面倒なことが嫌いな人へ
さて、いきなりですが、こんな言葉があることをご存じでしょうか。
「プロッター」と「パンツァー」
定期的にSNSでも話題になっているので、ご存じの方もいるかもしれませんが改めてご説明します。
作家は2つのカテゴリーに大別できます。アウトライン派と非アウトライン派、あるいは執筆前にプロットを作る「プロッター」と、作らない「PANTSER(パンツァー)」。パンツァーとは「計画を立てず、勘を頼りに作業する=SEAT OF PANTS」というイディオムからきています。
――『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』より
あらゆる創作活動と同様に、小説の書き方にも絶対的に正しい方法は存在しません。性格やライフスタイル、作業の進め方は人それぞれ異なります。
ですから、「作家はパンツァー(直感派)でなければならない」とか、「プロッター(計画派)でなければ良い小説は書けない」といった決めつけをするつもりはありません。それぞれが、自分にとって最適だと思う方法で小説を書くことが大切だと思います。
ただし、もし現在のやり方でうまくいっていないと感じているのであれば、別の方法を試してみるのも良いかもしれません。
サスペンスの女王として知られ、『太陽がいっぱい』や『見知らぬ乗客』で世界的に名を馳せたパトリシア・ハイスミスは、次のようなアドバイスをしています。
駆け出しの作家であれば、章ごとにアウトラインを作ってみるのは(各章のメモは簡潔なものだとしても)大変良いことだと思う。若い作家の方がいっそう道を逸れがちだからである。
――『サスペンス小説の書き方 パトリシア・ハイスミスの創作講座』
本連載は、基本的に「計画を立てず、勘を頼りに作業する=パンツァー」ではないやり方で小説を書くことを前提にしています。
もし、みなさんがこれまで「パンツァー」として小説を書いてきたのであれば、これを機会に一度「プロッター」的な方法論を試してみてはいかがでしょうか。
それでも「パンツァー」として小説を書きたいという人はもちろんそれでOKです。
『工学的ストーリー創作入門』という本には、「パンツァー」としてうまくいく人の3つの条件が紹介されています。ちなみに、パンツァー代表の小説家として有名なのが、かのスティーヴン・キングです。
(スティーヴン・)キングの方法は「パンツィング(seat-of-the-pants =経験と勘を頼りにする、即興で行う)」と呼ばれ、次の三つの条件を満たす人だけがうまくいく。
(a)ストーリーの計画を練らなくても内容がつかめている
(b)理想的な構成が自然にわかっており、何が必要か勘でわかる
(c)即興で書いた原稿を直して仕上げる意志がある。
大多数の新人がこの方法で苦労しているのだ。驚くことに、ベテランも多数いる。「続きが思いつかなくて」と原稿用紙を何度も破り捨てるのが自慢な人もいる。
プロのゴルフ選手がそんな方法を勧めるだろうか。「とにかくクラブを持って振れ。いつかわかるさ。フォームを知らなくたって三百ヤード飛ばせたらプロになれるぜ」と。
実践重視のアプローチと言えるだろう。
僕らは今、「プロ」の選手になる方法を考えているはずだ。プロの書き手になって著書を出版する方法だ。
フォームを知らずに頑張り続けてきた人は、もう悲しい現実に気づいているかもしれない。それでも「これが自分の書き方だから、他の方法は無理」と言い続ける。
道を選び、運命を選ぶのは自分だ。
――『工学的ストーリー創作入門 売れる物語を書くために必要な6つの要素』
さらに別の本では、こんなことが書かれています。
書くうえで最善の方法は、机の前に座り、頭をクリアにして、パンツの尻の部分で書く、つまり直感で書くことだと信じている作家の一派がいる〔英語の慣用句"by the seat of one's pants" は「直感によって状況を切り抜ける」の意〕。つまりこれが"パンツィング"である(もちろん、"パンツィング"にはズボンを脱がせるという意味があることはわかっている。あくまで執筆の世界の用語だ)。一部のグループでは、これが書くためにいちばん確実なやりかたとされてきた。これが魅力的に響くのは、簡単そうで、率直で、純粋なやりかたに見えるからだ。思いきってやってみればいい! とにかく、語ることを運命づけられている物語を"発見する"途上で、すべてをぶちまけていけばいい。書きはじめる前に自分の物語について知るなどということは、創造性を殺し、霊感の源をわずらわせるだけなので嫌がられる。(中略)
作家的な解釈をすれば、やみくもに書けば物語は魔法のようにやってくる、ということだ。だが、その結果、作家と読者の双方の驚きは、たいてい同じになるだろう。「うーん、この物語は面白そうだと思ったんだけど。くだらなかったな」という失望の驚きだ。
――『ストーリー・ジーニアス 脳を刺激し、心に響かせる物語の創り方』
さて、この連載ではパンツァー的な執筆方法とは少し距離を取り、計画を立てて小説を書く方法を紹介していきます。
前回も強調したように、ストーリーには普遍的な「型」が存在します。良い小説を書くためには、その「型」を理解し、それに基づいた計画を立てることが必要です。
ストーリーの「型」と聞いて、次のような単語を思い浮かべた方もいるのではないでしょうか。
「起承転結」「序破急」「三幕構成」「ビートシート」「英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)」
