『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』
この「要点編」では、これまでトピックごとに部分的に引用・紹介してきたフィルムアート社の創作系書籍を一冊ずつ、押さえておきたい「3つの要点」にフォーカスして改めて紹介していきます。
今回紹介するのはこちら。
書名:テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す
著者:K.M.ワイランド
発売日:発売日:2021年12月27日|A5判|264頁|本体:2,200円+税|ISBN 978-4-8459-2111-9
本書を読み解くキーワード:テーマ、キャラクターアーク、対立・葛藤、サブテキスト
レベル:初心者 ★★★☆☆ 上級者
フィルムアート社刊行の創作系書籍の中で、最も評価されているシリーズのうちのひとつがK.M.ワイランドによる一連の著作です。現時点でフィルムアート社から以下の5点が刊行されています。
画像はhttps://www.kmweiland.com/about-k-m-weiland/より引用
K.M. ワイランド (K.M.Weiland)
アメリカ合衆国ネブラスカ州出身。インディペンデント・パブリッシャー・ブック・アワードを受賞する他アメリカ国内でその実績が高く評価されている。『アウトラインから書く小説再入門』『ストラクチャーから書く小説再入門』『キャラクターからつくる物語創作再入門』『〈穴埋め式〉アウトラインから書く小説執筆ワークブック』『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』(以上フィルムアート社)など創作指南書を多数刊行。また作家としてディーゼルパンク・アドベンチャー小説『Storming』や、中世歴史小説『Behold the Dawn』、ファンタジー小説『Dreamlander』等、ジャンルを問わず多彩な作品を発表している。ウェブサイト「Helping Writers Become Authors」やSNSでも情報を発信中。
『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』
『〈穴埋め式〉アウトラインから書く小説執筆ワークブック』
『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』
『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』
K.M.ワイランドの創作本の大きな特徴は、小説執筆に関するさまざまなトピック(「アウトライン」「ストラクチャー」「キャラクター」「テーマ」)を一冊丸ごと使って徹底的に掘り下げている点にあります。多くの創作本が創作に関するいろいろなトピックをひととおり網羅している「網羅型」であるのに対し、K.M.ワイランドの創作本はいわば「特化型」といえます。特化している分、そのトピックについて多くの事例を交えながら非常にわかりやすく詳細な解説がなされています。
また、K.M.ワイランドの著作は、それぞれが相互補完的につながっているのも特徴のひとつです。ぜひすべての著作に目を通してみてください。
今回は「テーマ」について特化した一冊『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』の要点を3つにまとめました。
テーマは物語創作における大変重要なトピックであるにも関わらず、創作系の書籍ではごくわずかに言及されるに過ぎません。なぜなのでしょうか? それは、テーマの創作法について語ることの難しさにあります。構成やキャラクターと違ってテーマはとても抽象的です。したがって、テーマについては「まあ、それは自然に表れてくるから」と曖昧な態度で済まされがちです。
しかし、テーマが物語のなかでどのような機能を果たすのか、
本書を読んで、「うまくテーマが表れますように」と神頼みをする日々と決別しましょう。
■要点その①:ストーリーの三大要素(テーマ=キャラクター=プロット)の関係がわかる
本書でまず押さえておくべきポイントは、ストーリーの三大要素として、「テーマ」「キャラクター」「プロット」の3つを挙げているということです。K.M.ワイランドは、プロの作家として、この三大要素の重要性を繰り返し強調しています。そして、それぞれの要素について一冊ずつ本を書いています。
テーマ:『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』(本書)
キャラクター:『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
プロット:『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』
この三大要素はバラバラに存在しているのではなく「三位一体」となって、物語をつくっています。本書から引用してみましょう。
「鳥が先か、卵が先か」と問うように、書き手はプロットとキャラクターとを天秤にかけようとします。
どちらを先に考えるべき? どちらが大切? どちらが真の名作の証?
