シド・フィールドの「三幕構成」その③
シド・フィールドが体系化したハリウッド式脚本メソッド「三幕構成」理論についての解説も今回でラストとなります。今回は第三幕について解説していきたいと思います。
参考図書は前回と同様、シド・フィールドの著作『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』と『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』の2冊です。
では、第三幕の役割について確認していきましょう。
第三幕は、おおよそ20~30ページの長さで、第二幕の終わり85〜90ページから、脚本の最後までである。第三幕は、解決という流れを脚本に持ち込む。解決は、エンディングとは別のものである。
脚本上の解決とは何か?
主人公は、生きるのか死ぬのか?
成功するのか失敗するのか?
レースに勝つのか、負けるのか?
脱出できたのか、できなかったのか?
夫と別れたのか、そうではないのか?
故郷に無事に帰り着けたのか否か?
第三幕はストーリーに解決を与える役割を果たす。ただし、エンディングとは違う。エンディングは、脚本の最後の 特別なショットかシークエンスなのである。
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』
プロットポイント②のあとは、第三幕である。長さにして約30ページ。第二幕終りのプロットポイント②から、脚本の最後までを占める第三幕(「解決」)で、ストーリーは結末を迎える。主人公はどうなるのか。まずはストーリーがどういう結末になるかを明確にしなさい。具体的なラストシーンを考えるのではなく、「葛藤が解決されるとどんな結末になるかを明確にしなさい」ということだ。
(中略)
解決とは、「解答を見つけること、謎を説明し明らかにすること」である。したがって、解決とは、単なるストーリーの終りではなく、シナリオ自体への解答を意味する。
ここまでシナリオを執筆してきた過程で、あなたが終わらせたいと思っていたシーンや文脈は、変化してしまったかもしれない。最初に予定していた結末は、この時点でもまだうまく機能しているだろうか?
第三幕を書くにあたって、最初に決定しなければならないのが、この解決である。たいていは準備段階で考えた結末でよいが、念のためもう一度確認しなさい。
脚本を書き始めた時は、単純な選択から始めたはずだ。脚本の最後はどうなるか? 主人公に何が起きるか。主人公は生きるのか、死ぬのか。成功するのか、失敗するのか。結婚するのか、離婚するのか。競争に勝つのか、負けるのか。恋人と再会できるのか、できないのか。有罪になるのか、ならないのか。
優れた脚本にはかならず結末がある。
――『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』
ここで、お馴染みの「三幕構成の見取り図」を確認しておきましょう。プロットポイント②からラストまでが第三幕で、全体の25%程度の分量がある、ということをまずは押さえておきましょう。
そして第一幕の解説の際にも触れましたが、それぞれの幕の中にもまた「発端」「中盤」「結末」があります。
第三幕は脚本の終わり、つまり解決である。
第一幕や、第二幕と同じように、第三幕も、それ自体でドラマ上のアクションのワンユニットだ。やはり、「結末」ながらその中には、「発端」「中盤」「結末」がある。20から30ページくらいの長さで、『ドラマ上の流れ』は、解決である。解決とは、結末のことで、脚本の最後にある特定のシーンやショットではなく、ストーリーラインの解決を意味している。
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』
さて第三幕について注意すべき点がひとつあります。それは「解決」とはストーリーラインをどう結末に導くかであって、どういうラストシーンにするか、ではないということです。
かならず覚えておいて欲しい。ストーリーはいつでも前進し、一つの方向に向かって、始めから終りへと進展している。フラッシュバックを使っても、非直線的なストーリー(『ボーン・スプレマシー』、『ナイロビの蜂』(ジェフリー・ケイン)、『ユージュアル・サスペクツ』、『メメント』)でも、直線的なストーリー(『マッチポイント』、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』、『サイドウェイ』、『ブロークバック・マウンテン』)でも、進展する方向は、ストーリーラインとして一つに定まっているのである。
脚本の中では、すべてが互いに関係し合っている。脚本執筆の最初の段階からラストシーンを細かく決める必要はないが、「最後に何が起こって」、それが登場人物にどんな影響を与えるかは絶対に知っていなければならない。それが解決なのである。
――『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』
始めから終りへと、一つの方向に向かって前進するストーリーそのものに決着をつける、それが第三幕の最も重要な役割であり「解決」の意味するところです。個別のシーンをどう描くのか、どのようなラストシーンにするのかとは少し次元の違った話であることが分かっていただけたでしょうか。
先に引用した「解決は、エンディングとは別のものである」という言葉からも、シド・フィールドが「解決」と「エンディング」を別個のものとしてとらえていたことが分かると思います。
まとめると、このようになります。
・解決 … 結末のこと(ストーリーラインの解決を意味する)
・エンディング … 脚本の最後の特別なショットかシークエンスのこと
では「ストーリーラインを解決する」とは、どういうことなのでしょうか。具体例で解説していきましょう。シド・フィールドがここで取り上げているのは、ロン・ハワード監督による映画作品『シンデレラマン』です。