これらの単語をすべて知っている方は、すでにストーリーにおける「型」の有効性について、ある程度の知識をお持ちだと思います。これらは、ストーリーの「構成」を説明する際によく使われるものです。
しかし、ストーリーにおける「型」は、必ずしも「構成」だけに限定されるわけではありません。例えば、前述の『工学的ストーリー創作入門』という本では、ストーリーに不可欠な要素(コア要素)として以下の6つを挙げています。
① コンセプト
② 人物
③ テーマ
④ 構成
⑤ シーンの展開
⑥ 文体
「構成」はあくまで、ストーリーの要素のひとつに過ぎません。「テーマ」や「キャラクター」をないがしろにした小説が面白いわけがありません。
さて、繰り返し登場している「型」。
小説の執筆に「型」を取り入れることに対して、抵抗を感じる方もいるのではないでしょうか。
たとえば、小説を書くという行為は非常にクリエイティブで創造性が求められるものだから、「型にはめる」ような方法は良くないのではないか、という意見。
あるいは、事前にいろいろと準備が必要で、面倒そうだな、という意見。
こうした意見はもちろん尊重されるべきです。そして、パンツァー的な執筆方法(直感的・即興的な方法)でうまくいっている人であれば、その方法を捨ててまで「型」を学ぶ必要はないでしょう。
『ストラクチャーから書く小説再入門』は、その名のとおり、ストーリーにおける「
やや長くなりますが、非常に重要なポイントですので、ここで引用してみたいと思います。
◆どんな創作にも構成は必要です。
ダンスや絵画、歌など、あらゆる創作は構成の上に成り立っています。小説も同じ。ひらめきを作品化してよいものに仕上げるには、形式上の制約と、最大限の効果を上げる並べ方を知らねばなりません。
◆構成を立てて書いても独創性は失なわれません。
「型にはめたら個性が出せなくなる」と恐れる書き手は少なくありません。ここまで進んでここで止まる、という枠に合わせたら、誰が書いても同じ本になるんじゃないかと。それは誤解です。構成は作品を形づくるのに必要な枠を与えてくれるだけ。その枠を使って物語が成立するか確認し、自信と確信を持って創作ができるようになります。
◆構成は「決めつけ」ではありません。
「型にはめたら誰が何を書いても同じになる」と恐れる書き手もいます。ならば、振付に従って踊るバレエも誰が踊ろうと同じでしょうか? 構成は表現というギフトを収める箱のようなもの。中身も様々ですし、包装で印象を大きく変えることもできます。
◆構成を見れば、必要事項のチェックができます。
私たちが指南書を読むのは、よいストーリーを書くポイントが知りたいから。構成は、そのポイントをずらりと簡潔に並べたもの。だとしたら重宝しますよね。
◆構成は創作能力を確かなものにします。
勘を頼りに実践していることが、なぜうまくいくかを再確認すれば理解が深まり、確かな技術として定着します。私は勘を頼りに小説を書いていましたが、構成を意識しながら読み返した時、必要とされる要素がほぼ全部書けていたことに驚いたものです。初めから原理を理解して執筆すれば、確信を持って狙いを定めることができます。
――『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』
いかがでしょうか。「型」は書き手の独創性や創造性を阻害するものではありません。その「型」の中で、いかに創造性を発揮できるかが大切なポイントです。
「型」は、よく旅における地図に例えられます。これから小説執筆という長い旅が始まるとき、何の計画も立てずに手ぶらで歩き始めるのは危険です。目的地はどこなのか、どのような手段やルートで向かうのか。これらを事前に決めておくことで、迷子になる確率を大きく減らせます。さらに、「型」を活用すると、計画を立てるだけでなく、間違いや修正すべきポイントが明確になるため、「すべて書き直し」という悲劇を回避することができます。
準備や計画を立てることは一見面倒に思えるかもしれませんが、「型」を理解しうまく活用することで、手間や作業を大幅に短縮できます。つまり、「面倒なことが嫌いな人」こそ、ストーリーの「型」を学ぶべきなのです。
締めくくりとして、あの新海誠監督も絶賛した脚本術『「感情」から書く脚本術』という本の中から文章を引用したいと思います。
最近気づいたのだが、三幕構成と聞くと、公式とかテンプレだと言う人がいる。しかし、構成だけ見るとどれも同じにみえても、その構成で語られた物語はどれも同じではない。私たちも2人として同じ人はいないが、骨格だけ見ると大体同じ作りだ。つまり、人体を作りたければ、まずどれも同じに見える骨格を作らなければならない。そうしなければ、人間には見えない何か別のものができあがってしまう。物語でも同じことだ。『アメリカン・ビューティー』と『E.T.』は、どこからどう眺めても違う物語だが、実は骨格は同じなのだ。
というわけで、構成と公式を混同しないこと。大事なのは、同じ骨組みを使って「何をするか」の方なのだ。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
「はじめに」では、本連載をはじめるにあたって、みなさんに事前に共有しておきたいことをいろいろとお話ししてきました。
「普遍的なストーリーの型」などと聞くと、ずいぶんと小難しい連載のような印象を受けるかもしれませんが、次回からはもう少し実践的で、書き手のみなさんに興味をもってもらえるような内容にしたいと思っています。
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