第21話 騎士の騎士って?
魔力測定自体が第一試験?
よくわからずに首を傾げていると、私の疑問を読み取ったのか、ロイさんは続けて教えてくれた。
「これはクレア様だから言いますけど……今年は魔法騎士をなるべく増やすようにと上からお願いをされていまして。どうやら昨年は余りにも少なかった事から色々と不都合があり、今年はこういう事になってしまったようなのです」
「成る程……」
「きっとその情報が漏れていたのでしょうね。ドーピングされている方が何名かいるようなので、こちらとしては頭が痛いです」
額を押さえているロイさんを見て、騎士団にも色々と問題が多いのだろうと私も眉を寄せた。
いや私としてはとりあえず第一試験をクリア出来たのだから、その事も有り難く思わなくていけない。
そう思っていると、少し離れたところから私を呼ぶ声がした。
「クレアさーん!大丈夫でしたか?」
そちらを向くと、ライズさんが駆け寄ってくるのが見えた。騒動がおさまったのに戻らない私を、心配してくれたのかもしれない。
「あっ、ライズさん。いきなり飛び出してすみません。お騒がせしました!」
「いえいえ、クレアさんが無事だったのなら良かったです」
頭を下げる私にライズさんは測定器を持ったまま手を振る。それを見たロイさんがライズさんに声をかけた。
「あなたも、第一試験合格ですね。えっとあなたは……」
「ライズ・アンドリューです」
「おめでとうございます!」
二人はとても和かに笑顔で挨拶を交わしているように見えた。
だから私もライズさんにもう一度、お祝いの言葉をかける事にした。
「ライズさんおめでとうございます!」
「ありがとうございます」
そう嬉しそうに言うライズさんを見て、何故か私も嬉しくなってしまったのだった。
「ではお二人ともここを真っ直ぐにいって、第二演習場に向かってください。ここよりは少し狭い広場に出ると思いますので……」
「有難うございます。あ、あと一つだけ良いですか?」
ずっと引っかかっていた事があったので、私はロイさんの方に近づき耳元でコソッと言う。
「クレア様、何でしょうか?」
「そのクレア様って言うのは、今日で絶対にぜーったいにやめて下さいね!もし騎士になれたとしたら、私はロイさんの後輩になるのですから」
「あー、そうですよね。できるならそのままの方が俺は良いのですが……なるべく気を付けます」
「是非、そうして下さいね」
私の圧に負けたのかロイさんは額を押さえながらため息をつくと、改めて此方をみた。
「クレア様、これでも俺はあなたに忠誠を捧げた身です。ですからどんな状況になっても俺は貴女の騎士です。……それだけは覚えておいてください」
その言葉にそういえばそんな事もあったなと、忘れかけていたその忠誠について思い出してしまう。
あれはまだ私がハロルド殿下の婚約者だったときのことで、その日はたまたまロイさんと一緒に稽古をしていた。確かそのとき悪ふざけでロイさんが、私に忠誠を誓ってくれたのだ。
でも私はそれが本気だったなんて思っていなかったため、すっかり忘れてしまっていた。
そう思っていたからこそ、ロイさんの言葉に私は首を傾げ、つい確認してしまう。
「いや、あれはふざけてやったんじゃ……?」
「俺は本気でしたから。だから、覚えておいて下さい。俺は一生貴女の騎士です」
そう言ってロイさんは私に、とても爽やかな笑顔を見せてくれた。
いや騎士の騎士って何?と思うのと同時に、今の私には忠誠を誓われるような存在ではないという後ろめたさから、顔を伏せる。
そして何も言えないまま頭を下げ、私は次の試験に向かうことにした。
そんな私の姿が見えなくなるまで、ロイさんがじっとこちらを見ていたなんて、私は気がつくこともなかったのだった。
私は次の会場までの道中、ずっと先程のロイさんの事について考えて、そしてため息をついていた。
まさか試験に知り合いがいて、あんな事言ってくるなんて思ってもみなかったわ。
なにより「一生あなたの騎士です」なんて重い言葉、今の私が受け取れるわけがないもの……。
でもそもそもロイさんにそんなに会う機会あるとも思えないし、そのままなかった事にしてもらうしかない!
そう思い直し、忠誠についてはまた今度ロイさんに会ったときに考える事にして、今は試験に集中しようと手を強く握り直した。
こうして後回しにした事を後悔するのは、少し後の事になるのだった。
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