この作品になじみのない方のために本作のあらすじをごく簡単に紹介します。
三幕構成においては、第一幕(状況設定)→第二幕(葛藤・対立)→第三幕(解決)であるということは繰り返し述べてきました。『シンデレラマン』において、解決しなければならない「葛藤・対立」は何なのでしょうか。
元ボクサーの主人公ジェームズ・ブラドックは世界ヘビー級チャンピオンの座をかけて、マックス・ベアと対戦するチャンスを手に入れます。大恐慌で生活費が稼げなくなったブラドックにとって、妻子を養うためにも、一生に一度の大きなチャンスです。しかしマックス・ベアと対戦することはあまりにもリスクが大きいことも事実です。過去にマックス・ベアと対戦した相手が2人もリング上で死んでいるのです。最悪の場合は死ぬ危険もあります。
このジレンマこそが本作の葛藤であり、第三幕で解決すべきポイントです。
試合の前に、メイは夫のジェームズに言う。「今までずっとあなたを応援してきたけど、今回だけは無理よ。好きなだけトレーニングしていいわ。でもとにかく試合には出ないで欲しいの。わざと手をけがしたっていい。それでもマックス・ベアと闘うっていうなら、もうこれ以上応援はできないわ」
これが最後通牒だ。ジェームズはどう解決するのか?「俺にできるのは、ボクシングだけなんだ。俺にだって人生を決定する権利があると思いたい。俺にだって人生を変えられる時がある。それもないなら、死んだも同然だ」。家族をとるか、死の危険を冒してでもチャンピオンベルトをかけて闘うのか。この葛藤をめぐって第三幕は動いていく。それは解決しなくてはならない物理的葛藤であり、精神的葛藤でもある。
第三幕は、試合の朝から始まる。ジェイムズは妻と子供に別れを告げ、スタジアムへと向かう。だが試合が始まる直前、メイが思いがけなくロッカールームに姿を現しこう告げる。「私はいつでもあなたの味方よ。ジェイムズ・ブラドック、忘れないで……あなたは私の心の中のチャンピオンだってこと」。こうして、夫婦のきずなが強く結ばれる。
やがて試合が始まる。ここからラストまでは15ラウンドのボクシングシーンになっている。彼は勝利し、スクリプトの最後は次のショットで締めくくられる。「ジムはリングの中央に立ち、腕を高く掲げて勝利を味わう。目には涙があふれ……」。ストーリーの視点からも主人公の視点からも、解決すべきことが解決されている。
フェードアウトの直前に、結末についての追加説明が数行映し出されるが、ストーリーラインとしてはこの感動的なシーンが結末となっている。
――『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2』
葛藤が見事に解決され、ストーリーは見事に「始めから終り」まで線(ライン)としてつながりました。
さて、第三幕の解説を終える前に、もうひとつ触れておきたいことがあります。前回の最後にシド・フィールドのこんな言葉を引用しました。
書き始める前に、考えるべき4つのことがある。
1 エンディング
2 オープニング
3 プロットポイント①
4 プロットポイント②
この4つである。しかもこの順番である。
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』
まずエンディングを考えよ、というシドの言葉。別の個所では「エンディングとオープニングはコインの裏表だ。脚本のエンディングを決め、そこから始まり方を決めていくとよいだろう」とも述べています。
書いている途中でもっとよいエンディングのアイデアが生まれることがあれば、そのアイデアに乗って変えてみればいい。自分自身の創造的直感を信じるのだ。自分のエンディングが、変わるかもしれないということを受け入れることは大切である。しかし、だからと言って、エンディングを考えないで書き始めてもよいということではない。
繰り返すが、エンディングを想定せずに脚本を書き始めてはならない。覚えておかなければならない最も重要なことは、エンディングはオープニングから生まれる、ということである。ある人がアクションを起こし、そのアクションがどのように帰結されるのかということがストーリーの流れなのである。この考え方を自分の脚本で表現できたなら、それは武器になるであろう。
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』
なぜ、エンディングから考える必要があるのでしょうか。
それは、物語が、A地点からZ地点まで(設定から解決まで)決まったベクトルで前に進んでいく、という性質をもっているからです。つまり、物語は始まりから終わりまで、前へ前へと、進んで行くのです。
「物語の最後は、どんな終わり方なのか?」を知っておけば、どんな始まり方をすればよいのかを決めることができます。「始める」ためには「終わり方」を知ろう、というのがシド・フィールドの考え方です。
多くの人が、「脚本を書き始める前に、脚本の結末を知る必要がある」ということを信じていない。多くの議論を私自身聞いてきた。ある人は言う。
「私の登場人物自身が結末を決める」
またある人は言う。
「結末はストーリーを書くうちに決まる」
「終わりまでたどり着けば、結末が分かるだろう」
先に断っておこう。そのようにうまくはいかないのである。
(中略)
考えればすぐ分かることだ。ストーリーは常に前へ前へと進んで行く。ストーリーは、一本の通り道や一つの方向に沿って、始まりから終わりまで進んでいくのである。方向とは、状況を発展させる出来事の連なり、何か横たわっているものに沿った通り道というように定義される。
同様に、脚本上でも、私たちの人生と同じように、すべてのことはそれぞれ関係性を持っている。脚本をさあ書き始めようという時に、結末の細かい部分まで知っている必要はないが、結末に何が起きて、それが登場人物たちにどのように影響を与えるのかということくらいは知っておかなければならない。
自分のストーリーの結末は何か?
