ストーリーの完成度を高める
本連載も今回でいよいよ最後となりました。
さて「推敲篇」のラストも『物語を書く人のための推敲入門』を参考に、ストーリーの推敲について解説します。
前回は本書収録の推敲の際にチェックすべき12項目(の自己評価シート)のうち①と②について解説しました。今回は③~⑧について解説したいと思います。(※⑨~⑫については、ぜひ本書をお買い上げのうえご確認ください)
では、順にみていきましょう。
③ドラマの緊張感(対立要素による衝突・葛藤)
この連載では、ストーリーにはコンフリクト(=葛藤・対立)が必要であると繰り返し述べてきました。あなたの物語の葛藤・対立は何なのでしょうか。もし葛藤・対立がないのであれば、ストーリーにおける主人公の目的は何なのかを改めて考えてみてください。その目的を阻むものが葛藤・対立です。主人公に欠けているもの、必要なものは何か? それを達成しようという主人公の行動を妨げるものは何か? 危機に瀕しているもの、守るべきものは何か?
創作作品の動力になるのは登場人物ではない。そうだという声もあるが、それではもっと深みのある真相などが見えてきたりしない。人物は重要だが、ストーリーのエネルギー源ではないのだ。
「葛藤・対立」がストーリーを盛り上げる。純文学以外のジャンルでは、葛藤・対立こそが登場人物の「源」だ。あなたが登場人物に与えなければいけないのは、困難・必要性・すべきこと・目的あること・守るべきもの、そして主人公の探求や道を阻もうとする敵対勢力(つまり悪役)である。こうしたクエスト要素がないと、ストーリーも日記風のエピソードが羅列された自伝のようなものになってしまう。さらに葛藤・対立がなければ、純文学も含めてあらゆるストーリーで最重要のポイントさえ落ちてしまう―ドラマ上の緊張感だ。
――『物語を書く人のための推敲入門』
④読者の疑似体験
ストーリー世界はまったくのジャンル依存である。自作ストーリーが現代の都市で展開されるのなら、地下鉄のトンネルから出てくるような感覚を読者が感じられるよう、細部のざらつきまで本物らしくその都市を描き込もう。実在の都市なら、生々しさが感じられるようその象徴的なランドマークや文化的な魅力を利用しよう。自作ストーリーが中世を舞台とするなら、ウマの悪臭や剣・甲冑のぶつかりあう音、薄暗い朝の森の空気をすり抜ける矢の音、息の荒い宿屋の主人や酔っ払った王侯貴族の酸い呼吸まで読者に経験させよう。苔むすぬかるみで戦闘中に血だまりができるさまを見せつけよう。自作ストーリーの舞台が近未来の新しい惑星に向かう船であるなら、ロケットエンジンの噴出音と宇宙空間にただよう静寂を取り入れるのだ。みんなを現場に連れて行けば、花火と恐怖と誘惑と陰謀が明らかになる瞬間にも、僕らは主人公の隣に立って、冒険のあらゆる瞬間の空気・臭い・感触を体験できる。
読者はまさにこんな体験がしたくてジャンル・ストーリーを手にする。歴史小説・西部劇・ファンタジー・SF、さらにはそうした設定を利用した生々しいミステリやスリラーが一般的だ。自作ストーリー世界の扉を開けて、うまくその体験を提供できているか確認してみよう。
――『物語を書く人のための推敲入門』
⑤求引力ある人物像
創作論の多くが、キャラクターの重要性を説いていますが、推敲の際に注意しておきたいポイントもまたキャラクターにあります。チェックポイントは、ストーリーと関係のないキャラクター描写があるかどうか、です。読者の共感や疑似体験が重要であることは間違いありませんが、だからといってキャラクターを過剰に描けばそれが達成できるというわけではありません。
構成のルール上、キャラクターの導入には決まった長さがあるのに、この書き手は長々と書きすぎたせいでこうなったのだ。小説の半分近くを費やして人物紹介をやらかし、トラック数台分の裏話をぶちまけたり、主人公が自分の子どもと遊ぶちょっとしたシーンを複数作ったり、関係ない過去の事件で悪党を殴り倒すところを見せたり、上司がいかにむかつく野郎なのか描いたり、主人公のパワーアップを見せるためにトレーニング室で身体を鍛えるシーンまで入れたりしてしまう。その書き手はどの場面も必要なんだと主張し、各場面のおかげで読者も共感・応援できる深みのある人物がかたちになるのだと言う。
――『物語を書く人のための推敲入門』
⑥読者の感情移入
ここまでの説明してきた論点(求引力あるコンセプトに圧倒的な前提、ドラマ上の緊張感や疑似体験、そして共感できる登場人物)は、すべて「読者の感情移入」を目的としています。推敲の際のポイントは「読者がどれくらい主人公に強く惹きつけられるか、その理由は何か」です。読者がどれくらい登場人物に引き込まれるかは、その登場人物がストーリー内で追い求めるもの(目的)にどれだけ感情が揺さぶられるかに大きく左右されることになります。
