨状にこれは騎士として良くない幕開けになってしまったようだと、私はため息をついていた。
すると緊張の糸が切れたのか、身体がふらついてしまう。
御守りの効果が切れて、私の身体が限界を超えている事を思い出したに違いない。
意識を手放しかけた直前に、また誰かが私の名前を叫んだ。
「クレア!!」
「クレアさん!」
なんだかとても遠くで私を呼びながら駆けてくる足音が聞こえる。
でも今は服に穴が空いているしボロボロの格好なので、流石に女としては人に見せたくない。
お願いだからそっとしておいて欲しいと密かに願いつつ、動かない体のかわりに私の名前を呼ぶ声に耳を傾けた。
そういえばあのとき私を呼んだのは誰だったのだかしら……?
そして次の瞬間、私は本当に意識を手放していた。
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