第11話 撃退してやります!


 深夜2時。今日は月明かりもない真っ暗闇である。


 そんな誰もがもう寝静まっている中、私はずっと屋根の上に待機していた。

 下を見渡すと王宮前にある広大な庭園と、3階部分にある空中庭園の草花が風で怪しげに揺れているのがわかる。



 確か暗殺集団の幹部が持っていた地図には、庭園にいる待機組とすでに城内にいる侵入組の情報が書いてあった。

 本来なら侵入組の方をどうにかするべきだと思う、でもそこにはハロルド殿下の近衛隊がいるから多分大丈夫だろう。


 あの人達は人数が少なくても一応有能だわ。

 でもそれは、今残っている騎士が無能でなければの話だけど……。


 しかしそれを今考えても仕方がない。

 どうせ城内で騒ぎを起こした隙に待機組が侵入して、殿下を狙うことはわかりきってる。

 だからこそ、私はここでひたすら待てば良いだけなのだ。


 今回は私もいくつか仕掛をしておいたし、撃退する準備はバッチリよ!

 おほほほ!暗殺者達、何処からでもかかってきなさい!!



 そう思っていると、城内で騒ぎが起き始めた。

 侵入組がさっそく揺動を始めたのだろう。

 バタバタと人が行き交う音がいたる場所から聞こえてくる。


 そして、それを待ってましたというばかりに、暗闇の中で微かに動く気配がしたのだ。

 私は屋上にずっと待機している間に、風魔法で庭園にそよ風を送り続けていた。そして今現在の庭園には私の薄く引き伸ばされた魔力が満ちている。


 そのため、魔力の風を切り裂く程の動きを見せれば、私に魔力の途切れを教えてくれる。

 それは相手の居場所もわかるということである。

 そしてこれは高魔力である私だからできるゴリ押し戦法であるが、実際に広い場外でしか使えない。

 でもここは庭園なのでとても見晴らしがよく、今の私と素晴らしいほど相性がよかった。



 どうやら動いたのは五人!

 庭園中央後方に二人、空中庭園左方に一人、その逆に一人。そしてすでに走りだしている斜め前に一人。

 私は距離を詰めるため屋根の上から飛び降りる。


 まだあいつらは私の存在に全く気がついてないから、強襲するなら今!

 先程片付け損ねたモップさんすみません!!


 そう思いながら、私は持っているモップを男に向かって力の限り投げつけた。

 


「ぐぁっ!」


 そう思って投げたモップは、茂みから飛び出した男へと見事ヒットした。

 突然空から降ってきたモップに当たれば気絶ぐらいはするだろう。

 そして男が倒されたことに気がついた、残りの四人も動き出していた。


 流石に警戒しているみたいだけど、何処にいるか私にはバレバレなのよ!

 空中庭園にいる二人は、どうもあのメイドが仕掛けた場所に向かうつもりね。あそこの仕掛けはもう潰してあるから侵入は不可能なのよ。

 ふふふ、残念だったわね。入れないことに気がついたところをドカンよ!


 庭園を走る私の目に、二人組が仕掛けのある窓へと飛び乗ったのが見えた。

 丁度あそこには、私もとある仕掛けを作っておいたのだ。


「……!?」

「どうなっている、開いてないじゃないか……」

「あいつめ、しくったな!!」


 窓の下までくると、窓が開かないことに戸惑い焦っている男達が見えていた。

 そしてそいつらは、とある窓辺に足をかけ……。


「っ!?」

「な、なんだ、すべっ!」


 叫んだ途端につるんっと、足を滑らせた。

 実はコッソリ洗剤を窓辺にかけておいたのが上手くいったようだ。

 そしてそのタイミングを私が逃すわけもなく、滑り落ちてくる男達へと、モップを振りかぶった。


 バキン!!!!!


 いい音を立てて、暗殺者達を吹き飛ばす。

 目標は最初の男を倒した場所だ。

 風で補助をしたため、とても良い放物線を描いたので、多分綺麗に横へ並んだはずである。


 しかし、今の一撃でついにモップが壊れてしまった。

 私はモップさんをそこで追悼すると、次の刺客へと走り出していた。



 残りの二人は庭園奥にいたはずなのに、私が敵を倒している間にバラバラに行動を始めたのだ。

 きっと、敵は私一人だとバレたのだろう。


 このままだと、一人取りこぼしてしまう!

 私は咄嗟に近い方へと近づき、風を放つ。

 しかし男はそれを交わすと一直線に私に向かってきた。


「観察させてもらったおかげで、こちらも見えてるんだよ!!」

「くっ!」


 顔を背けて避けた私の横を、銀のナイフが通過する。

 相手に私が見えている以上、下手なことはできない!


「おいおい、なんでメイドさんがそんな俊敏なんだよ!?」

「それはもちろん、私がメイドじゃないからよ!」


 相手がメイドと勘違いしたのは、私が昼と同じ格好をしていたのだから当たり前だ。

 そしてその間にもう一人が感知出来なくなった事で、そいつが王宮内に侵入したのがわかってしまった。

 私は焦る気持ちを抑えて目の前の男を睨みつける。


 こいつは私を引き止める役割をするために、呑気に話しかけてきたのだ。

 だけど私を舐めて貰っては困る。

 


 ─── 悪いけど、速攻終わらせてもらうわ!

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