第49話 真実を知りたい!
とても心配をかけたのだろう。
私を見つけたロイさんは全く離れようとせずに、あろう事か私を持ち上げ端の方に移動した。
訳がわからない私は足をばたつかせる。
「あ、あの恥ずかしいのですが!?」
「しっ、静かにして下さい。……あと10秒程でこちらに敵が来ます」
そう言われ、私はロイさんが来た道を見た。
確かにそこには三人程柄の悪そうな男が歩いている。
もう私達のことが見えているはずなのに、いまだにキョロキョロと探しながら走っている。
「少し狭いですが我慢してくださいね」
そう言うとロイさんは私をマントの中に匿った。
それはつまりロイさんとの距離はゼロ距離なわけで、必然的に身体が密着してしまう。
今の私は貴族令嬢じゃないし、騎士だしそれに今はロイさんの弟役だから……た、多分きっとセーフ!!
ロイさんのから香ってくる薔薇の香水に、これが現実であると実感してしまい何故かクラクラする。
これが緊張からくるドキドキなのか、ロイさんにドキドキしているのかわからない。
それでもなんとか私の意識を男達の方に向ける。
確かにマントの中で見えはしないが、声だけはしっかりと私の耳に聞こえてきていた。
「おかしいぜ!音がしたはずなのに誰ももいねぇ……」
「くそっ!ここも樽置き場かよ」
ん???????
男達の呟きに私はハテナをいっぱいはやしていた事だろう。
何故なら、男達の目の前には私達がいるはずだし、そもそもここには樽なんて一切置いてない。
男達の目には一体何が見えているのだろうか?
「おいおい。音の原因はこの猫じゃねぇか?」
「なにいってる猫なんてどうでもいいだろう……っってうわ!!」
「なんなんだ!くそっ、猫が樽を崩して去って行きやがった……」
「こんなに探しても、人っ子一人いやしねぇ……きっとさっきのも猫の仕業に違いねぇな」
「はー、馬鹿らしくなってきた。早く戻って報告するぞ!」
そう言うと男達は走り去ったのか、足音が遠ざかる音だけが小道に響いていた。
そして暫く経った頃に、私を探している声も聞こえなくなっていた。
きっとさっきの男達が、あの貴族に報告しにいったのだろう。
それを確認したロイさんは、私をマントの中から出してくれた。
「息苦しくありませんでしたか?」
「いえ、あのロイさん……」
実は私の事、女性と思ってないんじゃないですか?と、聞きたかったが今はそんな事聞いている場合ではない。
「さっきのはどういう?」
「ああ、あれは幻術ですよ」
げ、幻術!?まさかのロイさんは幻術使い!?
幻術使いといえば国で五人ぐらいしかいないと言う、希少な存在だ。
ロイさんが出世頭なのはこれで納得がいく。
「生きている間に幻術使いに出会えるなんて……!!ロイさんは噂通り本当に凄いのですね!」
「いや、幻術と言っても俺のは自分の周りにしか使う事が出来ませんし、とても近くで見るとバレてしまうようなものなのです」
「そうなのですか?」
「先ほどのも猫が樽を崩すと言う幻術を見せる事で、此方に近づいて来れない様にしたのですが……何故彼らはそれで完全に引いたのでしょう?」
「あ、あははは。何故でしょうね?」
実は私が全く同じ様に樽を倒したからとは言えない。
でも聞いた話をそのままロイさんに話すわけにもいかないし、もし話してしまえばロイさんを巻き込む事になってしまう。
でも一つだけ気になる事があった。
「ロイさん。ロイさんはこれのこと知っていたのですよね?」
クシャクシャになった紙をロイさんの前に出す。
それを見たロイさんは、驚くどころか何故か笑顔になっていた。
「良かった。クレア様、気がついたのですね」
「良かったって言うのはどういう事ですか?」
「クレア様は知らないかもしれませんが、クレア様の周りの方々は何故かクレア様にこれがバレないよう、行動をされています。知っていましたか?」
その事実に私は思い当たるところがあり、顔をしかめる。
お父様が話しかけてこないのは、お家の事情だと思っていたけど、本当は私にこれを隠す為だったのだと……。
それに思い返せば今までの事は、全部私の周りで起きている。あれは事件ではなく私を殺す為のものだったのだ。
「俺はどうしても貴女に知っていて欲しかった」
「どうして、ですか?」
「クレア様が傷ついてしまうのはわかっていましたが、それよりも貴女に死んで欲しくなかった」
そう言うロイさんの顔は憂いを帯びていて、私はその顔に目が惹きつけられていた。
憂い顔が美しと思うなんて失礼かもしれない。でもどうしても目が離せないのだ。
気がついたときにはロイさんが目の前に跪いており、私の手を取っていた。
「俺は我儘なのです。貴女を失う事が何よりも怖い。だから、貴女に生き延びて貰うためにどうしても知って欲しかった」
「……知っていても、殺されるかもしれないですよ?」
「知らないよりか、知っている方がクレア様は足掻いてくれるでしょう?何をするかわからない。これがクレア様の良いところです。それが例え周りに迷惑がかかるとしても、俺はクレア様に生き延びて欲しいのです」
その言葉に褒められたのか、馬鹿にされたのか少し悩んでしまった。
そんな動揺している間に、手に何かが押し当てられた。
「ろ、ロイさん!?」
それを見てしまい、私は仰天した。
私の指先にはロイさんの唇が押し当てられていた。
その瞬間私の意識は一瞬途切れ、唇から魔力の暖かな流れを感じ取ることしかできなかったのだ。
通常騎士の忠誠は、手の甲におでこを当てるという行為を示す。
そして指先にキスを落とすという行為は、『一生の忠誠をあなたに無償で与え続けます』という重い忠誠の為、最近ではあまりする人がいない古い慣しと言える。
なによりこの忠誠を成立させる為には、相手に魔力を流す事を必要とするため、それを行う事が出来ないものが殆どである。
因みに私には魔力を流す方法がわからなかったりする。
その為、現在では国王陛下に対してのみ見様見真似でしか行う事がなく、本気でその重い忠誠を誓う人は居ないのではないだろうかと思う。
そして何よりこれが厄介なのは……。
そう思いつつ、徐々に意識が戻ってきたのがわかる。そして気がついたときには、私とロイさんの周りは白い光で包まれた。
もう既に手遅れ!と、私は焦ってロイさんから手を離す。
「ロイさんはわかっているんですか!?この忠誠は魔法での誓約となる為、ロイさんは私を裏切る事が出来なくなるんですよ!!」
魔法の誓約は破ると何が起こるかわからない為、
最悪死に繋がるかもしれないのだ。
それなのに呑気に膝を払い、立ち上がるロイさんは笑顔で私を見る。
「勿論分かっています。それに俺は何が何でも貴女を裏切りません。なのでもし俺が裏切る言葉を言っていたとしたら、それは嘘になりますので覚えておいてくださいね」
「そんなあっさり……」
爽やかに言われたら返す言葉も見つからない。
「これで俺はクレア様、いえ……クレアさんの味方です。ですから先程、何があったか教えて貰えますよね?」
ニコリと微笑むこの男を見て、どうも私は押しが弱いなと思いつつ、ロイさんと別れてから何があったのか全て話す事になったのだ。
確かに味方がいた方が良いと言ったけれど、これで本当に良かったのだろうか……?
そう首を傾げつつ、夕陽が沈むのを遠くに見つめていたのだった。
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