『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』の3つの要点

 この「要点編」では、これまでトピックごとに部分的に引用・紹介してきたフィルムアート社の創作系書籍を一冊ずつ、押さえておきたい「3つの要点」にフォーカスして改めて紹介していきます。


 今回紹介するのはこちら。


書名:ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則


著者:ロバート・マッキー

発売日:2018年12月20日|A5判|536頁|本体:3,200円+税|ISBN 978-4-8459-1720-4

本書を読み解くキーワード:構成、シーン、キャラクター、ジャンル

レベル:初心者 ★★★☆☆ 上級者



『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』について語る前に、本書の著者ロバート・マッキーについて解説したいと思います。本書は何よりもまず「ロバート・マッキーの主要著書であること」が重要です。


 ロバート・マッキーは1941年に生まれました。1983年に名門、南カルフォルニア大学(卒業生にはジョージ・ルーカス、ロバート・ゼメキス、ロン・ハワードなど)映画芸術学部で脚本講師としてのキャリアをスタートさせます。翌年から学外でも同様の講義(その名も「Story Seminar」)を開始します。3日間合計30時間という濃密なスケジュールで行われたこのセミナーが、本書の原型となりました。

 その後30年以上にわたって、マッキーは世界中を飛び回りセミナーを開催しています。脚本家、小説家、劇作家、詩人、ドキュメンタリー作家、プロデューサー、演出家などを育成し、これまでに10万人以上の人々がマッキーのセミナーを受講しました。

 マッキーの指導を受けたなかからは、アカデミー賞受賞者が60人以上(候補者200人以上)、エミー賞受賞者が200人以上(候補者1,000人以上)、全米脚本家組合賞受賞者が100人以上、全米監督組合賞受賞者が50人以上生まれています。

 ストーリー業界に圧倒的な影響力をもつロバート・マッキーは、間違いなく世界でもっとも著名なストーリー講師であるといえます。本書は「現代のアリストテレス」との呼び声高い、ロバート・マッキーの主要著書です。1997年の刊行以来、25年にわたって読み継がれてきた名著中の名著。シド・フィールドの『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』やブレイク・スナイダーの『SAVE THE CATの法則』と並び、世界で最も読まれている脚本術のひとつです。

 では、本書にはどのようなことが書かれているのでしょうか。10万人が熱狂した伝説的シナリオセミナーの要点を3つのポイントで解説したいと思います。

■要点その①:物語創作のバイブル――そもそもストーリーとは何なのか


 本書とその他の創作指南本の決定的な違いをひとことでいうなら、「What is」と「How to」の違いといえるでしょう。ほとんどの創作本は「物語のつくり方」を指南するハウツー(How to)本の体裁をとっています。もちろん本書にもハウツー的な要素はあります。しかし「つくり方」の一歩手前の部分、つまり「そもそも物語とは何なのか(What is)」について、徹底的な考察と解説がなされているのが本書の最大の特徴です。

 今すぐ使えるテクニックやノウハウを知りたいという人は、わざわざ「物語とは何なのか」について考える必要はないと感じるかもしれません。しかし、いくら小手先のテクニックやテンプレートを駆使しても、読者や観客を惹きつけることができなければ、それを優れた物語と呼ぶことはできません。作者はまず「ストーリーの本質」が何なのかを理解したうえで、それを表現するためのテクニックを身に付ける必要があるのです。

 スクリーンを縦横無尽に動きまわるようなシーン、おのずと語りはじめるようなシーンは、何から生み出せるのだろうか。ひねったり形をつけたり、とっておいたり捨て去ったりする、ストーリーにとっての粘土はどんなものか。つまり、ストーリーの本質とはなんだろうか。

 ほかの芸術分野なら答えは明らかだ。作曲家は楽器と音符で曲を奏でる。ダンサーは自分の体で表現する。彫刻家は鑿で石を削る。画家は絵の具で描く。すべての芸術家は作品の素となるものに手をふれることができるが、作家だけは別だ。というのも、ストーリーの核にあるのは「本質」だからだ。それは原子のなかで渦巻くエネルギーと同じく、直接見たり聞いたりさわったりはできないが、われわれはその存在を知っているし、感じることもできる。ストーリーの素となるのは、生きているが実体のないものだ。

