第22話 第二試験いきます!
ライズと共に第二試験会場にたどり着くと、そこでは既に試験が始まっているのか、人々の喧騒が聞こえて来ていた。
第2演習場は小数人で試合をするためにある場所のようで、演習場の周りには観戦出来る様に椅子が置いてある。
とりあえず近くにいる試験官に挨拶をする。
そこで第二試験が試験官である騎士との打ち合いと聞き、自分の番までは座って待つようにと促されていた。
「クレアさんまだ眉間寄ってるけど大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です……」
ライズさんに指摘され、私は眉間に指を当てる。
先程の事だけでこんなに気にしていては、この先知り合いの騎士に会ったらどうしたらいいものか……。
そんな考えを吹き飛ばすような、一際大きな歓声が上がった。
きっと誰かの結果が出たのだと、様子を見ようとして硬直した。
演習場には、知り合いの騎士が立っていた。
しかも気づいて隠れようとする前に、すでに目が合っている為逃げ場もない。
あの人はトリドルさん!?
何故あの人がここに……。
トリドルさんはハロルド近衛隊の隊員であり、この間会ったばかりのため私は嫌な汗がでてしまう。
お城の上であんな別れ方をしたのにこんなに早く会う事になるなんて、一体どうしたら!?
そう思った私は、必死にトリドルさんに念を飛ばす。
近衛隊とはいえ騎士、だからここにいるのはおかしくない!と言う事はわかったから、だから今はお願いだから私に話しかけないで!
どうかここで変に目立ちたくないの、わかって頂戴!
と、アイコンタクトを取ろうとしたが、それは無駄だった。トリドルさんは此方を向くと、馬鹿みたいに手を振ってきたのだ。
「あ、クレアー!!この間の詫びだと思って、俺と熱く手合わせしようぜ!」
私は避けられない予感に頭を抱えたくなっていた。
いやいや、普通こんなことないわよ?
試験官が連続で知り合い!私が今日試験を受けるのを知っていてこの配置ならば、不正と疑われても仕方がない!!
「おい、あれって……」
「うわぁ……マジかよ、もしかして根回し的な」
もう既に不正疑惑がかかっているのか、周りからの視線が痛い。
だから私は仕方なく頭を伏せ、神に祈った。
「トリドル殿。今は試験中です。真面目に働いて下さい」
神に祈ったのが効いたのか、他の試験官に怒られたトリドルさんは軽く手をあげ「しょーがねぇなぁー」と唸りながら、次の受験者の相手に戻っていった。
あの手の上げ方は『後で』と言うことなのだろう……。トリドルさんと打ち合うのかと考えるだけでため息が出てしまった。
それからも数人の打ち合いを見ているが、何が合否に関わっているのか全くわからない。
何より打ち合いが終わってすぐに合否が決まるのだ。まずトリドルさんが負ける事はない。あの人と一緒に戦った事がある私は、その強さを知っているのだから。
「クレアさん、あの試験官の人凄いですね」
横で一緒に見ていたライズが、感心したようにその考察を始めた。
「数回打ち合っただけで相手の実力を見ているようです。それも必ず模擬剣を弾き飛ばして終わらせてるみたいですね。あんな手の抜いた試合に負けた方はプライドも折れてしまいそうですよ」
「確かにそうですね……」
ライズさんの言葉にピンとくるものがあった。
トリドルさんはとても熱い男だ。試合結果がどんなものであれ、プライドを崩されてもめげない精神力を見ているに違いない。
私は周りを軽く見てライズさんの耳元に小声で話しかけた。
「あのこれは憶測ですけど、もしかすると負けた後の態度を見る試験なのかもしれないですね」
「………あぁ、成る程」
ちょうど目の前で終わったばかりの試合結果を見てライズさんが大きく頷いた。
その終わった試合で男はあろう事か、立ち上がる事が出来なくなっていたのだ。そして結果は勿論不合格を言い渡されている所だった。
その様子をみていると、タイミングよくライズさんの番号が呼ばれたところだった。
「ライズさん、頑張って下さい!心強く持って下さいね」
「はは、負ける前提ですか……」
「おお!強気ですね!!」
「クレアさんに良いところ見せるために頑張ってきますね」
ライズさんは私にウィンクを飛ばすと、トリドルさんの元に向かっていく。
私は強気なライズさんがどんなふうに戦うのか気になってワクワクしながら、始まるのを待っていた。
「おい」
その声に呼ばれるまでは……。
振り向いた先に居たのは、先程のロープ姿の男だった。
呼び掛けられたロープ姿の男に連れられて、私は観戦席の端の方に来ていた。
このロープ姿の人は先程道に迷ったときに私を案内してくれた人である。姿を隠しているところを見るとかなり高位の方に違いない。
しかしもうすぐ私の番が回ってくるのに何のようだろうか?
とりあえずじっと待っていると、男が口をひらいた。
「どうして君は試験を受けたんだ?」
突然のその問いは、私が試験を受けてはいけない人物であるかの様に聞こえた。
真意が理解できない私はとりあえず、騎士になりたかった理由を素直に述べる。
「貴方がどう言った意味で呼び出したのかはわかりませんが、私は大切な人を守る為に騎士になりたいのです」
「大切な人?」
「はい、今も昔も変わらない。私がただ一人御守りしたいと願った方です」
「…………そ、そうか」
頭の中に浮かぶのはただ一人。ハロルド殿下その人の事を思い浮かべて私は話していた。
その問いに満足したのか、男は頭を下げるとそのまま話し始めた。
「すまなかった。試験の最中だというのに邪魔をした」
「いえいえ、これで道案内頂いた御礼のお返し、という事でよろしいでしょうか」
よくわからないまま連れられ、質問をされたのだ。助けてくれた人でなければ一緒について行くこともなかった訳だし、偉い方とはいえそれぐらいで許して欲しい。
「ああ、勿論だ」
「もうすぐ出番ですので失礼します」
私はライズの試合が気になっていたのですぐに引き返そうとした。
「─── クレア」
名前を呼ばれたのと、試合の結果に観衆が沸いたのは同時だった。
私は男性に振り返る。その碧い瞳がロープから一瞬見えた気がした。
「今……私の名前を呼ばれましたか?」
その瞳の色に既視感を憶えて、知り合いだったのだろうかとロープの中を見ようとした。
「い、いや。周りの音のせいでそう聞こえただけだろう」
「そうですか……」
あれだけの歓声が聞こえてきていたのだ、聞き間違えても仕方がない。そう考えると自意識過剰で少し恥ずかしくなってきた。
そんな私の前に男性は手を出した。
「試合、頑張ってくれ」
「えっと」
よくわからず、私も手を差し出した。その手をギュッと握られる。
「ちょ、ちょっと!」
焦る私に構わず、男は何かを手に握らせた。
そして私に顔を寄せると耳元で囁く。
「どうか、生き延びてくれ……」
その切ない声音に、私の心臓はドクリと跳ねた。
私が声を出そうとする頃には、男の姿は遠くに消え去っていた。そして私は何も言えないまま、手の中に残るものを見る。
「御守り……?」
その御守りと、先程の声を思い出す。どうしてその声にいままで気がつかなかったのか……。
─── あの声は、ハロルド殿下だ。
そう気がついたときには訳がわからなくて、ライズさんが出番だと呼びに来るまで、私は御守りを強く握りしめていた。
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