第66話 あと1月で昇進試験!?
私が暴走をしてから早二ヶ月が経っていた。
3週間も謹慎していた私は謹慎が解けるや否や各種方面に誤りに誤った。
特にヨシュアには誠意を持って謝るべきだと思い、ライズに教えてもらったとにかく美味しいご飯屋さんに案内する事にしたのだった。
そして今目の前のヨシュアは機嫌が悪そうに座っている。
「それで、なんでこいつもいるんだ?」
「え?俺も時間が空いたからクレアに誘われたんだけど……」
何か問題がある?と言った顔をしたライズが、ヨシュアを見て目を瞬かせている。
その顔にヨシュアはイラっとしたのか、眉を寄せた。
「あら~、ヨシュアったら二人で食べたかったのかしら?」
「そんなわけあるか!お前がお詫びに奢ると言うから来てみたら、何故かこいつもいたから聞いてみただけだろうが!」
軽くからかっただけなのにこんなに焦っちゃって……最近はヨシュアをからかうのも楽しくなってきたわね。
「クレア……、彼ってこんなに面白い人だったんだね。それにヨシュア、あまり話した事は無かったけれどこれからもクレア共々よろしく」
「面白くはないし、クレアと一緒にされたくもないが、僕は優しいからその手をとってやる」
握手をする二人はお互いに笑顔なのだが、何故か目が笑ってないような気がする。
きっと気がするだけなので、私は話を逸らそうと店員を呼び注文をしてしまう事にした。
「それで、事件はどうなったの?」
早くもご飯を食べ終えた私は、一番詳しく知っていそうなヨシュアに問いかけた。
ヨシュアは少し考える素振りを見せつつも、今食べている物を咀嚼し終えると私を見た。
「あの事件の犯人である伯爵親子は捕まって、どうやらすぐに刑を執行されたらしい」
「え?」
刑を執行というのは、まさか処刑されたという事?それ程の罪だったのだのかしら?
それよりもまだ二月しか経っていないのにそんな素早く処刑される事があるのね……。
「クレアは知らないだろうが、他にも余罪はあるからな」
「そうなのね……」
「ただ、いまだ事件に関与したと考えられている商人は捕まっていない。そして何故かまだこの王都に潜伏しているらしく、目的もわかっていないそうだ」
まだ事件は終わっていない……。
きっと商人は新しい取引相手を探しているのかもしれない。そしてまた魔力増強剤がばら撒かれた日には、同じような事件が多発するだろう。
そっと目の前に座るヨシュアを見るも、何か考えているようだった。やはり今回の事件には思う事があるのだろう。そして次に私の横に座るライズを見る。
何故かエメラルドの瞳とすぐに目が合った事に驚きつつ、私はライズに小声で話しかけた。
「何?」
「え?ああ。クレアの百面相みてるの面白いなと思って」
「はぁ?なっ、なによそれ……人を珍獣みたいに見ないでよ。それに今はそんな場合じゃないでしょ……」
こっちは真面目に今後について話しているというのに、ライズの気の抜けようは一体何だというのか。
私はその事で少しイラッとしていたのに、それよりもライズに見られていたことが恥ずかしくて顔を背けてしまう……。
それなのにライズは、私がすっかり忘れていたことを柔かに言ったのだ。
「でもクレア、昇進試験まであと一月だよ。そんな時間あるの?」
「あああぁぁあぁあああああーーー!!!!!」
「ど、どうした!?」
立ち上がり叫んだ私の声にヨシュアだけでなく、周りの人からも視線が刺さる。
慌てて口を押さえて周りの人に頭を下げると、訝しげな顔をしつつ周りの人達はそれぞれの食事を楽しむのに戻っていった。
「クレア。昇進試験の事、忘れてた?」
「う、うん……どうしよう。私謹慎してたし、こんなんじゃ近衛騎士になれない」
近衛部隊に入る為にはまず成績上位10%に入る必要がある。それなのに私は以前の能力診断演習をちゃんと行えていない。
これでは見習いから卒業さえも出来ないんじゃないだろうか……。
「クレアは本当バカだな」
ヨシュアが軽く鼻で笑いつつ、私にフォークを突きつけた。
「能力診断演習は成績の2割ぐらいにしか加味されない」
「え?そうなの?」
「お前は本当に入団したときにもらったパンフレットを読んだのか?」
そんなもの貰った記憶がなくて、私はヨシュアから目を逸らす。
そんな私を見て前からため息が聞こえてきた。
「その顔は見てないんだな……。いいか?成績は普段の実技の評価2割、能力診断演習は2割。そして最後の昇進試験が6割だ」
「でももう既に2割が……!」
「だからクレアはバカなんだ。よく思い出してみろ!能力診断演習の一回目は僕と戦ったお前の結果は?」
「……勝った気がします」
その答えにヨシュアの眉がピクリと動いた。多分これは怒らせたんだろう。
でも今はそれどころじゃない私はヨシュアの話に食いつくようにその瞳を見つめた。
「そうだよ。僕に勝ったくせに忘れてるのとはどういう事なんだ……まあ今はそこは置いておくとしてだ、たとえお前が謹慎していたとしても実技の評価が悪いとは思えない。とりあえず今落としているのは1割だと思え」
「1割……ならもし、もしだけど次の昇進試験で満点とれれば?」
「合格どころか、近衛なんて余裕だろ」
私はあまりの嬉しさにヨシュアの手をにぎっていた。
「お、おい。何故手を握る!というか凄い手が痛いんだが……」
「ありがとうヨシュア!私昇進試験頑張るわ!!」
喜びのあまりヨシュアが痛がっている事なんて気づかない私は、さらに手に力を込めた。
「いだだだ!!」
「く、クレアもうその辺に……」
そうよね、いつも通りとにかく特訓あるのみ!と、私の思考は明日からの訓練のことでいっぱいになっていた。
「僕の気にもなれよ……」
と、呟くヨシュアの声は一切聞こえる事はなかった。
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