「実体がないって?」こんな声が聞こえてきそうだ。「でも、ことばがあるじゃないか。台詞とか、説明描写とか。ページの上に手を置くこともできる。作家にとっての原材料は言語だろ」しかし、実はそうではない。才能ある多くの脚本家が――特に、文学の訓練をしっかり受けたのちに脚本家になった者は――この原則を著しく誤解しているせいで、前へ進めずにもたついている。ガラスが光を伝える媒体であるように、空気が音を伝える媒体であるように、言語はストーリーテリングの数ある媒体のひとつにすぎない。ことばよりもはるかに重大なものが、ストーリーの奥底に息づいている。

――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』

 作曲家は楽器と音符で、ダンサーは自分の体で表現します。では、作家の場合はどうでしょう? 「ことば」ではない、というのがマッキーの主張です。もし「ことば」がストーリーの核であるならば、作家になりたい人はことばを磨く訓練をすればよいということになります。どうやったら「美しく流れるような文章」や「巧みな比喩表現」を身に付けられるのだろうかと悩んだことがある人は多いのではないでしょうか。しかし、マッキーによれば文才とストーリーの才能はまったくの別物です。

 すぐれたストーリーはすぐれた映画になる可能性があるが、ひどいストーリーからはひどい映画がほぼまちがいなく生まれる。この基本がわかっていない査読者は解雇されても仕方がない。実のところ、ストーリーは美しく語られているのに、台詞やト書きの出来が悪いという例は驚くほど少ない。ストーリーテリングが巧みな脚本は、たいがい想起させるイメージが鮮やかで、台詞の切れ味もいい。一方、話が展開しない、動機が嘘くさい、登場人物が多すぎる、サブテクストが空っぽ、矛盾が見られるなど、ストーリーに欠陥があれば、味気なくつまらない脚本になる。

 つまり、文才だけでは不十分だ。ストーリーを語ることができなければ、何カ月もかけて美しいイメージや巧妙な台詞を完成させても、すべて紙の無駄となる。われわれが世界のために作り出すもの、世界がわれわれに求めるものはストーリーだ。それはいまもこれからも変わらない。

――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』

 作者にとって何よりも大事なのは「ストーリーの本質」を理解したうえで、ストーリーを語る能力(=ストーリーの才能)を身に付けることです。

 文才とストーリーの才能はまったく別物であるばかりか、互いの関連もない。[……]文才が用いる素材はことばだが、ストーリーテリングの才能が用いる素材は人生そのものだ。[……]つまり最も重要なのはストーリーの才能で、文才は不可欠ではあるが二番目だ。これは映画やテレビの絶対原則であり、劇作家や小説家は認めたがらないだろうが、演劇や小説もしかりである。ストーリーの才能は稀有のものだが、あなたにもその片鱗はあるはずだ。そうでなければ、書きたいなどと思うはずがない。ならば、そこからありったけの創造力を絞り出して書くことだ。ストーリーテリングの技巧についての知識を総動員しなければ、ストーリーを作ることはできない。技巧をともなわない才能は、エンジンのない燃料と同じだからだ。いくら激しく燃えても、そこからは何も生まれない。

――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』

 文才とストーリーの才能はまったくの別物であり、重要なのはストーリーの才能であると明言したマッキー。ストーリーの才能を発揮するには、ストーリーの本質を理解し、ストーリーテリングの技巧を身に付ける必要があります。では「ストーリーの本質」とは何なのでしょうか。

 本章の冒頭で投げかけた問いの答えはもうわかっただろう。ストーリーの本質はことばではない。机上で思い描いた人生のイメージや感情を表現するためには、明晰な文章でないといけないが、ことばは目的ではなく、手段であり媒体だ。ストーリーの本質は、ある人がアクションを起こして、そのつぎに起こると思っていることと、実際に起こることのあいだに生じるギャップ、つまり予想と結果、可能性と必然性のあいだの隔たりだ。脚本家はシーンを組み立てるために、現実のなかにこうした裂け目をつぎつぎと作っていく。

――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』

 ストーリーの本質は「ギャップ」である、と書かれています。

 主人公の欲望(や目標)、それを阻もうとする勢力との対立(や葛藤)、アクションとリアクション、キャラクター・アークなどなど……。創作指南本でおなじみのこれらは、すべてギャップを描くためのストーリーテリングの技巧です。本書では、まず「ストーリーの本質とは何なのか」を理解したうえで、それを表現するための技巧についてじっくりと解説しています。

