第37話 救われるってこう言う事!


 ヨシュアと決闘を決めたはいいけど、ヨシュアの強さについてまで考えていなかった私は、少し混乱していた。


 し、しまった!!私は自分がそこそこ強い事は理解していたけど、ヨシュアの戦いをあまり見た事がない!

 この作戦は私がヨシュアの実力を、完全に凌駕しなければ成り立たない……でもここで引くわけにはいかないわ!


「知らないけど、決闘までに死ぬ程特訓するわ!」


 そうだ、わからないなら必死で特訓をして強くなればいい。先程見た感じではヨシュアは火使いの魔法騎士だろう。その対策をメインで特訓すれば可能性はある!


「凄く脳筋な答えをありがとう。ただ問題は決闘に当たる演習訓練は2週間後に予定されてる、能力診断演習の事じゃないかな?」

「え、そんなのあったっけ?ってか2週間後!?」

「最初に貰った特訓日程カレンダーに書いてあったけど……まあ、クレアの事だから見てないよねぇ」


 またもや盛大にため息をつきながら首を振るライズに、恥ずかしくて申し訳ないと思えてくる。



 確かに入隊したときにそのような物を貰った気がする……だけど普通そんな予定なんてちゃんと読み込んでる人いるの!?

 いや、ここにいるんだけど!多分ヨシュアも予定を知っていて私に決闘を申し込んだに違いないわ。


「まあ、俺はクレアが負ける事はないと思っているから」

「ライズ……!」

「でもね、俺は許してないから」


 一瞬喜ばせて落胆させる。ライズは意地悪だし、こう言うところが少し怖くて私は顔をそむけようとした。でもそれは出来なかった。


 近づいてきたライズが私の顎を掴んだから。


 それも手を添えるとかそう言うのじゃなくて、顎を鷲掴みされている。そのせいで私の顔は潰れてしまっていた。


「ライズ、痛い……」

「俺の事心配させたクレアに罰だよ」

「えぇ……」

「ねぇクレア、真面目に聞いて」


 そう言われてライズを見上げると、エメラルドグリーンの瞳が真っ直ぐ私を見つめていた。

 その真剣な眼差しに、私は吸い込まれそうになってしまう。だけどライズの次の問いに、私の頭は固まってしまったのだった。


「まだ出会って日も浅いけどさ、俺はそんなにも信用ならないかな?」

「………………」


 その言葉に私は核心をつかれたような気がして、ライズに答えを返す事ができず、視線をその瞳から外してしまった。

 でも自分では壁を作っているつもりは無かったのだ。しかしライズからしたらそうでは無かったのだろう。

 

 だけど私だって本当は、今すぐにでもライズの事を信じたい。少しは信じようと決めたつもりだった。

 でもそれはゆっくり過ぎで、全然前に進めていなかったことを、ライズに言われて初めて気がついたのだ。


 だって仕方がないじゃない。

 簡単に相手を信用して同じ過ちを繰り返したら、今度こそ私は二度と立ち直れないわ。

 まだ傷が治るには日が浅すぎるもの。


 なによりあの婚約破棄で私の心が深く傷ついたのは事実。

 よかったと思えることの方が多くても、精神をすり減らした心はすぐには戻って来ないのだ。


 だから、もう少しだけ時間が欲しかった。



 そう口を開こうとしたのにライズの手が顎から離れ、私の頬をスルリと撫でたのだ。

 その手の暖かさに私はライズを見つめ返していた。その顔は少し歪んでいて、目が合うとポツリと言葉をこぼしていた。


「クレア、ごめん。俺が悪かったよ……クレアに無理強いしたい訳じゃなくて、そんな悲しそうな顔をして欲しい訳じゃないんだ」


 悲しそう……?

 一体私は今どんな顔をしているのだろう?

 ライズに謝って欲しい訳じゃないのに。


 何かを言いたくても言えない私は俯きそうになっていた。

 しかしその身体が不意に暖かくなり、何が起きたのかわからなくて驚きに声が溢れてしまった。


「……え?」



 気づいたとき、既に私の体はライズに抱きしめられていた。



「俺達はまだ出会ってそんなに経ってないけど、俺はクレアと友達になった事、本当に嬉しかったんだ。だから友達として、クレアの為に出来る事は何でもしてあげたい。だから……」


 ライズが体を少し離すと私を見つめる。

 何が起きたのか理解出来ない私は、ライズの言葉の続きを待ちながらその瞳を見つめ返した。


「一人で抱え込まないでよ。話すだけでもいいからさ」



 その言葉が私に突き刺さる。

 私は驚きに目を見開いていた。

 

 ─── 一人で抱え込まなくてもいい。


 だって、その言葉はずっと誰かに言って欲しかった言葉だったから。

 私はずっと一人だと思っていた。今まで殿下に相応しい婚約者になる為、何でも一人で抱え込んでしまっていた。

 

 でも、もうその必要はない。



 このとき私はようやく、もう一人で抱え込まなくてもいいんだと気がついたのだった。

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