第75話 一緒にいたいと思うのは変かしら?
盛大に私が顔をしかめたせいなのか、ライズが突然私の手を握りしめた。
それだけなのに不安が少し落ち着いてしまう私がいて、しかも心臓がドキドキしてうるさい。
「クレア、事件の犯人は捕まった事だしこの話はもう終わりにしよう?これ以上俺達が考えても仕方がないさ」
「……確かに、そうよね」
そうだ。これでもう終わったんだ。後はお父様達に任せておけばきっと大丈夫!
それに今の私はライズの手に触れている事に心拍数が上がってしまって、早く手を離して欲しかった。
だからとりあえず、ライズが心配しないように笑顔で向き直る。そんな私をみて少しホッとしたのか、ライズは手を離すとすぐに別の話題を切り出した。
「そういえば、クレアはカールとイルダーさんの話については……なんだか知ってそうな顔してるね」
「あー、うん……」
手を離されてドキドキはおさまったけど、なんだか名残惜しくて、わたしは指をピクリと動かしながらカールとイルダーについて思い出す。
あの二人については、知ったというか聞いたと言うか……。
あれはお母様の優勝を祝いに行ったときにたまたま聞いた話だ。
そのときにカールとイルダーさんは生きていると言われて、私は驚きのあまり叫びそうになってしまった。
確かに生きていた事は嬉しかったが、複雑な気持ちが少しであったのだ。
「それもまさかカールとイルダーさんが、スカーレット家の護衛騎士になるなんて思ってもいなくて……」
「え?」
カールとイルダーさんは捕まった後、何故かお母様に死ぬほどしごかれ、さらに心を折られてから爵位を剥奪されていたようだ。
そしてその後スカーレット家の護衛私兵となって、実家で働いていたらしい……。
2人は今までの罪を償う為に、これから働いた給料は被害にあった人の為に寄付する形になるそうだ。
それでも親子2人と親族共々の身辺整理まで請け負ってしまうお父様は、面倒見が良すぎると思う。
いつかお父様が倒れてしまわないか心配だわ。
「そ、そうなんだ。俺はそこまで詳しい事は知らなかったけれど、ある意味被害者の2人がそこまで重い罪にならなくてよかったね」
「確かにそうよね……」
処刑されたと聞いた時はギョッとしたけど、やっぱりこの世には知らない方が良い事の方が多いのよね。
─── 例えばハロルド殿下の真実とか……それからライズが私の事どう思っているのかとかもね。
そんな余計な事を考えてしまった私は、恥ずかしくて暫く俯いてしまう。
そんは私を見てなのか、ライズは私に質問してきたのだ。
「そういえばクレア、事件の犯人は捕まったのにスカーレット家に戻らなかったんだって?」
「あっ!?え、ええ。そうだけど?」
「どうして?クレアが戻ったらご両親は喜ばれる筈なのに……」
その質問に、私は顔をあげてその瞳を見つめる。
相変わらずライズは優しげに私を見ていた。
きっとライズなら私の答えに、否定をする事は無いだろうという確信があった。
「あのね、私はこれからもお父様や、お母様の迷惑になる事を沢山起こす気がするの。そうなったとき、スカーレット家に泥を塗りたくないのよ。それに私はもう一人前の騎士になるし、まだ昇進か決まった訳じゃないけど……だけど、きっと大丈夫。だから私は自分の足で立っていけるわ」
「……クレア」
「それに今はライズと言う最高の仲間であり友がいるじゃない!私は1人じゃないわ、だからこれからも一緒に居て欲しいの……ダメかしら?」
ちゃんと笑顔で言えたと思う。
だってまだ人を信じるのは少し不安だけど、でもずっと一人で居ることなんてできないもの。
だから、こうしていつも優しく笑いかけてくれるこの人を信じたい、好きでいたい。
今はまだ友達でもいい、それでもいつも側にいて欲しい……そう思ってしまったの。
「クレア、俺は……俺は……」
何かを言おうとするライズは、それ以降の言葉が出てこないのか少し言い淀むと、何かを決意したのか私の手を握ろうとした。
それなのに……。
「おい、お前ら!!僕を置いて二人だけで食事をするとはいい度胸だな!」
どうみてもいい所だったのに、邪魔が入ったわ。
私は邪魔した相手を見てまたコイツかと、すっごい嫌そうな顔をした。
「なんだ、何故そんな顔をするんだ!!僕が来てやったんだぞ、もっと喜べ!」
そう言いながらドヤ顔をするヨシュアに、全くこれだからこの男は空気が読めなすぎるのよ。
まあそれが面白いところなのよねと、ライズと顔を見合わせると同じ事を思っているのか、同時に二人で吹き出してしまう。
「な、何故笑うんだ!?僕の顔を見て笑うとか失礼な奴らだな!」
そんなヨシュアを見てさらに私達はさらに笑いだしてしまった。
そして私達の賑やかな宴は始まったのだった。
そ二人の楽しそうな笑顔を見ていたら、昇進したらこの二人とはもうこんな楽しく話せなくなるのかな……と、少し寂しい気持ちが芽生えていた。
でも今だけはこの時間を楽しもうと、私達は日を跨ぐまで語り合ったのだった。
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