シド・フィールドの「三幕構成」その②

 今回は、シド・フィールドが理論体系化したハリウッド式脚本メソッド「三幕構成」理論の第二幕について解説していきたいと思います。


 参考図書は前回と同様、シド・フィールドの著作『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』と『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』の2冊です。


 前回も触れた通り、ハリウッドの世界では脚本の1ページがスクリーン上の1分にあたるため、120ページの脚本=120分の映画ということになります。今後の引用でページ数に関する記述がありますが、この点を承知おきください。



 さて、前回は第一幕の終わりまで解説をしました。

 第一幕はどのように終わらせればよいのか、第二幕へはどのようにつなげていけばよいのか、そのカギを握っている「プロットポイント①=キイ・インシデント」の設定とその重要性について解説しました。そして、プロットポイント①から「本当のストーリーが始まる」ということを確認しました。

 もはやお馴染みとなった下の「三幕構成の見取り図」でご確認ください。



 では、第二幕は、物語のなかでいったいどのような役割を担っているのでしょうか。シド・フィールドの言葉をいくつか引用してみましょう。


 第二幕はおおよそ60ページで、第一幕の終わり20〜30ページから、第三幕が始まる直前である85〜90ページまで続く。そこには、葛藤というドラマ上の要素が組まれる。この第二幕において主人公は、脚本の中で、達成しなければならない目標の前に立ちはだかる障害と対決しなければならない。主人公の邪魔となる障害を作り出せば、それを乗り越えて達成するというストーリーになる。

――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』

 第二幕を構成する葛藤は、第一幕終わりのプロットポイント①から、第二幕終わりのプロットポイント②まで、長さにして約50~60ページだ。この幕では、目的達成のために主人公が克服しなければならない障害に次々と直面する。主人公の目的や欲求──主人公が最終的に何を求め、何を手に入れたいのか──がわかっていれば、障害はおのずと作り出せるし、その障害を乗り越える主人公にふさわしいストーリーが出来上がっていく。ドラマはすべて葛藤である。葛藤がなければ、アクションはない。アクションがなければ、主人公は存在しない。主人公が存在しなければ、ストーリーは生まれない。ストーリーがなければ、当然脚本も作れない。葛藤は精神的なものでも物理的なものでもよいが、たいていは両者が組み合わさっていることが多い。

 脚本の中で書くのが一番難しいのは、この第二幕だろう。なんといっても一番長い幕だからだ。『テルマ&ルイーズ』第二幕では、2人は射殺後パニックになりながら逃走し、次から次へと困難に見舞われる。手持ちの金は底をつき、ガソリンもわずか、この先どうなるのか……。さまざまな物理的・精神的障害にぶつかる。

――『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』


 上記の引用から第二幕のポイントを抽出して整理するとこうなります。


・「葛藤」が描かれる

・分量は全体の約50%(映画脚本だと50~60ページ)

・主人公は目標の前に立ちはだかる障害と対立・対決する

・葛藤は精神的なものでも物理的なものでもよい


 さて、シド・フィールドは、この「葛藤」こそが、物語において大変重要な要素であると繰り返し強調しています。そしてこの「葛藤」は主人公の「欲求・目標」と非常に深い関係を持っています。


 繰り返すが、すべてのドラマは、葛藤、衝突である。キャラクターの目的をはっきりさせることができたなら、その達成を阻止しようとする障害物を設定することができる。キャラクターがその障害物をどのように乗り越えるのかが、ストーリーである。心情であれ、外的なものであれ、葛藤、困難、障害物を乗り越えることはドラマにとって必要不可欠な材料である。コメディにおいてでもだ。観客に興味を抱かせ続けさせるだけの葛藤を創造するのは、脚本家の責任だ。脚本家の仕事は、読み手にページをめくり続けさせることである。ストーリーは、その解決に向かって、常に前に転がらなければならない。

――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』


 また『新世界より』や『悪の教典』などで知られる小説家の貴志祐介さんも次のように述べています。

 物事にはコンフリクト(競合、対立、衝突)が不可欠である、と小説作法において昔からよく言われる。仲の良い若者たちが手を取り合って談笑しているだけの物語では、やはりエンタテインメントとして成立しにくい。人VS人、あるいは組織VS個人、問題VS困っている人……などなど、最初にわかりやすく対置することで、読者の意識に関心の下地が生まれるのだ。

 逆に言えば、プロットを立てるうえで、こうした対立構造を明確にしておくことこそ、ブレないストーリーづくりのコツとも言えるだろう。

――貴志祐介著『エンタテインメントの作り方 売れる小説はこう書く』(KADOKWA)


 主人公は物語の流れの中で、何を勝ち取り、手に入れ、達成したいと考えているか(=欲求・目標・目的)がわかれば、その欲求や目的の達成を阻む障害物を作ることができます。障害物ができれば、どうやって主人公がその障害を乗り越えていくか、が物語になっていきます。

