第62話 暴走(ヨシュア視点)


 目の前では竜巻と砂嵐が、休む事なく渦巻いている。


「これは一体どうなってんだ?」


 先程までクレアとカールが戦っていた筈だ。

 何を話しているかわからなかったが、クレアが劣勢でハラハラしている中、異常なほど風が吹いている事が気になっていた。


 それがまさかこんな事になるなんて……カールは一体何をクレアに話したんだ!

 僕の憶測では、多分クレアが魔力暴走を起こしたに違いない。


 とにかく、中の様子を見る為にもう少し近づかないと……!


 風に足をとられつつも前に進もうとするが、竜巻に近づくと身体ごと持ってかれそうになってしまう。


「くっそ!こんなの近づけないぞ!!あのバカ、魔力を全部使い切るつもりか!」


 仕方なく僕は火の爆発力を使って前に進む。

 火をジェットに見立てて発射しているのだが、これは自分の体まで火傷してしまう為余り使いたくないのだ。


「いってて……て、あれは!!」


 何度目かの噴射で、かなりクレアに近づけた。そんな中、剣を地面に突き立て動けない男がいた。


「カール!?お前何してんだ?」

「くっ……ヨシュアさんですか……見ての通り剣にしがみついているんですよ!」

「いや、早くにげろよ!お前なら土魔法で……って、まさか!」


 嫌な予感に僕はカールの元に近づこうと手を伸ばすも、風が強くてなかなか前に進めない。


「ふ、そのまさかですよ。魔力増強剤の後遺症。魔力の消失です。俺はもう魔力を使う事は出来ません」


 予想通りの言葉に僕の心臓が早鐘を打つ。

 既にカールはもう諦めた顔をして、剣から手を離そうとしている。


「馬鹿野郎!そんな簡単に諦めるなよ!」


 噴射して僕はカールに手を伸ばした。

 後一歩で手が届くかという所で、カールが笑いながら剣から手を離した。


「俺が居なくなれば証拠も全て無くなる。だからこれでいいんだ……!」

「お、おい!!!ま、まて!!!」


 ゆっくりと竜巻に呑まれていくその姿を手を伸ばしながら目で追う。


 そうだ。カールが居なくなれば今回の事件の証拠は一部あやふやなままになってしまう。

 そうすればカールの父親であるイルダーを捕まえる事も出来なくなってしまうだろう。


 僕は絶対に届かないとわかっているのに再び手を伸ばそうとしたが、その手は遥か遠くにいるカールには届くはずもなく空をきる。

 

「くそ!ここで諦め切れるかよ!!」


 やけくそに叫んだ僕は、火を噴射させて竜巻の中にいるカールの元に突っ込んでいった。


 自分の体がどうなっても構わない。でもこいつだけは、こいつだけは絶対に連れ帰って白状させないといけないんだ!!



 竜巻の中に入ると風のせいで噴射方向が上手くコントロール出来なくなっていた。

 でもそんなこと気にせずに僕は必死にカールを探す。


 いた!カールはまだ無事のようだが、どうも気を失っているようだ……僕の魔力ももうすぐ尽きるだろう。

 それまでにカールを捕まえてここを離脱するしかない。



 体の至る所から火を爆発させその威力でなんとかカールの元にたどりつく。


「ようやくカールを捕まえた……が、ぼくの魔力もも尽きる。どうやってここから出れば……」

 

 この荒れ狂う竜巻が治るまで僕は意識を失わずにカールを守り続けるだろうかと……絶望に呑まれかける。



 そん僕の前に影が落ちた。


「おお!お前か、よく頑張ったな!」


 竜巻の中に居るのに影が落ちるなんて有り得ないと、僕は声がした方へ顔を上げる。


「あなたは……!トリドルさん……?」


 燃えるように赤い髪が風のせいで燃え上がるように唸っていた。その姿は間違いない、ハロルド殿下近衛隊副隊長のトリドルさんだ。


「おう!そうだぜ!!お前中々酷い格好だが大丈夫か?」

「いえ、あんまり、大丈夫では……でも、どうして」


 こんな平然と竜巻の中に居るんですか?と聞きたかった。それ程トリドルさんは竜巻の中に居るとは思えない程平然としている。

 それ以前にトリドルさんは魔法が使えるのだろうか?ぱっと見、補助魔法を使っているようには見えない。


「ちょいと、クレアの嬢ちゃんの風には慣れてるもんでね!」

「は?」


 いやいや慣れているとかそういう問題ではないだろう!ただでさえ、竜巻で色んな物が飛んで来ているんだぞ。

 それを避けるどころか、体を動かす事も出来ないし、僕は喋る事さえやっとだというのに……。


「悪いが二人とも抱えさせてもらうぞ!」


 考えている間にいつのまにここまで来たのか、僕とカールはトリドルさんに抱えられていた。


「よっしこれでオッケー!こいつをここで捕まえておかねぇと、後で俺が怒られちまうからな!」


 そう笑いながら、何事も無かったように竜巻から飛び出していた。

 そして被害が出ていない所までくると、僕とカールを下ろした。


「こいつは気を失ってるから、悪いがお前がそのまま監視していてくれ。後でそいつ引き取りに行くからよ!」

「え……!ちょ、ちょっと!!」


 僕の静止なんて全く聞かずトリドルさんはまた竜巻の中に消えていく。そして誰かを救い出してはまた竜巻に戻るを繰り返していた。


 その姿に、どうなってるんだ……?と疑問を抱きつつ、僕はクレアの事が心配になっていた。


 こんな長時間魔力を暴走させるなんて……。

 これじゃあ魔力どころか生命力さえも吸い取られて、最終的に死んでもおかしくない程の威力だ。


 頼む、誰かクレアを止めてくれ……。


 今動くわけにはいかない僕は祈るように手を合わせていた。

 その声が届いたのか、遠くで誰かがクレアの名前を叫びながら竜巻の中に入っていく人の影をみた。

 

 誰でも良いのでクレアを止めてくれ!

 そう思い、僕は更に祈り続けたのだった。

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