第68話 昇進試験開始!


 お日様はいつも私の味方でいてくれるのか、昇進試験当日の今日もとてもいいお天気である。

 何より今日は闘技祭というらしく、昇進試験以外に演舞とかお祭りみたいな事もやっているようなので、終わり次第そちらも見にいきたいところである。


「ふぁぁ……」


 そう思いつつも、欠伸がでてしまった。

 昇進試験はとても朝早くからやっているのだ。


「おい、クレア欠伸してる場合じゃないぞ!確かに筆記試験と体力試験に乗馬試験と、もう3つも終わらせはしたがここからが本番といっても良いのだからな!」

「ヨシュア、別にクレアは気を抜いてる訳じゃ……」


 いつのまに仲良くなったのか、何故か今日はヨシュアとライズ、そして私の3人で行動している。


「ええ、そうよ。今までの試験はバッチリだったとはいえ、気を抜いたつもりはないわ。後は騎士見習い全員参加の大規模戦と、一対一で行う試合ね」

「大規模戦は連携や立ち回りなどが大事なんだろうが、人数が多すぎる為に点数は減点式だそうだ。だから変な事をしないでいろよ」

「さっすがヨシュア情報通!」

「そんな情報何処から?」


 ライズの質問に一瞬目を泳がせたヨシュアは、口に手を当てて小声で話し始めた。


「ちょっと前にトリドルさんに会ったときにな……」

「そういえば、だいぶ前に連れてかれてたものね。今でも交流があるの?」

「ちょっと、まあな」


 ヨシュアは歯切れが悪い感じで目を泳がせたまま、この話は終わりだと話を打ち切った。


「それより大規模戦で、僕達は敵が味方かわからないんだこんなところで仲良しごっこをするつもりはない」


 前に出たヨシュアは、私に指を突きつけた。


「クレア、もしお前が敵になったら僕は今までの恨み、晴らさせて貰うからそのつもりで覚悟しろよ!」


 そう言いながら走り去っていくヨシュアを見て、なんだか決闘を申し込まれたときみたいだとクスリと笑ってしまった


「ご機嫌だね?」

「まあ、楽しみではあるわね。さあライズ、あともう一踏ん張りよ頑張りましょう!」

「じゃあ俺達も急ごうか」


 そういうと二人で笑い、そのまま走り出した。






 

 そして今、周りの喧騒がなりやまない。

 大規模戦とは聞いていたし。今年の入団者は150人、そしてそれとは別に士官学校から騎士団に入団した人員が200名ほどいたたらしい。そのうち今残っているのは300人ぐらいだそうだ。

 ついていけなかったり不正をしたりでどうしても人数は減っていってしまう。


 そんな中私は、とりあえず迫りくる敵チームをバッタバッタと薙ぎ倒していた。


 防衛に回ったのはいいけど、なんだか暇だわ。

 そうね、守りきるあの旗をハロルド殿下として守ってみることにしましょう。


 因みにこの戦いを簡単に説明すると、相手チームの旗を取れば勝ちというシンプルなものだ。私は防衛なので旗を取られたら負けであり、仲間が旗を取って来てくれるのを信じて待つ事しかできない。


 自チームの旗は赤色、敵チームの色は青色だ。


「クレア、前方左斜め向こうの防壁側からヨシュアが迫って来てるよ!」

「わかったわ!」


 同じチームになったライズは私のサポートで遠距離の探索をお願いしている。どうやって視認しているのかわからないけど、私には見えない所までしっかりサポートしてくれる。

 そして敵チームに入ったヨシュアは、宣言通り向かってくる敵を叩き伏せながらも、こちらに一直線に目指してきていた。


「やはり、クレアが防衛の要だったか!お前を倒して旗は頂いていく!!」

「そうはさせないわ!ライズコンビネーション行くわよ!」

「うん!」


 私とライズが前後並びそれぞれ構えをとった。

 その動作に動揺したヨシュアが、慌てて構えをとった。


「は?お前らコンビネーションなんていつ!」

「いつか披露できるように普段から練習してたのよ!」


 言いながら私はヨシュアに向かっていく、勿論風を纏ってのタックルだ。


「うをっ!」


 避けた瞬間必ず隙が生まれる。

 そこをすかさずライズが、あれライズ?

 突進した私はライズが何処に行ったかと振り返った。


「クレアよそ見してるんじゃないぞ!ライズならあそこだ」


 言われた方向を見ると、ライズは旗の目の前まで来ていた敵を払い除けていたところだった。


「言っただろ?お前が防衛の要だって」

「あんた私を引き付けて、防衛が薄くなったところを討ち取るつもりだったのね!!」

「クレアは本当バカだな、これは団体戦だ。一人でやってる訳じゃないからな。でもすぐに、ライズのやつに見破られたのは悔しいがな!」


 ヨシュアの言葉に私は口を噛みしめつつも、何度も打ち合いを続ける。私とヨシュアの強さはほぼ互角だからこそ、他に手を回す事が出来ないのだ。

 どうやら他の仲間もがんばっているが、次々くる敵チームにライズも含め皆疲れがみえて来ているようだった。


「これは時間の問題だな」

「どうかしら?案外そちらの方が先に終わるかも知れないわよ!」


 受けた模擬剣を弾き返しながら私はニヤリと笑った。


「なに?」


 同時にヨシュアの声が打ち消されるほどの音が鳴っていた。


 ピーーーーーーーーーーーーーーー。


 甲高く響く笛の音は、勝敗を分ける音だ。

 勝ったのはどっちかと私は自分のチームの旗を見る。


「これは……?」

「どうやら決まったようだな!これで僕の……」


 私達チームの赤い旗を持っているのはどう見ても敵チームだった。


「勝者は赤チーム!!」


 でも審判が叫んだのは、何故か私達赤チームの方だった。もしかするとほぼ同時に勝敗が決まったのかもしれない。

 遠くで自チームの一人が旗をこちらに振りながら走ってくるのが見える。


「僕の……」

「僕の何ですって?」

「何故だ!!」

「どうやらほぼ同時だったみたいだね」


 旗の近くにいたはずのライズは気がついたら横に移動していた。

 放心するヨシュアをとりあえず放って、私達は次にある一対一の試合が行われる場所を確認しに、張り出しボードの前に来ていた。


「うーん、俺は第二演習場みたい。クレアは?」

「私は第一演習場よ」

「隣の演習場なら割と近いね。多分俺のが先に終わるから後で見にいくよ」


 そんなライズに感謝を述べつつ、私は第一演習場に向かっていた。

 相変わらず一人で行動は少し怖いが、気を奮い立たせる為にほっぺを軽く叩く。

 立ち止まる私の後ろから飄々とした軽い声がかかった。


「よお、クレアの嬢ちゃん。久しぶりだな!」


 振り返った私の目の前には、ハロルド近衛隊の今は副隊長をしているというトリドルさんが、相変わらず暑苦しい笑顔で手を上げていた。

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