 本連載の「キャラクター篇」で、主人公に必要な5つの要素を解説しました(https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/1177354055582821186)。そこでは、主人公の「欲求と目標(=何を求めているのか)」の設定が重要であると述べましたが、今回の「物語の構成篇」でも、やはり主人公の欲求(目標・目的)が登場してきました。

「キャラクター篇」の最後で、ハリウッドで活躍するストーリーコンサルタントのロバート・マッキーのこんな言葉を引用したのをご記憶でしょうか。


 構成と登場人物のどちらが重要かという問いには意味がない。というのも、構成が登場人物を形作り、登場人物が構成を形作るからだ。このふたつは等しいものであり、どちらが重要ということはない。

――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』


「キャラクターかプロットか」という問い自体が無意味であるというマッキーの言葉の意味が徐々に分かってきたのではないでしょうか。主人公の欲求(そして変化)が物語の構成とうまく融合した時、読者の心をつかむ魅力的な物語が生まれるのです。

 この両者を結び付ける重要な概念として「キャラクター・アーク(=主人公の変化の軌跡)」が有名ですが、ここで説明すると長くなるので、今後の連載の中で触れるようにしたいと思います。


 さて、シド・フィールドも「書くのが一番難しい」と認めている第二幕を書くためにはどうすればよいのでしょうか。シドはこんなエクササイズを用意しています。


・主人公が遭遇しそうな障害を4つ紙に書きだす

・4つの障害を中心に、第二幕で起こるアクションを要約する


 なお、『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』は書名に「ワークブック」とあるように、実践的なエクササイズが多数収録されており、とても「使える」一冊になっていますので、ぜひこの機会に読んでみてください。


 障害とアクション、このセットをぜひ覚えておいてください。障害をどのように克服するか、がドラマになるのです。先に触れたシド・フィールド言葉をもう一度引用しましょう。「葛藤がなければ、アクションはない。アクションがなければ、主人公は存在しない。主人公が存在しなければ、ストーリーは生まれない」。


 さて、第一幕の最後には「プロットポイント①」を設定しましたが、第二幕の最後には「プロットポイント②」を設定する必要があります。


《プロットポイント②とは》

・第三幕に向かわせる分岐点

・おおよそ80ページから90ページの間に置かれる

・ストーリーを前進させる役割をもつ


 ではここでいちど第二幕のまとめをしておきましょう。



 さて、前述のとおり第二幕は全体の50%もあり、書くのが大変なパートです。この「物語の構成篇」のイントロダクションでもお話ししたとおり、現在ではシド・フィールドが理論体系化したこの「三幕構成」を応用した、いわば「三幕構成の発展形」とでもいうべき理論がいくつも存在しています。なぜ発展させる必要があったのかというと、幕のひとつひとつ(特に第二幕)が長すぎて、理論としては理解できるものの、物語構成のテンプレートとして初心者が活用するにはややハードルが高いという事情があったからです。

 例えば『SAVE THE CATの法則』の著者、ブレイク・スナイダーはこう述べています。

 彼の著作『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』を読み脚本家に本当に役に⽴つものはこれだ! と感じたのである。

 それって、三幕構成のこと? そう、そのとおりだ。

 でも、三幕構成だけじゃ充分じゃなかった。だだっ広い海で泳ぐのと同じで、幕と幕の間が広すぎて、途中で迷ってパニックに陥り溺れてしまうのだ。だから迷⼦にならないよう、途中で⽬印になるような島が必要だった。

――『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』


 そしてブレイク・スナイダーは、物語を「3つ(=三幕)」ではなく、「15」のビートで構成するという、オリジナルの「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(BS2)」という画期的な物語構成用のテンプレートを開発しました。初心者でもすぐに使えて、おそらく世界でもっとも有名な「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(BS2)」は、三幕構成をベースにしながら、それを発展させる形で完成しました。

「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(BS2)」については、この連載でもこの後触れることになりますが一足先に『SAVE THE CATの法則』について知りたいという方はこちらをご一読ください。


最強の物語構成テンプレート「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(BS2)」とは何か?https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816452220204266392


 さて、話をシド・フィールドの三幕理論に戻しましょう。

 長すぎる第二幕を分割するために導入された概念「ミッドポイント」について触れておきます。なお「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(BS2)」でもミッドポイントはそのまま活用されています。


 それにしても、60ページにも及ぶ長い第二幕だ。少しでも効率よく、楽に書くにはどうしたらいいか? 私はいろいろと考えた。

(中略)

 第二幕の中で、「中心的」な出来事やエピソードとはどこにおくのか? 単にアクションを進展させるだけでなく、第二幕を2つに分割する地点だ。もしそれが60ページ目に起きれば、第二幕を前半、後半の30ページずつに分けることができる。(中略)

