第85話 終結
今の私は幸せいっぱいである。
何故なら、私は今ハロルド殿下のいる執務室の前に立っているのだ。それだけで殿下の護衛をしていると実感出来るのである。
ただ立っているだけと言われたらそれはそうなのだが、それだけで幸せなのだから仕方がない。
そして、もう一つ理由があった。
「クレア…顔が緩み過ぎだよ」
私の隣には同じハロルド近衛隊に配属されたライズが立っていた。
高身長に優しそうなエメラルドの瞳をこちらに向けていつもお節介をしてくる私の好きな人。最近ようやく両想いになったところで……キャッ、恥ずかしい事を言ってしまったわ。
恥ずかしくてなってきた私は、ライズに言い返す。
「もう、ライズに言われたくないわ!いつもニコニコしているじゃない」
「いやいや無理言わないでよ!俺は元々そういう顔なだけだから!!」
こうして、いつものやり取りをいつもの様にこなす。
そして何故ライズと一緒に門番をしているのかといえば、ハロルド殿下の近衛隊は二人一組と決まっているからである。
今年度ハロルド殿下の元に配属されたのは私とライズの二人だけなので、新人同士仕方なく一緒に門番をさせられている。下っ端らしい素晴らしい配置である。
そのおかげで2人で配属されたことはとても嬉しいのだけど……。
「ライズ声が大きいわよ。これだとまたあの男に小言を……」
「君たち!本当に何度言ったらわかるんだ、声が大き過ぎるぞ!!」
私が気にするのも間に合わず、執務室の扉が開く。中から出てきたのはジェッツだった。
翠の髪を振り乱しながら少し目をつり上げて私達を睨みつけてくる。
「……あーごめん。でてきちゃったね」
「ライズのせいだから、謝ってよ」
「いや、お前ら二人とも煩いからな!!ハロルド殿下はお優しいから私語禁止にされてはないが、もう少し小声で話したりとか出来ないのか!?」
ジェッツの発言に、二人ともそっぽを向きつつ誤った。
「……すみません」
「……ごめんね」
その態度にぷるぷると震えるジェッツを見て、二人して、さあくるぞ!と、身構えた。
「お前ら!!反省という言葉を知らないのか!?いいか、お前らなんて殿下に言ってすぐに異動させてやるんだからな!!!」
室内に突然雪が舞う。それはジェッツの怒りの感情に魔法の制御が上手く出来ていない為だ。
その雪は怒りと真逆でとても美しく舞う。
「相変わらず、美しい雪を降らせるんだから」
「ジェッツの心が綺麗だからこそ見ることが出来るんだろうね。本当この光景を見たいがために怒らせてしまうのかもしれないよ……」
二人してはははと笑い合う。
ジェッツを見ると息をゼーゼーと吐きつつ、それどころではなさそうである。二人にからかわれていたと知ったジェッツは顔を真っ赤にしていた。
「こら!二人ともいつもジェッツをからかうのはやめろと言っているだろ?」
突然響いた声に私の心は震えた。そして扉の中から藍色の髪が揺れているのがみえる。
このお方こそ私の崇拝するハロルド殿下その人である。
「殿下、今日もとても髪型が決まっていますね」
私は無意識に殿下を褒めていた。今までの癖でもあり、殿下をお褒めしなくては生きていけない性分なのである。
「クレア、君とはさっき会っただろう」
「いえ、今の殿下の素晴らしさを今言わなくてはと……!」
「いや、もういい。ジェッツそろそろお昼の時間だ。僕は昼食をとりに行くけど君はどうする?」
怒りに震えていた筈のジェッツは殿下のお顔を見た途端、すべての感情が喜びに変わっていた。
「勿論!ご一緒させて下さい。殿下と一緒にご飯が食べられるなんて私はとても幸せでございます」
勝ち誇ったように、ジェッツが此方へと視線を送る。私はワナワナと震えながら殿下が執務室を立ち去るのを見送った。
殿下達が見えなくなるのと同時に私は叫んだ!!