どれも見当違いの議論です。
そもそも、正解などありません。一つはキャラクター主導で描く技法、もう一つはプロット主導で描く技法というだけで、どちらも正当です。それよりも重要な点は、「キャラクターかプロットか」という思考では、全体を俯瞰した時に見えるはずの「三位一体」を見失いがちになること。三角形の頂点にあるテーマは、おぼろげな存在のようでいて、パワフルです。
(略)
プロットとキャラクターとテーマは、ばらばらには存在していません。むしろ、ばらばらでは発展など不可能です。ストーリー全体を俯瞰すれば、これらの三大要素が一体となって共生していることがわかるでしょう。
(略)
全体を俯瞰して、プロットとキャラクターとテーマの三者を眺めることに慣れてくれば、どれか一つを練っている時も、三者を分けて考えるのが逆に難しくなるでしょう。
ストーリーテラーの最終的な目的は、一枚の大きな絵のような作品を読者に提示することです。そのためには、頭の中でその絵を分解し、どんなパーツがあるかを把握することが重要でしょう。それだけでも「テーマとは曖昧なものだ」という印象は消えるはずです。ストーリーを作る大きなピースと、そうでないものとが見分けられたら、三者の相互関係がわかりやすくなります。
――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
この三大要素は相互に密接につながっていて、円を循環するかのような構造になっていると本書は説いています。次のようなイメージです。
相互につながっているということは、プロットからテーマが生まれたり、キャラクターからテーマが生まれたり、あるいはその逆のパターンもあるということを意味します。一般的に、物語を書く際にテーマから作り始めるという人はあまりいません。やはり、プロットやキャラクターから書き始める人が多いのではないでしょうか。しかし、三大要素が相互につながっているということを知っていれば、プロットやキャラクターを起点にテーマをつくることができます。
本書では、「キャラクターを使ってテーマを作る(もしくは、その逆)」「テーマをプロットで立証する」という目次からも分かるように、テーマとキャラクター、プロットとの関係に注目しながら、テーマの作り方についてやさしく解説しています。
テーマは次のように定義されます。
テーマとは統一性をもたらす着想や題材。パターンの繰り返しの中で探求され、比較や対比によって範囲が広がる。
注目すべきは「統一性」という言葉です。「統一」つまり「まとまり」のことです。テーマはストーリーに「まとまり」をもたらします。
まとまりとは論理性。まとまりとは秩序。不要なものを切り捨てて、必要なものを見出すこと。ストーリーに出てくるすべてのものに理由がある時に生まれるもの。ストーリーのパーツはみな、全体のまとまりの中に属しています。すべてが一体となるかのようにして、同じ目的へ向かうのです。
(略)
しかし、忘れてはならないのは、プロットもペースも、キャラクターもテーマも「まとまり」の上に成り立つということです。それぞれを作って器用に書くことはできるでしょう。でも、全体のまとまりを意識しなければ、ストーリーはぐらつき、ばらばらのままです。
まとまりがなくても、せめてそれぞれの要素だけでもうまく揃える方がマシと言えばマシです。でも、素晴らしい要素を揃え、素晴らしい全体にまとめ上げる方が、どれほどいいでしょう。
(略)
まとまりと共鳴があるフィクションとは、テーマがあるフィクションです。プロットやキャラクターについて考えながら、また、推敲しながら、それを思い出して下さい。まとまりと共鳴が生まれたら、それは本当の意味で奇跡的な作品が書けたということ。本当の意味で、テーマがある作品が描けたということです。
――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
では、テーマにはいったいどのような種類があるのでしょうか。本書では「物語のテーマとなる原理」の例をいくつか紹介しています。
テーマを最も単純に表すには、その原理を一語、あるいは一文で掲げます。どちらにしても、それはストーリーの「まとめ」であり、あなたがストーリーを通して模索したい、普遍的な「真実」です。
この「真実」には、次のように、いろいろな形があります。
・人々の間で広く共通する考え(例:「戦争は悪だ」)を立証しようとするか、広く受容されている考えの否定を試みる(例:「戦争は必要悪だ」)。
・人間の存在を深く問う(例:「我々はなぜ存在するか?」)。または、潜在的な価値観について考える(例:「愛は何よりも大切だ」)。
・暗黙のうちに、または明確に答えを示す(例:「愛はすべてに勝つ」)。あるいは、ただ問いを提示する(例:「愛はすべてに勝つか?」)。
・倫理的なジレンマに焦点を当てる(例:「自分を守るためなら他人を犠牲にしてもよいか」)。または、特定のパターンだけに焦点を当てる(例:「スラム街の生活」)。
・意見を述べる(例:「ナチスは非人道的だった」)。あるいは、観察に徹する(例:「ホロコーストでの出来事」)。
・崇高な真実(例:「人生は素晴らしい」)、または平凡な真実を示す(例:「高校は大変だ」)。