 ミッドポイントが第二幕の前半と後半をつなぐ。

 この視点から脚本を分析すればするほど、第二幕の真ん中で前半と後半をつなぐ重要な事件が起こることに気がついた。

 それがミッドポイントである。ミッドポイントは、脚本の60ページあたりで起こる事件、出来事、エピソードであり、第二幕を前半と後半に分けながらも、両者で起きるアクションの橋渡しをするプロットポイントなのである。

 ミッドポイントを使って脚本を分析すればするほど、ミッドポイントの重要性や便利さが痛感できた。

 そこで私は、脚本のセミナーでもこのミッドポイントを紹介することにした。すると、受講生の作品が驚くほど変化した。第二幕をしっかり把握し、自分でコントロールできるようになった。途中で迷子になることなく、第二幕で自分がどこに向かい、どうやってそこにたどり着けばいいかが、はっきりと理解できるようになった。

 以来、世界中でセミナーを行なっているが、ミッドポイントを第二幕の真ん中において構成するよう指導すると、必ずうまくいき、第二幕が効果的で楽に書けるようになる。毎回それを痛感する。

――『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』


 ミッドポイントについてまとめてみましょう。


・第二幕の真ん中に置かれる「中心的」な事件、出来事、エピソードのこと

・ミッドポイントにより第二幕は前半と後半に分割される

・第二幕の前半と後半で起きるアクションの橋渡しをする



 物語には、プロットポイント①、ミッドポイント、プロットポイント②という構成上重要なポイントが3つあることがお分かりいただけたと思います。これらの3つのポイントをつくる順番について、シド・フィールドはこう述べています。

 3つのポイント──プロットポイント①、ミッドポイント、プロットポイント②──は、第二幕をつなぐ構成上のキーポイントだ。作る順序としては、プロットポイント①とプロットポイント②を先に決めて、そのあとでミッドポイントを決める。全体の順序をもう一度確認しよう。

――『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』

 さて「3つのポイントを置け」といわれても具体的な例がないとなかなか納得ができないと思いますので、ここで有名な映画作品の事例を2つ紹介しましょう。


 まずは、映画『アイアンマン』(上映時間126分)。

 本作のプロットポイント①、ミッドポイント、プロットポイント②でどんな出来事が起こっているのかまとめてみましょう。


プロットポイント①

囚われの身となったトニー・スタークがパワードスーツ「マーク1」を完成させる。

上映開始から36分(物語の28.5%)時点で発生

→ここから本格的な物語がスタートする


ミッドポイント

トニー・スタークは試作品「マーク2」を完成させ、初のテストフライトに臨む。スーツが氷結して危うく墜落するところだったが、無事に帰還した。今やトニー・スタークはアイアンマンとなった。

上映開始から61分(物語の48.4%)時点で発生

→物語の中で「中心的」な出来事


プロットポイント②

トニー・スタークはスーツを動かすために必要なアーク・リアクターを奪われてしまう。

上映開始から96分(物語の76.1%)時点で発生

→第三幕「解決」へと向かう


 次に映画『タイタニック』を紹介します。

 なお『タイタニック』は上映時間194分の長尺な物語であるため、それぞれのポイントが置かれる時間も、それに応じて少し変わっています。


プロットポイント①

自殺をしようと柵を乗り越えたローズをジャックが救う

上映開始から42分(物語の21.6%)時点で発生

→ここから本格的な物語がスタートする


ミッドポイント

タイタニック号が氷山に衝突する

上映開始から100分(物語の51.5%)時点で発生

→物語の中で「中心的」な出来事


プロットポイント②

船首が完全に沈み、本格的な沈没が始まる

上映開始から160分(物語の82.4%)時点で発生

→第三幕「解決」へと向かう


参考URL:https://www.helpingwritersbecomeauthors.com/movie-storystructure/titanic/



 それぞれのポイントで物語を前進させるような出来事が起こっていることが確認できたと思います。特にミッドポイントがいずれの作品でもほぼ真ん中の位置に置かれていることに注目してください。メガヒット作品の多くが同じ物語構造をもっていることを、数多くの動画やウェブの記事で確認することができます。気になる方は検索してみてください。

例:https://www.helpingwritersbecomeauthors.com/story-structures/

 また、今回の参考図書の2冊にも数多くの映画作品の事例が紹介されていますので、ぜひこちらもご確認ください。


 さて、次回はいよいよ第三幕の解説です。ようやく三幕構成の全貌を把握できるようになったところで、次回は「考える順番」についても解説できたらと思います。


書き始める前に、考えるべき4つのことがある。

1 エンディング

2 オープニング

3 プロットポイント①

4 プロットポイント②

この4つである。しかもこの順番である。

――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』


 シドはなぜこの順番でなければならないと述べているのでしょうか。次回確認していきましょう。


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