第17話 騎士団入団試験を受けます!
眩しい程の晴天に、私はため息を溢しつつ空を直視しないように目を伏せた。
今ここで目を痛める訳にはいかない。
何故なら今日は何よりも大事な入団試験日の当日なのだから。
あの日の約束通り、お父様とジェッツのおかげで入団試験を受けられるようになっていた。絶対に批判意見もあっただろうに、無理を通してこの場に来れていることはわかっている。
だからこそ絶対に試験に落ちる訳にはいかないのだ。
騒めく心を落ち着かせようと、何度も深呼吸をする。そして手をキツく握る事で、その気持ちを押さえ込もうとした。
それでも緊張がすごくて汗が止まらない!!
このままでは試験が始まる前に体力を使い切ってしまいそうだ。そう思った私はとりあえず気分を切り替えよようと、入団試験の応募要項が書いてある用紙をポケットから取り出し、もう1度確認することにした。
なんでも騎士団の入団試験は三次試験まであり、その後の面接をもって終了。当日合否が出るという、その日限りの試験だ。
そして毎年の合格人数は、平均で100人程採用されるとお父様は言っていた。良し悪しによって人数は前後しているみたいだから、合格点を超えれば良しという事なのだろう。
応募要項をまたポケットにしまいながら、改めて不安になる自分がいた。
その理由は試験の内容にある。何でも入団試験の内容は毎年異なり、その場にならないとわからないらしいのだ。
過去の試験内容も沢山見たけど、きっと意味がないのだろう。全く何が来るかわからない試験ほど、怖い物はない。
とりあえず今年試験を作った人が、変な人じゃない事をただ祈る事にしましょう。
こんなにも緊張しているものの、私は自分の実力が決して低いとは思っている訳ではない。だって実際に実戦をした事はあるのだ。
それでも騎士団に入れる実力があるのかどうかは、試験を受けないとわからない。その為ずっと不安でいた。
「おっと、すまないな。少し詰めて貰っていいかい?」
意気込む私はぼーっとしていたのか、前に少し隙間が空いていた。
慌てて前を詰めながら頭を下げる。
「すみません」
「い、いや……こちらこそ」
私の声に後ろの男性が気まずそうに顔を背けた。
髪の短い私の事を男だと勘違いしたのだろう。
こんな態度を取られたのは一度や二度ではない。
入団希望の女性は本当に少なく、だからこの列に並んでいる中に女性など居ないと思って驚いたのだろう。
仕方がない事だと再び手を握りしめる。
それにしても騎士団の希望者がこんなに多いとは知らなかった。
ずっと続く列に意識が遠くなりそうで、私は溜息をついていた。
「クレア・スカーレット」
長い長い列を抜けてようやく申し込みが終わり、私は正式に試験を受けられる。
「君の試験番号の紙はこれだ。あと試験場所だが、第四訓練場になる。場所がわからない場合は近くにいる騎士に聞いてくれ」
紙には258と、書いてある。
これが私の試験番号なんだと、受け取って初めてちゃんと試験を受けられるという実感を得ていた。
「ありがとうございます」
そう立ち去る私の後ろでは「あれが例の……」と言う声が端々から聞こえて来ていた。
きっと名前を聞いて、今日ここに現れる噂の人物である私を、頭の中で一致させているのだろう。
第二王子に婚約破棄された女、クレア・スカーレットとして。
私は聞こえないふりをして、真っ直ぐ訓練場に向けて歩いて行く。
気にしないようにしていても心はそうはいかないようで、気がついたときには私は唇を噛みしめ手を強く握りしめていた。
「あれ?ここ、何処……?」
そして気がついたときには道に迷っていた。
見た感じ訓練場を通り越してきてしまったのかもしれない。
「君、今日の試験を受けに来た人?」
私の呟きが聞こえたのか、すぐ真後ろから声がした。何も考えずに後ろを振り返るとそこには男性が立っていた。
「……クレア?」
「……え?」
一瞬名前を呼ばれた気がした。
でも目の前にいる人は、私の記憶のどの人物とも当てはまらない。というよりその人物はロープで覆われていて、顔がよく見えなかったのである。
私は聞き間違いだろうと、その男性に道を訪ねる事にした。
「あの、恥ずかしながら道に迷ってしまいまして……。第四訓練場に行きたいのですが、どちらに行けば宜しいでしょうか?」
「あ、ああ!第四訓練場ならここを真っ直ぐに行けば辿りつきますよ」
男性は急いでいるのか少し早口で答えてくれた。その姿に申し訳なく思った私はお礼を言うと素早く立ち去ることにした。
そしてそのまま少し真っ直ぐ歩くと、第四訓練場と書いてある入口にたどり着く。
余りの近さに唖然とし、先程道を聞いたことを後悔していた。
こんな近くにあったなら先程の人に、話しかけなければよかったかもしれない。
だって急いでいたようだし、迷惑をかけてしまったに違いないわ……。
そう反省しつつその扉を潜ると、その先には実に訓練場らしく土埃の舞う広々とした場所に繋がっていた。
こんな訓練場がいくつもあるなんて流石王国騎士団と、考えているとあからさまに周りからの視線が痛い事に気がついた。
「あれが……」「噂の」などと聞こえはするが、私に近づいて直接聞いてくる者は一人も居ない。
こんな事は想定の範囲内と割り切り私は開始時間まで端の方で目を閉じ、静かに待つ事にした。
でも周りはどうもそっとしてくれないようで、一人の男がこちらに近づいてくるのが見えていた。
「おい、お前」
きっと私を呼んでいるのだろう男の声に、聞こえない振りをしようと目を閉じたままやり過ごそうとする。
「おい、無視するんじゃねぇ……お前だ。お前……さっき受付で見てたが、噂のクレア・スカーレットってのはお前だろ?」
「……それが何か?」
しつこく話しかけてくる男に名前まで言われて、余りの煩わしさに返事をしてしまう。
こうなったら早く話を終わらして何処かに行ってもらおうと、黒髪の男を睨みつけるも男はニヤつきながら、私をじっくりと観察してきた。
「やっぱり、お前があのクレア・スカーレットっか……」
「そうだったら何だと言うのですか?」
その変に含みのある言い方に、私はいい加減苛立ってきた。
ハロルド殿下に婚約破棄されたのは事実だけど、だからと言って知らない人にジロジロと見られ、陰口を叩かれる為にここに来たわけでは無いのだ。
「世間知らずの嬢ちゃんに一言、親切に忠告してやるぜ」
「は?」
そう言いつつ男は、ニヤリとしたまま一歩足を踏み出し言い切った。
「おめぇ見たいな令嬢が、騎士になんてなれる訳ないんだから今すぐにでも帰りな」
「なっ!!」
なんて事を言うのかしら!と、怒るよりも早く男が私の腕を掴もうとし、驚いた私は声を上げていた。
しかしその男の手は私の腕を掴む前に、誰かの手によって止められていた。
「はい、ストップ」
咄嗟に目を閉じていた私に優しい声が響いた。
ゆっくりと目を開くと目の前にはダークブラウンの髪を揺らした青年が、文句を言ってきた男の腕を掴んで立っていた。
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