シド・フィールドの「三幕構成」その①
前回は「物語の構成篇」のイントロダクションとして、ハリウッド式脚本メソッドの基礎となる三幕構成について簡単に触れました。
そしていよいよ今回からは、「三幕構成」について詳しく解説していきたいと思います。参考にするのは、シド・フィールドの著作『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』と『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』の2冊です。

まずは、シド・フィールドによる「構成」の定義を確認しておきましょう。

セミナーを始めてまもなく、パリでワークショップを開いた時のことだ。構成は脚本の基盤であるという話をしたら、会場はブーイングに包まれた。あなたは悪魔だ。構成なんか使っても脚本が書けるわけがない、と反論された。では、みなさんはどうやってストーリーを組み立てているのですか? と聞いてみると、返ってきたのは曖昧で抽象的な答えばかりだった。“構成の神秘性で”とか“創作過程での決めつけない良さで”などと、雲の向こうのぼやけた太陽のような釈然としない説明ばかりだったのである。
それ以来もう25年が経つが、脚本について語れば語るほど、構成がいかに重要かを痛感している。
小型のホワイトボードを抱えて各地を回っていた最初の頃は、正直言って、まだ構成の本当の重要さ──視覚的なストーリーラインを構成することで、主人公の感情と肉体を物語の中で旅させる方法を見出す重要性──はわかっていなかった。脚本には構成が不可欠だとは思っていたが、“どれほど重要か”は気づいていなかった。実際、それに気づいていない脚本家は、いまだにプロでもアマでも世界中に大勢いるのである。
では、構成とは何か。(中略)
優れた脚本には必ず、ドラマのアクションをつなぐ明確な一本の線が存在する。この線は一つの方向に向かって前進しながら、最終的に結末にたどり着く。たとえば旅行に行く時、いきなり空港に行って空席のあるフライトを探し、それによって行き先を決めたりはしないだろう? 普通はまず行き先を決めるものだ。
脚本の構成とは、そういうことなのだ。
構成とは、ドラマとして最大の効果を得られるように脚本の形を整える道具であり、アクション、登場人物、プロット、エピソード、出来事をしかるべき場所に収めるものである。
――『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』

別の箇所では、構成とは「ストーリーという中身を収める空間」であるとも述べられています。構成というスーツケースの中に物語が収まっている――そんなイメージをしてみてください。中身(物語)がどれほど変化しても、それを収めるスーツケース(構成)の形自体は変わりません。その「変わらないもの」こそが物語の構成なのです。
では、構成の普遍性とはいったい何でしょうか。すべての物語に共通するものとは何でしょうか。
それは「発端」「中盤」「結末」がある、ということです。物語には必ず「はじまり」があり、「真ん中」があり、そして「終わり」がある。
「そんなのは当たり前ではないか」と思う方もいるかもしれません。では質問です。物語の「発端」には何を描くべきでしょうか。「発端」には物語全体のどれくらいの分量を割くべきでしょうか。そして「発端」と「中盤」とをどのようにつないでいけばよいのでしょうか。――「発端」ひとつを取っても、すぐにこれだけの疑問が浮かんできます。
つまり、物語に「発端」「中盤」「結末」があると理解するだけでは、実際の創作に落とし込むのは難しいのです。その困難を解決したのが、シド・フィールドでした。
「発端」=第一幕=状況設定=25%
「中盤」=第二幕=葛藤・対立=50%
「結末」=第三幕=解決=25%

・どこで何を描くべきか
・それぞれの分量はどれくらいなのか
・各幕のつなぎ目をどう処理するのか
こうした疑問への答えが、この図の中に示されています。
おそらく多くの方が一度は目にしたことのある図だと思いますが、今後も繰り返し参照することになりますので、ぜひ頭に入れておいてください。
なお、ハリウッドでは「脚本1ページ=スクリーン上の1分」とされているため、120ページの脚本は120分の映画に相当します。今後シド・フィールドの著作を引用する際、ページ数に関する記述が出てきますが、その前提を念頭に置いておいてください。
また、シド・フィールドの著作には、三幕構成の事例として数多くの映画作品が紹介されています。映画と小説という違いはありますが、三幕構成に基づいて作られた作品がどのようなものかを、自分の目で確かめてみるのをおすすめします。サブスクリプションサービスで観られる映画も多く(『チャイナタウン』『ショーシャンクの空に』『マトリックス』など)、再生と停止を繰り返しながら物語の構造を分析するとよいでしょう。120分の映画なら、本当に25分前後で第一幕から第二幕へと移行していることがわかり、大きな驚きを覚えるはずです。
さらに、実際の映画作品を三幕構成で分析した動画も多数存在します。YouTubeやニコニコ動画などで「三幕構成」「Three-act structure」といったキーワードを検索し、そうした解説動画を参考にするのも良い方法です。
さて、まずは「発端」である第一幕について解説していきましょう。