 また、本書の「What is」はストーリー全体だけにとどまりません。創作者が何気なく使っている「幕」「シークエンス」「シーン」「ビート」などの単語が、いったい何を意味しているのか、そして物語全体にどのような役割を果たしているのかについても詳細に解説しています。

 本書は、ストーリーに関するあらゆる「What is」を解説している「物語創作のバイブル」といえます。冒頭から順に読んでいくのもよいですが、「そういえば、シーンって何だっけ?」「葛藤って何だっけ?」と創作上の疑問が生じたときにその都度参照する辞書的な読み方をすることもできます。


■要点その②:プロットとキャラクターは同じもの


「物語創作のバイブル」と称される本書には「聖書」と同様、数々の名言が収録されており、さまざまな媒体で引用されてきました。その中でももっとも多く引用されてきたのは、以下の文章です。


「構成と登場人物のどちらが重要かという問いには意味がない。」


 どういう意味なのでしょうか。もう少し長めに引用してみましょう。

 プロットか、登場人物か。どちらが重要だろうか。これは芸術が生まれて以来の論争だ。アリストテレスはこのふたつを秤にかけ、まずストーリー、つぎに登場人物だと結論をくだした。この意見は長きにわたって優勢だったが、小説の進化とともに振り子は反対側へ振れた。十九世紀になると、構成とは人間性を表現するために設計された器にすぎず、読者が求めているのは魅力的で複雑な登場人物だという考えが多く見られるようになった。今日に至っても議論はつづき、結論は出ていないが、その理由は単純だ。空疎な議論だからだ。

 構成と登場人物のどちらが重要かという問いには意味がない。というのも、構成が登場人物を形作り、登場人物が構成を形作るからだ。このふたつは等しいものであり、どちらが重要ということはない。

――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』

 上記引用で重要なのは、そもそも「この問い自体に意味がない」といっている点です。

 小説や映画脚本など物語の創作指南本のほとんどは「キャラクターの作り方」と「プロットの作り方」に重点を置いています。いわば創作界の花形トピックです。本当は物語創作にはキャラクターとプロット以外にも押さえておきたいさまざまな要素があるのですが(例:「テーマ」や「POV=視点」など)、「キャラクター」と「プロット」は、教える側にとってはメソッドを体系化しやすく、作者にとっても興味・関心を抱きやすいトピックであるため、どうしても中心トピックとなりがちです。そして、それらの創作指南本ではまるでプロットとキャラクターが別モノであるかのような解説がなされています。

 しかし、マッキーによればプロットとキャラクターは「等しいもの」です。この画期的な考え方は、のちの創作指南本に大きな影響を与えました。例えば、K.M.ワイランド著『キャラクターからつくる物語創作再入門』には、次のように書かれています。

 物語を作る時、人物とプロットを分けて考える人は多いでしょう。すると、プロットの運びを重視したい局面で、人物の心情を二の次にする時も出てきます。でも、プロットと人物は一心同体。どちらか一つをおろそかにすればストーリーは危機に陥ります(また、両者を切り離して考えるだけでも危険です)。プロットだけが褒められる作品、あるいは人物像だけが褒められる作品は書けるかもしれません。しかし、総合的に素晴らしいまとまりがある作品は書けるでしょうか。

 プロットの構成を考える人はたくさんいますが、登場人物とそのアークに対する意識は曖昧になりがちです。というのも、人物を素直に描いていけば心情の移り変わりは自然に表れるはずですから。「キャラクターの内面の変化や成長の推移も構成して下さい」と言われたら、物語を書くのもなんだか窮屈に感じられそうです。確かに、そうです。内面の移り変わりまで考える必要はなさそうですよね。

 実は、それは誤解なのです。「プロットと人物は一心同体」というのはプロットの「構成」と人物の「アーク」が一体だということ。ロバート・マッキーの名著『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』(越前敏弥訳、フィルムアート社)にはこうあります。


 構成と登場人物のどちらが重要かという問いには意味がない。というのも、構成が登場人物を形作り、登場人物が構成を形作るからだ。このふたつは等しいものであり、どちらが重要ということはない。