脚本の最初のコンセプトの段階、つまり、アイデアを膨らまして、それを形にしていくころには、ストーリーの決着をどうつけるか決めておかなければならない。
よい映画には、必ず結末がある。そのことを心に刻みこんでおくべきだ。
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』
第三幕のまとめをしておきましょう。
最後にシド・フィールドが推奨するストーリーラインの組み立ての際に役立つメソッドをお伝えします。具体的には、カード(5×3情報カード)を使ってシーンやシークエンスを入れ替えながらストーリーを組み立てていくという方法です。
カードはいろいろなメーカーから発売されているので、気に入ったものをお使いください。
やり方はこんな感じです。
・シーンやシークエンスのアイデアごとに一枚のカードを書く
→実際に脚本を書く時の助けになるように、短い説明文を書く
・突然アイデアがひらめいた時に付け加えられるよう、余白を残しておく
・入れたいシーンを、ありったけ書き出す
→シーンだけを、順番は気にせずに、自由連想で書き出す
・カードは必要なだけ使う
・脚本30ページ(30分)に対して、14枚のカードにまとめる
→一幕あたり14枚、つまり三幕全体では56枚のカードになる
・色違いのカードを利用してもよい(例:第一幕は青、第二幕は緑、第三幕は黄色)
・変えたいカードがあれば、何度でも変える
・ストーリーの筋がわかりやすくなるようにカードの順番を並べ直す
カード方式はとてもよい手法だ。カードの足し引き、並べ替え、増減が自由自在だ。シンプル、簡単、効果的、そして柔軟に脚本を組み立てることができる。
(中略)
カードの作成は、簡単なアクションの要約であり、脚本を書くのとは少し異なる。だが、ストーリーラインの設定には有効なプロセスだ。カードを使うことで、効果的にストーリーを組み立てていくことができる。
脚本を組み立てる作業と、実際に脚本を書いていくということがまったく別のものだということをまずは理解してほしい。まったくプロセスが違う。だから、一枚のカードを一シーンとして扱う。これは脚本を書いているときとは矛盾するが、これでよいのだ。
(中略)
カードシステムによって、書き手は、脚本を構成する際に最大限の自由を得ることができる。よし書こうという気持ちになるまで、カードで試行錯誤ができるのだ。いつが書き始め時か、自然にわかるようになる。そういう気持ちがわいてくるのだ。書き始める準備ができたら、書き始める。その時には、ストーリーについても納得がいっているし、何をしなければいけないのか分かっている。そしてシーンごとの視覚的イメージが湧いてくる。
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』
シド・フィールドは一幕につきカードの枚数は「14枚」と述べていますが、ブレイク・スナイダーは著書『SAVE THE CATの法則』の中で、一幕につき「10枚」(合計40枚)としています。いずれにせよ、シド・フィールドが本書で述べているのは、あくまで映画脚本のケースなので、小説に応用する場合には、枚数など少し調整(カスタマイズ)が必要になってくるはずですが、カードにシーンを書き出し、並び替えながらストーリーラインを構築するという作業は小説の執筆にも有効です。
下記の記事の中で、小説家の八谷紬さんはTrelloという無料のタスク管理ツールを使ってPC上でカード(ボード)を並べ替えながら物語の構成を考ると語ってくれています。実際のカードを使わずとも最新のツールを使えば、疑似的にカードの並べ替え作業ができるので、使いやすいツールでぜひ実践してみてください。
【参考記事】
「小説家、八谷紬『ストーリー』を語る」
http://www.kaminotane.com/2019/03/07/4892/
さて、3回にわたってお届けしてきたシド・フィールドの三幕構成理論の解説は今回で終了となります。この連載で触れたのはシド・フィールドのメソッドのごく一部です。より理解度を高めたいという方は、ぜひ参考図書の2冊を読んでみてください。具体的な作品の事例を紹介しながら、かなり詳細に解説しています。
次は、シド・フィールドの理論を応用発展させ、世界で最も実用的な物語構成用のテンプレートを開発した「ブレイク・スナイダー・ビート・シート」について解説していきたいと思います。
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