・楽観的(例:「人生は素晴らしい」)、または悲観的(例:「人間は身勝手だ」)な真実を示す。
――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
テーマの原理のバリエーションは上の例である程度カバーできるはずです。自分の作品のテーマがいったいどの「原理」に当てはまるのか、ぜひ考えてみてください。本書では、もし自分の書き上げた作品のテーマが見つからないという場合には、エンディングに注目するとよいと述べています。ストーリーの主張は必ずエンディングで表現されているはずです。エンディングを見て作品の主張が把握できたら、そこに至る筋道を振り返ってみてください。作品を通じてテーマを示す表現がなされているかを確認しましょう。
■要点その②:キャラクターを使ってテーマを作る(もしくは、その逆)
ストーリーの三大要素が互いにつながっていることが理解できれば、キャラクターからテーマをつくる、あるいはテーマからキャラクターをつくる、という表現にまったく違和感がなくなるはずです。ただし、本書でキャラクターと表現する場合、一般的にイメージする「キャラクター創作(例えばキャラクターの容姿や性格、年齢などの設定)」ではなく、「キャラクターアーク」のことを意味します。キャラクターアークについては、K.M.ワイランドの著書『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』に詳しいので、ぜひそちらをご一読ください。
ごく簡単に説明すると、キャラクターアークとは「キャラクター(主人公)がたどる変化の軌跡」のことを意味します。物語のなかで、主人公は変化します。物語の開始時点と終了時点で主人公の何かが変わっているはずです。その変化のことをキャラクターアークといいます。
ストーリーの三大要素について、本書は「テキスト」と「文脈(コンテキスト)」、「サブテキスト」という用語を使って次のように整理しています。
・テキスト:プロットで描く対立や衝突。ストーリーの中で最も視覚的な水準にある。
・文脈(コンテキスト):キャラクターアークに表れる内面の葛藤。ストーリーの精神的な水準にある。
・サブテキスト:テキストと文脈(コンテキスト)の重なり合う部分=テーマ。目に見えるような表現はなされない。
プロット、キャラクター、テーマの三大要素は相互に関わり合い、「テキスト」と「文脈(コンテキスト)」、そして「サブテキスト」を生み出します。
プロットで描く対立や衝突は、ストーリーの中で最も視覚的な水準にあります。これがテキストです。
キャラクターアークに表れる内面の葛藤は、ストーリーの精神的な水準にあります。これが文脈です。プロットの出来事について何かを語る、最初の層になります。キャラクターたちが、それぞれの心の葛藤を通して出来事を見ることで、異なった意味合いが表れます。
テキストと文脈をそれぞれ円の形にして並べ、近づけた時に重なる部分にテーマが宿ります。目に見えるような表現はなされず、言及もされないかもしれません。たとえ無言の状態でも、そこにサブテキストが生まれます。テキストと文脈の表現次第で、サブテキストはしっかりと意味を持ってそれらを支えたり、皮肉な意味を重ねたりします。
つまり、キャラクターとプロットを関わり合わせると、そこにテーマのサブテキストが生まれるということ。これは100パーセント、正しいです。でも、逆に考えると、テーマに注目をしてキャラクターを動かし、キャラクターアークを作り出すことも可能です。
キャラクターアークがきちんとできていれば、そこにはテーマも自然に表れています。キャラクターアークを考えることは、テーマについて考えることと同じだからです。
――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
テーマを使ってキャラクターアークを作るには、あるいはキャラクターアークを使ってテーマを見つけ、強化するにはどうすればよいのでしょうか? 本書では、次の5つの方法を紹介しています。
1.テーマの原理についての問い
2.内面の葛藤 その1:「噓」対「真実」
3.内面の葛藤 その2:「WANT」対「NEED」
4.内面の葛藤を二つの選択肢で表す
5.キャラクターの内面の変化とプロットの変化
それぞれについて、ごく簡単に紹介しましょう(詳しくはぜひ本書をご一読ください)。
1.テーマの原理についての問い
前述の「物語のテーマとなる原理」に注目します。もし、テーマの原理がすでに見つかっているのであれば、その原理に基づいてキャラクターの変化を描きます。見つかっていない場合は、キャラクターの変化(または、内面にある葛藤や矛盾に注目して)、テーマの原理を抽出しましょう。
《例:チャールズ・ディケンズ作『クリスマス・キャロル』の場合》
テーマとなる問い:「人の値打ちは何で決まるか?」
キャラクターアーク:物語の冒頭で守銭奴として描かれていたスクルージは、ラストで人間にとって大事なことは愛情や優しさ(=クリスマス精神)であることに気づく(変化する)
2.内面の葛藤 その1:「噓」対「真実」