――K.M.ワイランド著『キャラクターからつくる物語創作再入門』

「ふたつは等しいもの」、つまり「構成が登場人物を形作り、登場人物が構成を形作る」というマッキーの発言は、「キャラクター・アーク」という概念で理解することができます。主人公は物語の前後を通じて変化を遂げます。例えば冒頭で欠点を抱えていた主人公がラストでそれを克服する、というように。この変化のことを「キャラクター・アーク」といいます。そして、「キャラクター・アーク」は物語の構成と分かちがたく結びついています。三幕構成にはプロットポイントやミッドポイントなど、いくつかの上の重要なポイントがありますが。それらは単に重要な出来事が起こる(例:ミッドポイントでタイタニック号が氷山にぶつかる)だけでなく、そこで主人公が何かに気づいたり、変化を遂げたりするのです。つまり、プロットとキャラクターは同じものといえるのです。

 起承転結や序破急、三幕構成など、物語の「型」はいくつか存在しますが、これらのテンプレートを単なるプロット構築のためだけに使うのではなく、キャラクターの変化を描くためにも使うことが大事であるとロバート・マッキーは教えてくれているのです。


③ ストーリーの技巧はこれから学ぶことができる


 要点①で解説したように、本書ではストーリーの本質(=「ストーリーとは何か」)について、ストーリーを構成する諸要素に分解して、徹底的に掘り下げています。同時に、本書ではストーリーの「技巧」の重要性についても解説しています。

 繰り返しになりますが、「文才」と「ストーリーの才能」は別物です。作家にとって何より必要なのは「ストーリーの才能」つまりストーリーを巧みに語るための技巧を身に付けることです。「才能」と聞くと、どうしても「天賦のもの」のようなイメージを持ってしまいますが、マッキーによれば「技巧」はあとから学ぶことができます。本書でマッキーは、技巧を学ぶことなくストーリーを書き始める人が多いことを嘆いています。

 全米脚本家組合の脚本登録サービスには、年間三万五千本以上のエントリーがある。これは登録数であり、全米で書かれる脚本の数はおそらく年に何十万本にものぼるだろうが、良質なものはごくわずかだ。理由はいろいろあるが、いちばん大きいのは、昨今の脚本家志望者が、技巧を学びもせずに、いきなり書きはじめることだ。

作曲を夢見る人が、はたしてこんなことをつぶやくだろうか――「交響曲はたくさん聴いた……ピアノも弾ける……よし、今週末に一曲作ってみよう」。そんなことはありえない。だが、脚本となると、まさにこんなふうに書きはじめる輩が多い――「映画は傑作も駄作もたくさん観た……国語の成績はAだったな……そろそろ休暇がはじまるし……」。

 作曲がしたければ、音楽学校へ進んで理論と実践を学び、交響曲の勉強に力を入れるだろう。何年も努力を積み、知識と創造力を融合させ、自分を奮い立たせ、それからようやく作曲に乗り出す。すぐれた脚本を書くのは交響曲の作曲と同じくらいむずかしいが、それがわかっていない書き手があまりにも多い。ある意味では、シナリオのほうがむずかしいとも言える。作曲家が純粋に数学的な音符を使って楽譜を書くのに対し、脚本家は人間性というとらえどころのないものと向き合わなくてはならないからだ。

――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』

 上記の引用はあくまで映画脚本の事例ですが、小説の場合でも同様のことがいえます。紙とペン(今ならPCやスマホ)さえあれば、誰でも文章を書くことができます。たくさんの本を読み、文章を書いてきた人であれば「自分にも小説が書ける」と思ってしまうのは無理もありません。ただここで重要なのは、そのような人が書いた文章が果たして「ストーリーといえるのかどうか」ということです。ストーリーは単なる出来事の連続ではありません。古今東西の優れたストーリーには普遍的な「型」があります。読者や観客を惹きつけるストーリーを書くためには、ストーリーに関する知識や技巧を身に付けることが最短の道なのです。

 作曲家が楽理に通じていなくてはならないように、脚本家はストーリー構築の原理を習得していなくてはならない。この技巧は機械的な技術でも安易な仕掛けでもない。それはあらゆる技術を調和させたもので、うまくいけば観客と一体となっておもしろいものを生み出せる。技巧というものは、観客を深く引きこんで離さず、つまるところ、感動や意義深い経験を提供するためのさまざまな手法の総和である。