架空の人物の人生とその旅の記録、それから深く掘り下げた裏話をただ年代順に並べたところで、読者はへえと驚いたりするかもしれないが、まったく引き込まれないことはこれまでの話ではっきりしたことと思う。感情移入できても、一喜一憂するにはストーリーが軽すぎるわけだ。
ストーリーには追い求めるものや使命、つまり主人公のすべき何かが必要なのだ。何かを探す。何かを回避する。何かを打ち負かす。与えたりつかんだり。その探求には、読者が引き込まれるくらい心揺さぶられる大きな危機や守るべきものがなくてはならないし、その危機や守るべきものも、主人公や自分たちにとってどんな意味があるのかわかるようなものでなければならない。
――『物語を書く人のための推敲入門』
もし自作ストーリーが、登場人物をながめるだけの軽いプロットに偏って、心惹きつけるものがないような場合は次の手直しをしてみてください。
・危機や守るべきものの規模を大きくする
・登場人物に感情移入しやすくする:主人公に人間くさいところや、ついついしてしまうこと、または弱みなどを付け加えてみる
・悪役をもっと凶悪にする
・もっと緊迫感を高めて、障害を不穏なものにする:主人公が成し遂げるべきことに時間制限をもうけてみる
なお『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』には、「読者の感情を揺さぶる」ためのテクニックが豊富に詰まっており、このポイントでつまづいているという方にはオススメです。
⑦テーマの重み・妥当性・共鳴
テーマとは、ストーリーと現実とのあいだをはっきりとつなぐものとして重要な役割を果たします。最初からテーマを設定して物語を書き始める必要はありません。テーマとはストーリーのなかから浮かび上がってくるものです。テーマなどなくてもよい、という意見もありますが、テーマはプロットやキャラクターなどと非常に密接な関係があり、ないがしろにしてはいけないものです。
K.M.ワイランドは、テーマ、プロット(構成)、キャラクターをストーリーの「三大要素」であるとし、著書『テーマからつくる物語創作再入門』でストーリーにおけるテーマの重要性を説いています。テーマとはそもそも何なのか? テーマを設定するにはどうしたらよいか悩んでいるという方はぜひご一読ください。
⑧効果的なストーリーの組み立て(構成)
構成については、過去に詳しく解説していますのでここでは深く立ち入ることはしません。本連載では、ハリウッド式の三幕構成をベースにした物語構成テンプレートを紹介してきました。三幕構成の発展形として、四部構成(三幕構成の二幕目をミッドポイントで前半・後半に分割する)やブレイク・スナイダー・ビート・シート(=BS2)の15ステップなどがあります。他にも有名なところでは、
定義上、ストーリーは一定の順序で展開される。出版可能なものなら、特にそうだ。したがって出版できないストーリーの場合、そこにはその一定の順序が「欠けている」可能性が高いという話になる。
この順序のことは「構成」として知られている。一部の人にとっては、創作行為のなかで最恐の言葉でもあるが―どの他の人たち、特に以前の狭い考え方を捨てた人たちにとっては、ストーリーを救済する手立てになりえるものだ。
どんなストーリーにも良かれ悪しかれ構成がある。あることに疑う余地はないが、大事になってくるのはそこにどれくらいの効き目があって、どれくらいはっきりしていて、どれくらいの迫力を生み出しているのか、ということだ。自分の手で調整できるこの大事な部分を偶然任せにしたり、感覚頼りにしたりするのは、患者を確実に延命できる医学的な手段があるのに、勘で脳外科手術をしてしまうようなものだ。
――『物語を書く人のための推敲入門』
これらの構成テンプレートのよいところは、物語のどこで何が起きるべきなのか、を書き手に教えてくれる点です。テンプレートに従ってストーリーをつくると個性がなくなってしまうのでは、という心配は無用です(ということも本連載で何度も強調してきました)。
どの構成テンプレートを使うかは書き手であるあなたの自由です(使わないのもまた自由です)。もし、書き上げた作品の構成に不安があるのであれば、最低限シド・フィールドの三幕構成に当てはめてチェックしてみることをオススメします。
参考URL
シド・フィールドの「三幕構成」その①
https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816452219633278150
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