テーマは「真実」を仮定して問いかけるものですが、物語の中では本当ではないこと(=「嘘」)も描かれます。「真実」と「嘘」をしっかりと設定することで、テーマが明確になります。「噓」を信じ込んでいた主人公が「真実」へと気づく、この変化の過程がキャラクターアークです。
《例:チャールズ・ディケンズ作『クリスマス・キャロル』の場合》
嘘:人の値打ちはお金で決まる
真実:人の値打ちは慈善心と友愛で決まる
3.内面の葛藤 その2:「WANT」対「NEED」
「噓」と「真実」のままでは、まだまだ抽象的なので、テーマを具体的なプロットで表現するために、「噓」と「真実」の戦いを、主人公の「WANT」と「NEED」に置き換えます。
WANT:「噓」が生み出す。主人公が追い求めるもの。プロットの目的地。
NEED:常に「真実」。主人公が本当に必要としているもの。テーマの価値観に直結。
→ストーリーで描く「真実」は、主人公が究極的に必要としているNEEDでもある。
《例:チャールズ・ディケンズ作『クリスマス・キャロル』の場合》
WANT:「お金儲けがしたい」という思い
NEED:人々を思いやり、愛すること
WANTとNEED、「噓」と「真実」を緻密に扱えるようになれば、テーマの議論にも、プロットとキャラクターにも、豊かなニュアンスが出せるでしょう。
4.内面の葛藤を二つの選択肢で表す
キャラクターが最後にWANTとNEEDのどちらを選ぶかで、テーマの「噓」と「真実」どちらを立証するかが暗喩として表現されます。二人の人物や二つの物事、二つのあり方の間で厳しい選択に迫られる姿を「描写」すれば、読者に「このストーリーの教訓」をわざわざ書いて教える必要はなくなります。
この二者択一は、簡単なものであってはいけません。どちらが「正しい」選択で、どちらが「間違った」選択かがはっきりしていれば、テーマの議論は不可能です。簡単に正しい方が選べるなら、内面の葛藤などしなくて済みます。
ですから、「噓」と「真実」の間で激しい議論をさせるべきです。「殺人は悪い」という「真実」に対して、単純に「殺人はよいことだ」という「噓」をぶつけても議論は起きません。でも、書き手が複雑な「噓」を設定したらどうでしょう。たとえば、弁護士がサイコパスの無罪を心から信じて弁護をするなら、法廷で興味深い議論が起こせます。
――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
《例:チャールズ・ディケンズ作『クリスマス・キャロル』の場合》
スクルージはそれまでの過ちを認めるか、そのまま墓場に行くかの選択に迫られる。
5.キャラクターの内面の変化とプロットの変化
テーマとキャラクターが調和しているかどうかを確かめるには、「ストーリーの中で変化を遂げるものに注目する」ようにしてください。そもそも変化がないという場合はストーリーに根本的な問題があります。また、その変化がテーマとは無関係の変化の場合も問題です。
《例:チャールズ・ディケンズ作『クリスマス・キャロル』の場合》
スクルージは物語の始めでは守銭奴だったが、最後には悔い改め、朗らかで慈愛に満ちた人間に変わる。
以上、テーマからキャラクター(アーク)を描く方法、またはその変化からテーマを抽出する方法について簡単に解説しました。「嘘」=WANTと「真実」=NEED、というキーワードを手掛かりにぜひ実践してみてください。
■要点その③:テーマをプロットで立証する
2つ目の要点として「テーマとキャラクター」について解説しました。3つ目の要点は「テーマとプロット」です。本書によれば「プロットとテーマはまったく同じものではありませんが、分離してもいません」。具体例としてジェーン・オースティンの『高慢と偏見』が挙げられています。次の一文が、プロットなのかテーマなのか言い当てることができるでしょうか。
◎貧しい女性と裕福な男性が、身分の違いを超えて惹かれ合う。
答えは「プロット」です。「外に表れるアクション」の有無に注目してください。アクションが表現されていればプロットです。上の文章では「惹かれ合う」の部分がアクションに該当します。アクションはキャラクターたちの世界で起きる具体的な出来事です。いっぽう、テーマは抽象的な議論(倫理観や存在を問う)であり、現実についての真実を示します。
『高慢と偏見』の事例で、プロットとテーマを一体化すると次のようになります。
◎貧しい女性と裕福な男性は、相手に対する高プライド慢や偏見を克服すれば恋ができる。
プロット(=アクション)を通してテーマの議論(「高慢も偏見も、大切な人間関係を妨げる」)が立証(または反証)できます。プロットで描く出来事や行動に対して、テーマは理由を与えます。つまり、プロットで描くことがテーマなのです。片方を言い表すには、もう片方を匂わせないと難しいと思えるぐらい、緻密に結びついているものなのです(たとえ書き手が意図していなくても)。
作家にとってプロットとテーマの調和は非常に重要です。そのためには技術が不可欠ですが、技術を用いるには、意識的な気づきが必要です。テーマとプロットの組み合わせが適切かどうかを確認するための自己診断ツールとして、本書では5つの質問が用意されています。質問だけ箇条書きで列挙します(それぞれの質問の内容についてはぜひ本書でご確認ください)。
1.なぜ、そのプロットか? なぜ、そのテーマか?