第一幕(発端)は、20から30ページの長さである。そしてここでドラマの文脈の設定が行なわれる。文脈とは、ものごとが進行するための一つの枠組である。
たとえば、グラスの中の空間が文脈である。それは中身を一つに保っている。中身が変わろうとも、グラスの中の空間は変化しない。
文脈は中身を一定に保つ役割をする。
ドラマ構造の中で、第一幕は、ストーリーを立てて、キャラクターを設定し、ドラマ上の前提を示す。そして、状況を説明し、主要キャラクターとその他のキャラクターとの関係を設定する。
脚本家は10分程度で、これらを組み立てなければならない。なぜなら、観客は往々にして、10分程度でその映画が好きか嫌いかを決めるからだ。何が起こっているのか分からなかったり、オープニングが漠然としていて退屈であると、観客の集中力は途切れてしまう。
映画に行った時に、何分でその映画を評価するか、ということを考えてみるといい。目安は、ジュースでも買ってこようかと思い始めたり、座り方を変えたりし始めたら、製作者の負けである。
10分は10ページである。この最初の10ページが脚本上最も重要な部分である。
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』

つまり、第一幕の役割は、物語の状況を設定し、読み手に必要な情報を提示することです。そうすることで読み手は「次に何が起こるのか」を理解でき、物語の展開を明確に追えるようになります。
具体的に、第一幕で設定すべき要素は以下の3つです。
①主要人物を登場させ、誰の物語なのかを紹介する
②何についての物語なのか(=ドラマ上の前提)を明確にする
③ドラマのシチュエーション(背景・状況)を描写する
第一幕の模範的な例として、シド・フィールドは映画『ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間』を挙げています。この作品の冒頭では、
①主人公は誰か? → フロド
②何についてのストーリーか? → 指輪を消滅させる物語
③ドラマの背景は? → 冥王サウロンが中つ国を滅ぼそうとしている
この3つの要素がすべて明確に提示されています。
なお、『ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間』全体を三幕構成で分解すると、次のようになります。


よい脚本は、1ページ目の一文字目から状況設定ができている。第一幕は、アクションのワンユニットであり、その中では、ストーリーの重要な要素が慎重にまとめられ、組み立てられるべきである。そこでは、事件や出来事が、ダイレクトにプロットポイント①につながっていかなければならない。それこそが、真のストーリーの始まりになる。
もし状況設定がきちんとできていなければ、次々に人物や出来事を加えていって、ようやくストーリーが展開するということになりかねない。最近読んだ脚本の中で、最初の10ページで15人の登場人物を紹介しているものの、その脚本が誰について、また何についての話なのかまったくわからなかった。ストーリーはアクションの表面を上滑っているだけで、何の深みも面白みもなかった。こうなってしまうと、ストーリーは平凡で、不自然で、先が読めてしまうものになってしまう。
どうしてこうなるのか? これまでの教育経験から言えることは、多くの脚本家は、事前にじゅうぶんな準備をしていないということだ。書き始めることに夢中なあまり、アクションと人物との関係について、深く考え、膨らませる時間をとっていない。僅かばかりのネタを頼りに書き始め、第一幕を手探りで書いていく。ストーリーをなぞることにばかりに時間を割いて、第一幕にできるだけ多くのストーリーポイントを置けば、ストーリーが勝手に展開すると思っている。これではうまくいかない。
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』


第一幕ではとにかく状況設定に集中すること。アッと言わせるトリックや粋な会話などを考える余裕はない。第一ページの最初の言葉からすぐにストーリーの設定に取りかかりなさい。そしてどのシーンもすべて、ストーリーを進展させるか、主人公の情報を明らかにするために使う。この目的以外のシーンは、捨てなさい。第一幕はそれ以降に起こるすべてを設定するのである。
――『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』

さて、ここからが少しややこしいのですが、シド・フィールドの説明によれば、三幕構成の「第一幕」の中にも実は「発端」「中盤」「結末」が存在します。
それでは、シドの言葉を引用してみましょう。

構成は部分と全体の関係を作る。各部分はそれぞれ単独で成り立っているが、一方で全体の一部としても存在している。たとえば第一幕は、脚本全体の一部ではあるが、同時に第一幕自体にも発端・中盤・解決があり、単独で成り立ってもいる。第二幕も、第三幕も同じだ。
――『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』