「きぃー!!ジェッツめ!殿下とお昼とは妬ましい……」
私の癇癪をみてライズが心配そうにこちらを見る。その顔は申し訳なさそうであり、次に話しかけて来る内容が私にはわかってしまった。
「ねえ、クレア。聞いちゃいけないのはわかってるんだけど……」
「はっきり言いなさい。殿下の事でしょう?」
ライズと付き合い始めてから、殿下について聞かれた事は一度もなかった。でもいつも聞きたそうにしていたのを私は気がついていた。
ライズは気まずそうにゆっくりと話し始める。
「本当にハロルド殿下の事好きでも何でも無いの?あんなにもお慕いしているのに……」
「全くそんな感情はないわよ!ライズは知ってるでしょ?」
私はキッパリと言い切った。それなのに全く信じていないのかライズは此方をじっと見つめてくる。
だから私もライズのエメラルドのと瞳を見つめ返して言ってやった。
「私が殿下に持っている感情はジェッツと同じものよ。ジェッツが殿下に恋しているように見えるのなら、頭の中が少しおかしいと思うわ。でもその場合は説明のしようがないわよ。それに私が好きなのはライズだって……」
「ちゃんとわかってるよ」
そう言って私の腕を取ったのだ。
その事に私は顔が熱くなってしまう。
「ねえ、クレア?もうすぐ交代でお昼だけど……今日も一緒に食べるよね?」
「ええ、もちろん」
そういったのに、今の私は何故か木の上にいて……。
「クレア、もう少し右だよ!!」
「わかってるわよ。もう、誰よ!こんなところに鞘を投げたのは!!」
「いや、クレアが投げたんだけど……?」
「言わないで!!」
確かに私達はランチを外で食べていた。
それなのに、私は昨日お母様に近衛隊配属記念に剣を新しく貰ったのでライズに見せようと、カッコよく剣を抜き放った。
そしたら左手から鞘が勢いよく抜けて、そのまま木に引っかかってしまったのだ。
「も、もう少しで取れるの!っと、とれた!」
「く、クレア危ない!」
「え?」
鞘を手に取ったとき、すでに私は木から落ちていた。
このバランスだと、着地はできないわ!
受身覚悟で体から!!
そう思ったのに、そこにはライズがいて……。
「ら、ライズ!どいて!!」
「受け止めるから、そのまま抱きついて!」
「そんな、無茶言わないで~~!!!」
その叫び声と、ともに私はライズの腕の中へと飛び込んでいた。
「危なかった……」
「あ、危ないのはライズのほうよ!!あれぐらいなら一人でどうにかできたのに……でも、助けてくれてありがとう。って、強く抱きしめないでよ!!こんなとこ誰かに見られたら……」
間違いなく、ライズと一緒に行動できなくなっちゃうわよ!!
「でも、クレアに怪我がなくてよかった」
「……ライズ」
「はい、これ、ランチの後にオヤツで食べようと思っていたチョコレート」
「な、何でいきなり!?」
「クレアと2人で食べたくて……そうだ、俺が食べさせてあげても良い?」
いきなりなにを言うのかと、私は周りを見回してしまう。とりあえず誰もいないようで良かった。
「ふふ、大丈夫だよ。ほら、あーん」
「あ、あーん」
パクりと食べたチョコレートは、とても甘くて……なんだかまるでライズ見たいだと私は顔をさらに赤くしたのだった。
こうして、ゴリラと呼ばれていた私はハロルド殿下の近衛になり、その後一躍有名になるのです。
そしてその活躍により『隻眼の騎士』と呼ばれるようになるのは、また別の話。
まるで暴風の風に乗って私が落ちた先はチョコレートのように甘い騎士。
彼がいればどんなことでも乗り越えられる。
そう夢見て、私は彼の口にチョコレートを運んだのだった。
ー END ー
ー ー ー ー ー
あとがきのようなもの
最後まで読んで頂きありがとうございます!
まずは土下座致します!
謎を沢山残したまま終わる事をお許し下さい。
一応は、クレアが恋に落ちるまでが本編でございます!!
この後のあれこれは考えていたのですが、モチベの問題でキリの良いここまでとさせて頂きます。
気になるなど要望が有れば考えます。
作者の感想は近況に書きますので興味があればどうぞ。
長々と失礼致しました。
そして、本当に最後までクレアの頑張りを読んで下さってありがとうございました。
大変お礼申し上げます。
今後ですが、すでにアルファポリスで書いております完全ギャグの『毎秒告白したい溺愛王子と、悪女になりたくないエイミーの激おこツッコミ劇場』も明日からカクヨミに上げていきます。
中身ないギャグですが、興味ありましたらよろしくお願いします。
暴風!ゴリラ☆注意報!?〜婚約破棄された令嬢が降ちた先はチョコ系騎士の所でした〜 ゆきぶた @yukidaruobuta
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