2.そのプロットは、テーマを立証するキャラクターアークに合っているか?
3.プロットで描く対立や衝突は、キャラクターの内面の葛藤の暗喩にできるか?
4.プロットの変化は、キャラクターの内面の変化をどのように促すか?
5.一つひとつのシーンについて、テーマの一貫性を確認したか?
プロットとテーマを調和させるテクニックのひとつとして、本書では「敵対勢力」について詳しく解説しています。プロットには「対立や葛藤」が必要です。主人公の行く手を阻むもの(人間とは限りません)、それが敵対勢力です。ストーリーを成功させるには、テーマを一貫して表す敵対者が不可欠です。ストーリー全体の成功の基盤を作るのは、主人公ではなく敵対者です。なぜなら、対立関係をテーマに結びつけるのは敵対者だからです。
石を打ちつけて火花をおこすかのように、敵対者と主人公はぶつかります。主人公は心のままに運命を生き、突き進もうとしますが、敵対者は道を譲りません。互いが無関係だと、きっと面白くないでしょう。でも、二人が揃えば何かが起きます。ストーリーが進み出す契機となる事件、「インサイティング・イベント(インサイティング・インシデント)」〔物語のメインの対立や衝突を招く「きっかけとなる出来事」とも呼ばれる〕の勃発です。
しかし、それは悪人対善人というような単純なものではいけません。主人公に対して、誰かがたまたま反対するというのも、いまひとつです(反対者がいないよりは、はるかによいですが)。もう一点、気をつけたいのは、悪い面の描写とのバランスをとるために、悪人の良い面を描く時です。それが目立つあまりに主人公を霞ませてしまっている作品が、最近多いように思います。敵がダークなヒーローへと変化する流れも悪くはありませんが、ストーリーのまとまりや、観客の感情移入を損なわないようにしたいものです。
主人公にふさわしい敵対者を描くには、最初から調和させる以外にありません。その調和はテーマから生まれます。テーマに合わせて主人公を選ぶように、敵対者も慎重に選び、作り込んで下さい。
――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
敵対勢力の種類には次のようなパターンがあります。
1.主人公対社会
2.主人公対自然(例:ハリケーンや砂漠)
3.主人公対自己
4.主人公対主人公(敵対者も主人公となるケース)
5.主人公対敵対者(もっともオーソドックスな組み合わせ)
敵対勢力をつかってテーマをしっかりと描くためには、「主人公と敵対者の関係(つながり)」に注意する必要があります。本書では、敵対者を主人公と結びつけ、テーマとメインコンフリクトにも一貫した関連性を持たせる5つの方法が紹介されています。
1.ポジティブなつながりが主人公と敵対者との間に存在する(例:よき友人同士でありながら敵対する)
2.ネガティブなつながりが主人公と敵対者との間に存在する(例:知らない者同士の主人公と敵対者が、互いの目的が衝突して、初めて相手の存在に気づく)
3.敵対者が主人公に対してネガティブな感情を持つ(例:敵対者が被害者意識を抱いて主人公を狙う)
4.敵対者が主人公を鏡のように映し出す(例:悪者の中に自分と同じものを見つけ、自己の存在を深く問う)
5.主人公と敵対者が思想的に対立する
主人公についてのストーリーではなく、主人公と敵対者の(二人の関係の)ストーリーを作って下さい。そうすることで、対立関係にリアリティのある流れが生まれ、プロットの要所でテーマをしっかりと表現できるでしょう。
敵対者はテーマの歯車の中心であり、対外的な衝突の原動力です。それは、主人公の内面の葛藤を暗喩として表す存在だということ。ですから、敵対者自身のあり方と、敵対者が引き起こす衝突は、必ずテーマに直結しているはずです。