第一幕を見てみよう。
第一幕は、脚本の始まりから第一幕終わりのプロットポイント①までの、ドラマ上のアクションのワンユニットだ。
そこには、始まりと終わりのポイントがある。だから、第一幕は、脚本全体からすれば「部分」なのだが、それ自体で完結している。アクションのユニットとして完結しているので、“始まり”の中に、“発端”“中盤”“結末”がある。脚本にもよるが、だいたい20から25ページくらいの長さになる。結末はプロットポイント①である。プロットポイント①は、事件、エピソードあるいは出来事のことで、それによってアクションに勢いが増し、違う方向へと導かれる。そして第二幕に突入していくのだ。ドラマ上の文脈は、設定である。第一幕のアクションで、ストーリーを設定していくのだ。主要人物を紹介し、ドラマの前提(何についてのストーリーなのか)を設定し、ドラマのシチュエーションを描写する。その方法は、視覚的に見せてもよいし、ドラマの中で語ってもよい。
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』

つまり「発端」「中盤」「結末」で分割された各幕の中にもそれぞれ「発端」「中盤」「結末」があるということです。図で表現するとこのようになります。

第一幕の「結末」にあたる部分を、シド・フィールドは「プロットポイント①」と呼びます。
では、「プロットポイント」とは何でしょうか。箇条書きで整理してみましょう。
《プロットポイントとは?》
・物語の転換点
・第一幕と第二幕の最後に置かれる
・ストーリーを展開し、新たな方向(第二幕・第三幕)へと向けるきっかけとなる事件やエピソード
・主人公に関わる出来事
・ストーリーを前に進めることが目的
図にもあるように、プロットポイント(図では「PP」と表記)は2つ存在します。「プロットポイント①」と「プロットポイント②」です。シド・フィールドは物語の構成を支える基礎として、次の4要素を挙げています。
・エンディング
・オープニング
・プロットポイント①
・プロットポイント②
エンディングとオープニングが重要であることは直感的に理解できるでしょう。シドは著作の中で、それと同じくらい「プロットポイント」の重要性を繰り返し強調しています。
《プロットポイント①とは》
・第一幕における「結末」に該当する
・第二幕へと物語を進める分岐点
・20〜25、もしくは30ページ付近に置かれる
・物語の“本当のスタート地点”
・多くの場合「プロットポイント①」=「キイ・インシデント」
ここで新しい用語が出てきました。「キイ・インシデント(Key Incident)」とは、その名のとおり「鍵となる事件」を意味します。
◎キイ・インシデントの例
ビルボ・バギンズが旅に出た後、甥のフロドが指輪を受け継ぐ。
→ 指輪を受け継ぐことで、フロドの「ドラマ上の欲求」が明らかになり、物語が動き始める。(『ロード・オブ・ザ・リング』)
あわせて覚えておきたいのが「インサイティング・インシデント(Inciting Incident/導入の事件)」です。役割は2つあります。
・“事件”によってストーリーが動き出す
・読者や観客の注意をつかむ
◎インサイティング・インシデントの例
ビルボ・バギンズが川底で指輪を発見する(『ロード・オブ・ザ・リング』)
整理すると
・インサイティング・インシデント … ビルボが指輪を見つける
・キイ・インシデント … フロドが指輪を受け継ぐ(→フロドの旅が始まる)
両者は関係し合っていますが、その役割は異なります。

インサイティング・インシデントとキイ・インシデントの二つの事件によって、ストーリーラインの基礎が定められる。
はっきりさせておこう。インサイティング・インシデントは、この事件が起こることで登場人物がはじめて投げ込まれ、ストーリーが動き出すのであるが、それはあくまでもきっかけの出来事にすぎない。キイ・インシデントの事件こそが本質であり、本当のストーリーが始まるのである。
インサイティング・インシデントによってストーリーに動きが生まれ、キイ・インシデントによってストーリーが設定される。そこで行なわれるのはドラマ上の前提の設定である。キイ・インシデントがストーリーの中心部であり、アクションへの反応、思想、思い出、フラッシュバック、すべてがその事件につながるのだ。だから、ストーリーを語るスタイルが、時間軸の直線的な形であっても、フラッシュバックの形であっても、『パルプ・フィクション』のように時間軸がずれた形であっても問題はない。
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』

カタカナ語ばかりで少しとっつきにくく感じるかもしれませんが、まずは「プロットポイント①=キイ・インシデントを設定すること」と覚えておいてください。
さて、そろそろ第一幕の解説を締めくくりましょう。三幕構成の見取り図(下図)を“図として理解する”ことも大切ですが、具体的な作品に触れることで、より理解が深まるはずです。

次回は第二幕と第三幕について解説したいと思います。
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