 技巧を持たない脚本家にできるのは、せいぜい最初に浮かんだアイディアを頭から引っ張り出すくらいで、あとは自分の作品を前に、なす術もなく坐して、恐ろしい問いかけをみずからにぶつける。これはよい作品なのか? それともクズなのか? クズだとしたら、どうすればいい? この恐ろしい自問に取りつかれると、意識が潜在意識を封じこめる。けれども、技巧の実践という客観的な作業へ意識を向けておけば、自発性がおのずと浮かび

 あがる。技巧を習得することで、潜在意識が解き放たれるわけだ。

――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』

 マッキーはたびたび作曲を例に出し、ストーリーの知識と技巧の習得の必要性を説きます。文章を書くという行為は我々にとってあまりに身近な行為であるがゆえに、これ以上「何かを学ぶ必要はない(=日本語なら書ける)」と思ってしまいがちです。しかし「ストーリーを書く」ためには、作曲をすることを同様に、知識も技術も必要です。ただの文字列を書くこととストーリーを書くことはまったくの別物だからです。

 小説の執筆はとても孤独な作業です。執筆の途中で、あるいは推敲の過程で「自分の作品はこれでよいのだろうか」と悩むことがあると思います。自分の直感だけでストーリーを書いていると、その悩みを解決するのは困難です。しかし、ストーリーの知識や技巧についての知識があれば、それらをチェックリストのように使うことができ、客観的に自分の作品の評価をすることができます。

 技術的なことについて言わせてもらうと、未熟な脚本家が技巧と思いこんでいるものは、それまでに出会った小説や映画や演劇から知らず識らず吸収したストーリーの諸要素にすぎない。そして、それまでの読書や鑑賞から作りあげたモデルに照らし合わせて、試行錯誤しながら書いているわけだ。訓練を受けていない書き手はそれを「直感」と呼ぶが、実は単なる癖でしかなく、むしろ大きな妨げになっている。彼らは頭のなかの手本を真似るか、自分が前衛作家だと思いこんで、それに抗う。けれども、無意識のうちに繰り返して根づいたものに、気まぐれに頼ったり刃向かったりしても、そんなものはとうてい技術とは言えず、さまざまな商業映画や芸術映画に見られるクリシェが詰まった脚本ができあがるだけだ。

――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』

 小説を書きたいと思っている人は、たくさんの小説を読み・分析し、自分なりに「こうすればあの小説のようなものが書ける」という感触を持っているはずです。しかし、ストーリーの原則や技巧に関する知識を持たないままそれらをつぎはぎしても、表面上をなぞっただけの「よく似た何か」が出来上がるだけです。

 マッキーは本書で、ストーリーの技巧を身に付けることの重要性を繰り返し説くとともに、技巧の中身についてもじっくりと解説しています。繰り返しになりますが、何より重要なのは「技巧はこれから身に付けることができる」ということ、つまり努力で身に付けることができるということです。


マッキーの名言を紹介しましょう。


「芸術家はけっして衝動にまかせて創作したりしない。意図的に技巧を用いて、直感とアイディアの調和を生み出すのである」


 以上、今回は『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』を3つの要点で解説してきました。本書が「物語創作のバイブル」と呼ばれている理由がわかっていただけたのではないでしょうか。

 最後に、本書が論じていることをマッキーが簡潔に8つの文章でまとめていますので紹介しておきます。


本書で論じるのは原則であって、ルールではない。

本書で論じるのは永遠に変わらない普遍的な型であって、公式ではない。

本書で論じるのは元型であって、紋切り型ではない。

本書で論じるのは現実であって、執筆にまつわる種明かしではない。

本書で論じるのは綿密さであって、近道ではない。

本書で論じるのは技術の習得であって、市場の予測ではない。

本書で論じるのは観客へのリスペクトであって、侮蔑ではない。

本書で論じるのは独創性であって、模倣ではない。



【目次】


謝辞

本書の概要


第1部 脚本家とストーリーの技術

イントロダクション

1 ストーリーの問題


第2部 ストーリーの諸要素

2 構成の概略

3 構成と設定

4 構成とジャンル

5 構成と登場人物

6 構成と意味


第3部 ストーリー設計の原則

7 ストーリーの本質

8 契機事件

9 幕の設計

10 シーンの設計

11 シーンの分析

12 編成

13 重大局面、クライマックス、解決


第4部 脚本の執筆

14 敵対する力の原則

15 明瞭化

16 問題と解決策

17 登場人物

18 ことばの選択

19 脚本家の創作術

フェードアウト


推薦図書

フィルモグラフィー

解説

訳者あとがき


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