どのキャラクターも何らかの形でテーマを表すべきですが、メインの敵対者にはストレートにテーマの主張をさせて下さい。それ以外の「噓」や「真実」を追わせたり、テーマを何も表さないところを見せたりすると議論が空転し、主人公のアークからテーマが欠け落ちてしまいます。
敵対者が正面から対決を挑まなければ、テーマに従う必要すらなくなります。ストーリーの力も乏しくなり、主人公が何を見出したとしても、敵対者の主張に打ち勝つこととは結びつきません。
――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
今回は、『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』を3つの要点で解説してきました。「テーマ」単体だと、あまりに抽象的過ぎるため、なかなかとっつきにくいイメージがありますが「テーマはストーリーにまとまりをもたらす」という機能的な側面に注目し、プロットやキャラクター(アーク)とのつながりに意識的になることで、テーマも構築することができるということが分かっていただけるはずです。ぜひ本書をご一読ください。
【目次】
イントロダクション テーマ=キャラクター=プロット
第1章 テーマとなる原理を見つける
物語のテーマとなる原理とは?
テーマとなる原理の見つけ方
暗喩としてのテーマの力
テーマを暗喩で表すための三つの質問
第2章 キャラクターを使ってテーマを作る(もしくは、その逆)
1.テーマの原理についての問い
2.内面の葛藤――その1:「噓」対「真実」
3.内面の葛藤――その2:「WANT」対「NEED」
4.内面の葛藤を二つの選択肢で表す
5.キャラクターの内面の変化とプロットの変化
テーマに沿った主人公を選ぶ
第3章 テーマをプロットで立証する
プロットは必ずテーマに関連させる
敵対勢力は主人公のテーマの主張に挑戦する
敵対勢力の種類
敵対者が主人公とつながるべき理由
三つのアークとテーマから敵対者を考える
ストーリーの中で敵対者が満たすべき四つの条件
第4章 脇役を使ってテーマを発展させる
脇役はどのようにテーマを表すか
脇役とテーマを磨く
脇役を使ってテーマを複雑に表現する
脇役を使って主人公を豊かに表現する
第5章 テーマとメッセージを区分化する
テーマとメッセージの違い
テーマに合うメッセージの見つけ方
複雑な倫理を問うには
第6章 サブテキストを深める
サブテキストの謎を解く五つのステップ
キャラクターのサブテキストを深める
セリフのサブテキストを深める
第7章 シンボリズムで意味を表現する
シンボリズムのタイプ1 小さなディテール
シンボリズムのタイプ2 モチーフ
シンボリズムのタイプ3 暗喩(メタファー)
シンボリズムのタイプ4 普遍的なシンボル
シンボリズムのタイプ5 隠れたシンボル
第8章 物語に最適のテーマを設定する
独自性のあるテーマの書き方
力強いテーマには「正直さ」が大切
第9章 初稿でテーマを描く
1.プロットとキャラクターとテーマの編み合わせ
2.主人公の目的と敵対者の目的の編み合わせ
3.主観と時間軸とプロットポイントの編み合わせ
「真実チャート」でテーマを把握する
すべての章でプロットとキャラクターとテーマを編み合わせる
第10章 読まずにはいられないストーリーを作る
表面上は何について描いているか
本質的には何について描いているか
優れたストーリーの五つの秘密(忘れやすいこと)
「重みがある」フィクションの書き方
テーマを使ってまとまりと共鳴を生む
付録 五つの主要なキャラクターアーク
すべてのアークに共通の六つの材料
ヒーロー的な二つのアーク
ネガティブな変化のアーク(三種類)
参考文献
訳者あとがき
【お知らせ】
物語やキャラクター創作に役立つ本
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